□SHBR01□Brexitで現在何が起こっているのか「議会によるBrexitプロセスの奪取と議会の休会」 岩村浩幸(2019/09/13)

Brexitで現在何が起こっているのか
議会によるBrexitプロセスの奪取と議会の休会

アシャースト法律事務所(Ashurst LLP)

英国弁護士/ニューヨーク州・ニュージャージー州弁護士 岩 村 浩 幸

 

 前回執筆時から一週間程経っているが、その間にイギリス国内ではBrexitに関しては様々な出来事があった。

 まず一番重要なトピックとしては、9月9日にEuropean Union (Withdrawal) (No. 2) Act 2019(以下「新EU離脱法」という)が制定されたことが挙げられる。英国では、諸外国との交渉については基本的には政府に権限があり、これまでのメイ前首相の下でのEUとのBrexitに関する交渉も、メイ前首相の率いる政府のチームが交渉を行い、その結果を議会にかけるというプロセスであり、交渉の具体的な内容については基本的には政府が決定することができた。新EU離脱法の下では、議会は政府に対して、10月19日までにEUとの離脱合意を締結して議会からの承認を得ることを求めているが、もしそれが達成できなかった場合には10月31日までに議会が決めた文言に基づいて首相がEUに対してEUからの離脱日を2020年1月31日に延長することを求めるレターを送り、EUがその延長要請に応じた際には延長に合意しなければならないとしている。このように具体的なアクションや政府がEUに対してどのような要請をするかなどの具体的な内容についての指示を議会が政府にすることは英国では極めて稀な事である。

 議会が政府をコントロールしようとするこのような動きに対して、ジョンソン首相は9月4日と9月10日の二度にわたり議会に解散動議を提出し、10月15日に総選挙を行うことを提案したが、二度とも必要となる賛成票を議員から得られず、動議は否決されている。英国では2011年に制定されたFixed-term Parliaments Act 2011(以下「FTPA2011」という)の下で、 選挙は前回の総選挙の5年後の5月の最初の木曜日に行われると定められており、例外は下院議員の三分の二以上が解散に賛成するか、または内閣不信任決議が可決された場合とされている。FTPA2011で認められている一つの方法の下で下院議員からの十分な賛成が得られなかったジョンソン首相は、もう一つの方法での解散を実現するために、自分に近い議員に依頼をして内閣不信任決議案を提出することを検討していると噂されている(内閣不信任決議案はどの議員でも提出できる)。不信任決議が可決されるためには議会の過半数の賛成を得るだけで良いために、議員の三分の二以上の賛成が必要なもう一つの方法よりはハードルが低いとの考えからこのような案が検討されているが、下院での議席数が過半数を割っているジョンソン首相が率いる保守党の議員だけの得票で不信任案決議が可決されることはできない上に、他党の議員が賛成する可能性も低いことから、この施策も実現する可能性は低いとみられている。そのため現状では10月31日よりも前に総選挙が行われる可能性は低く、行われるとしても離脱日の2020年1月31日までの延長がEUと合意された後であると考えられている。

 このような状況の中、英国の議会は9月10日より10月14日までの休会(prorogation)に入っている。新しい内閣が発足された際にこのように議会が短期的に休会されることは珍しいことではないが、Brexitが迫っているこのタイミングで議会が長期間休会されることに対しては、多くの国民や議員から非難の声が上がっている。スコットランドでは今回の休会に反対する議員が訴訟を起こし、一審では政府が勝訴したが高等裁判所では議員側が勝訴しており、9月17日には英国最高裁判所での審理が予定されている。そこで政府が敗訴した場合には休会が覆される可能性もある。

 これらの様々なイベントが実際に日系企業に与える具体的な影響であるが、実質的には状況はあまり変わっていないと考えられる。前回の記事でも書いた通り、ジョンソン首相が取ろうとしていた引き延ばし戦術は想定通り議会や裁判所におけるハードルをすんなりと超えることができなかったことから、英国政府は10月31日の離脱日の延長をEUに提案することが法律の下で求められることとなった。このままの状況が続いた場合は、10月後半に英国が離脱延長の要請をEUに提出し、それが受け入れられて2020年1月31日まで離脱日が延長される可能性が高い。しかしながら、通常では考えにくいとは言え、ジョンソン首相が議会や裁判所の命令を無視するなどして、強引に10月31日の合意なき離脱を達成しようと画策する可能性はある上に、EU側も三度目となる延期の要請を承認しない加盟国が出てくる可能性も否定できないため(全27か国の合意が延長には必要)、この先も当面の間は合意なき離脱のリスクが残っているという前提での対応を検討することが日系企業においては必要であろう。

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