□(プレミアム会員限定)Brexitで現在何が起こっているのか 岩村浩幸(2020/04/17更新)

Brexitで現在何が起こっているのか

アシャースト法律事務所(Ashurst LLP)

英国弁護士/ニューヨーク州・ニュージャージー州弁護士 岩 村 浩 幸

 

  1. □ SHBR05「Brexitアップデート」 岩村浩幸(2020/04/17) NEW 
  2. □ SHBR04「EU離脱に関する英国による新しい提案」 岩村浩幸(2019/10/07)
  3. □ SHBR03「英国議会の休会に関する英国最高裁判所の判決」 岩村浩幸(2019/10/01)
  4. □ SHBR02「現在のEU法の枠組みとBrexitによる英国法への全般的な影響」 岩村浩幸(2019/09/26)
  5. □ SHBR01「議会によるBrexitプロセスの奪取と議会の休会」 岩村浩幸(2019/09/13)

 

現在のEU法の枠組みとBrexitによる英国法への全般的な影響

1 はじめに

 英国のEU離脱(以下「Brexit」という。)が日系企業のビジネスに与える法的影響を理解するためには、現在の英国とEUの法体系を理解することが重要である。本記事では、現在の英国・EUの法体系の概要とBrexitがこれらの法律について与える影響を解説する。

 

2 EUにおける法体系と英国におけるEU法の影響

(1) EUにおける法体系

 EUは、加盟国(現在英国を含む28ヵ国)がEU条約(The Treaty on European Union)とEU運営条約(Treaty on the Functioning of the European Union)を結ぶことで創設された超国家的な組織である。組織の基本的な体制は通常の国家を模し、加盟国の首脳により構成される欧州理事会(EU首脳会議、The European Council)、加盟国の閣僚級担当者からなりEUの立法や加盟国間の調整を行うEU理事会(閣僚理事会、Council of the European Union)、直接選挙で選ばれた加盟国の代表者からなる欧州議会(European Parliament)、法案の提出と制定後の執行を司る欧州委員会(European Commission)、EU法に関する判断を行う裁判所であるEU司法裁判所(Court of Justice of the European Union、以下「CJEU」という。)などが主たる機関として設けられている。

 法律に関しては、制定法と判例法の2種類がEUの主要な法律である。制定法には、加盟国で直接効力を有する規則(Regulation)と、加盟国が国内法を制定して初めて効力を有する指令(Directive)の2種類がある。制定法の成立過程は、通常は、欧州委員会が法案を作成し、EU理事会と欧州議会がそれぞれにおいて審議・コメントした後に、これらの3機関の間で協議が行われた上で、最終的な規定が決定されるというものである。実施規則など、欧州委員会が直接決定する権限を所有しているものもある。判例法については、加盟国の裁判所においてEU法に関わる問題が発生した際には、加盟国裁判所は当該問題をCJEUに付託する。CJEUによってなされた判決は判例法となり、当該EU法に関しては全ての加盟国においてその判例法が効力を有することになる。これらのEUの制定法・判例法は各加盟国の法律に優先する原則があり(supremacy of EU law、以下「EU法優先の原則」という。)、矛盾する国内法は無効・違法であるとみなされる。

 重要な点としては、原則として、人、物、資本、サービスの4つの自由に影響を与える規制や通商政策に関わるものなど、EUの目的を達成するために必要な法律だけがEUの法律として制定されていることである。例えば、加盟国間で物に関する異なる規制があると、物の移動の自由というEUの原則の実現が阻害されるために、このような問題に関してはEUレベルで法律が制定され、加盟国に直接的(規則)または間接的(指令)にEUの法律が適用される。また、雇用に関する法律が大きく異なると、EU加盟国民が他の加盟国に移動して就業することができるという、人の移動の自由の原則が制限されるために、ある特定の事項に関してはEUの法律が設けられているが、反面雇用に関する問題は各国において非常に政治的な問題でもあるために、法律が制定される際も多くの場合は「指令」を通じてなされることで、最終的な法律は各加盟国の裁量をできる限り認めることが一般的である。また、EUに授与されていない権限は加盟国にとどまるため、各加盟国が自由に法律を制定できる。例えば、ビジネスに関係する法律では、一般的な契約、不動産の売買、国内の訴訟の手続きなどに関しては、EUの目的の達成とはあまり関係のない事項であるために、通常各加盟国の国内法が直接的に企業に適用される。

(2) 英国におけるEU法の影響

 英国は法制度上、EUの法律を国内法に受け入れるにあたっては、その旨を記載した法律を制定することが必要であった。そのため、英国議会はEU(当時は欧州共同体:EC)に加盟した際に1972年欧州共同体法(European Communities Act 1972、以下「ECA1972」という。)を制定している。ECA1972の下では、EUの規則が英国内で直接効果を持つこと、EUの指令が国内で効力を持つために必要となる法律を制定すること、およびEUの裁判所などの決定を尊重しなければならないことが記載されており、英国の法制度の下では、ECA1972が存在することで初めて英国においてEUの様々な法律の効力が生じることになる。

 英国の法律も制定法と判例法から構成されているが、上述の通り、英国の法律においてEUの法律の影響を直接受けている分野は、EUの原則の実現に関わる分野に限定されている。そのため、例えば、雇用に関する法律(産休、週当たり労働時間の上限、契約社員など)や製品の基準に関する法律については、EU加盟国間での法制度が違うことがEUの原則を妨げるという考え方からEUの指令・規則が制定され、それに基づきEU加盟国の国内法が制定されてきたが、企業が日々締結している取引先との契約(例えば、製品の売買契約やサービスの提供に関する契約)の条文の解釈などについてはEU法の影響はほとんどない。判例法を日々作り出している裁判に関しても、前述の通りEU法の問題が発生した場合にはCJEUにその判断を付託することになるが、それ以外の国内法の問題については英国の裁判所により判断がなされ、英国の最高裁判所(Supreme Court)による判断が最終のものとなる。

 

3 ブレグジットによる影響

 英国がEUを離脱すると、具体的には以下の2つの事象が起こることによって、EUの法律が英国では適用されなくなる。1つ目は、英国がEU条約とEU運営条約から脱退することである。これにより英国はEUレベルで制定される法律などのルールに従うことが求められなくなる。2つ目が、ECA1972の廃止である。EU法の下で求められる様々な義務が直接英国で効力が発揮されることや国内法にするための手続きが取られる根拠となっていた法律であるECA1972が廃止されることにより、EU法の効力が英国内では失われることとなるうえに、EU法に関する問題が英国の裁判所からCJEUへと付託されることもなくなる。

 EUが設立されてから数十年が経ち、英国では、広範囲にわたる様々な法律にEU法が影響を与えている。そのため、英国とEUの間で何も合意が無いままBrexitが起こった場合には、これらのEU法の適用が英国で突然無くなってしまうために、非常に大きな問題が発生することとなる。

 このような事態を防ぐために、英国では、Brexitのタイミングで、英国で有効な全てのEUの規則、指令、判例などは英国国内法に変換されたうえで効果が継続すると規定した、2018年EU離脱法(European Union (Withdrawal) Act 2018)を制定されている。2018年EU離脱法ではさらに、EU条約により個人に与えられた一部の権利の保護、英国裁判所がブレグジットまでに出したEU法に関する判決がブレグジット後も有効であること、CJEUがブレグジットまでに出した判決は英国最高裁判所の判決と同様の位置づけとなること(すなわち相反する判決は英国最高裁判所のみが出せることとなる)、なども記載されている。また、ブレグジット以降に制定された法律にはEU法優先の原則が適用されないこと、英国裁判所はブレグジット以降に出されたCJEUの判決に従う必要がないこと(考慮することは許される)とEU法の問題を付託する必要がないことなども述べられている。

 2018年EU離脱法は英国国内におけるEU法の継続性の担保という点では重要な法律ではある。しかし、EUの他の加盟国においてビジネスを行っている日系企業にとってはこれだけでは十分な解決策とはならないことに注意すべきである。例えばEUの個人情報保護に関する規則であるGDPRでは、EU域内に拠点を持たないにも関わらずGDPRの適用がある企業は、EU域内に代理人(Representative)を任命しなければならないとされている。しかし、ブレグジット以降は英国はEU加盟国ではなくなるために、GDPRの下では(1) 英国の企業にGDPRの適用がある場合には、他のEU加盟国に代理人を置くことが求められる、(2) 代理人を英国においていた企業は他のEU加盟国で代理人を任命することが求められる、(3) 英国の国内法となるGDPRの下で代理人を任命する際には他のEU加盟国ではなく英国国内に代理人を置くことが求められる、などの対応を検討することが必要となる。製品基準などに関する法律においても類似の問題が発生する可能性は非常に高いために注意が必要である。

 

4 まとめ

 英国とEUにまたがるビジネスを行っている企業においては、自社のビジネスや製品に関してEUのどのような法律が適用されるかを洗い出すことが非常に重要であると考える。そのような法律を明らかにしたうえで、現在法律のコンプライアンスにおいてどのような対応策を取っているのか、その対応策がBrexitにおいて影響を受ける可能性があるのかを分析し、必要に応じて対策を検討することが非常に重要である。

 

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