◆SH2721◆弁護士の就職と転職Q&A Q89「パートナー中途採用はどこに基準が置かれているか?」 西田 章(2019/08/19)

弁護士の就職と転職Q&A

Q89「パートナー中途採用はどこに基準が置かれているか?」

西田法律事務所・西田法務研究所代表

弁護士 西 田   章

 

 企業を依頼者とする弁護士業務を続けるに際して、「独立してひとり事務所で細々と」という選択肢が採りにくくなって来ています。依頼者企業の担当者から「おひとりで事務所をされるなんて大変じゃないですか?」と言葉をかけられたら、それは「複数名で組織的に業務をしてくれないと、依頼するにも社内的に説明しづらくて困る」という心理から来ていることもあります。そのため、10年超の経験を持つ弁護士にとっては、「パートナー格の人材市場」への関心が高まっています。

 

1 問題の所在

 法律事務所にとって、「パートナーの採用」は、「アソシエイトの採用」よりも、より慎重に検討しなければならない要素があることは当然ですが、「アソシエイトの採用」よりも簡単に決まる場合もあります。

 経営が順調である共同事務所にとってみれば、敢えて、パートナー会議での「議決権」又は「発言権」を持ち、利益分配の権利を持つパートナーという立場に、「余所者」を迎え入れるリスクを取る必要はありません。時間をかけてアソシエイトを教育できているならば、仕事振りも性格もわかったシニア・アソシエイトをパートナーに昇進させるほうが無難です(そうでなければ、優秀なアソシエイトに「所属事務所でパートナーを目指そう」という動機付けを損なうリスクすら生じます)。そのため、「パートナーの中途採用」は、「内部育成ではカバーできない新規分野の開拓」の場面等に限られます(事務所経営の戦略面から生まれたニーズではなく、代表弁護士等の信頼に基づく「コネ採用」が行われる場合もありますが)。

 他方、財布を分けたまま、単に経費(主として家賃)を分担するパートナーの集まりに過ぎない共同事務所であれば、「パートナー=家賃を納めてくれる経費負担者」であり、「特に一緒に仕事をするわけではない」という前提が加われば、アパート経営者が賃借人を選ぶように、「特に変な人でなければ、所定の経費さえ納めてくれたら、(弁護士過誤や懲戒の問題さえなければ)どんな弁護士であっても細かいことは気にしない」ということもあります。

 また、近時では、新興の法律事務所が、実質的には「シニア・アソシエイトの採用」を考えているにも関わらず、候補者を勧誘するツールとして「パートナーの肩書き」を提供する場面も見られるようになってきました(事務所側が過去に事務所を同じくしていた等の事情で候補者の能力と性格を知った上で成立する場面に限らず、見ず知らずの候補者に「パートナー」の肩書きを提供して採用する事例も現れています)。

 理念的に言えば、「パートナー」とは、「職人としての腕が一人前」であり、「経済的にも自立できる」ことが求められますが、採用時点で求められる、その達成度合いは、採用する事務所側の事情によって異なってきます。

 

2 対応指針

 「パートナー」の要件を、抽象的に「職人としての腕が一人前」であり、かつ、「経済的にも自立できる」と置いたとしても、入口段階で両方を100%満たしている人ばかりではありません。

 方法論としては、(A)先に、職人としての腕が相応に信頼できることを、「免許皆伝」な、お墨付きとして「パートナー昇進」という形で表してもらった上で、「パートナー」という肩書きを得た後に(当初はアソシエイトのように所内下請けにも従事しながら)徐々に自ら元請けとなって外部から仕事を引っ張ってくる経済力を身に付けていく、という「職人的技能先行型」が王道と考えられていますが、(B)早期に依頼者から直接に自分で仕事を受けるようになり、案件を自らの裁量で処理していく中で、必要な知識をその都度、補充していく「経済的自立先行型」の中にも優秀なパートナーに育った実例は(創業者世代を含めて)存在しています。

 パートナーの要件には、「腕」と「経済力」の他に、「事務所とのカルチャーフィットを損なわないこと」も、消極要件として存在します(M&AにおいてPMIが重要なのと同様です)。そのため、採用から一定期間(例えば1年間)は、カウンセル的なポストで受け入れて、この点を確認した上でパートナーに昇進させる事例も見られます。

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(にしだ・あきら)

✉ akira@nishida.me

1972年東京生まれ。1991年東京都立西高等学校卒業・早稲田大学法学部入学、1994年司法試験合格、1995年東京大学大学院法学政治学研究科修士課程(研究者養成コース)入学、1997年同修士課程修了・司法研修所入所(第51期)。

1999年長島・大野法律事務所(現在の長島・大野・常松法律事務所)入所、2002年経済産業省(経済産業政策局産業組織課 課長補佐)へ出向、2004年日本銀行(金融市場局・決済機構局 法務主幹)へ出向。

2006年長島・大野・常松法律事務所を退所し、西田法律事務所を設立、2007年有料職業紹介事業の許可を受け、西田法務研究所を設立。現在西田法律事務所・西田法務研究所代表。

著書:『弁護士の就職と転職』(商事法務、2007)




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