◆SH2705◆コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(183)コンプライアンス経営のまとめ⑯ 岩倉秀雄(2019/08/02)

コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(183)

―コンプライアンス経営のまとめ⑯―

経営倫理実践研究センターフェロー

岩 倉 秀 雄

 

 前回は、平成の食中毒事件と牛肉偽装事件の概要についてまとめた。

 雪印乳業(株)は、平成12年(2000年)、診定患者数1万3,420人に上る大規模食中毒事件を発生させ、ずさんな衛生管理が報道されて、消費者・流通の信用を失い、売り上げは大幅に落ちたが、信頼回復努力を重ね、一時売り上げは回復基調にあったものの、2年後の雪印食品(株)による国の補助金をだまし取ろうとした牛肉偽装事件の発覚により、決定的に社会的信用を失った。

 これにより、雪印乳業(株)は再建計画を断念、農林中金・全農等から資本導入、全農・全酪連との合弁による市乳専門の合併会社の設立、事業の売却・提携・再編、大幅人員削減等を骨子とする新経営再建計画を公表し、食中毒事件後就任した西社長以下取締役全員が退任した。

 食中毒事件の問題点は、(1)情報開示の遅れと報道対応の不手際、(2)事件の原因特定に至るまでに時間がかかったことが指摘されているが、より具体的には、(1)大樹工場における①事故発生時の作業ルールの不備、②製造記録の不備、③杜撰な衛生管理、④殺菌神話、⑤規格外品の使用、(2)大阪工場における①日報の記載・訂正方法の不適切、②逆止弁の洗浄・分解不足、③仮設ホースの配管・洗浄不良、記録不十分、④屋外での調合作業、⑤再生品の再利用、⑥加工乳の再生品を加工乳の原料として再利用したこと等の他に、(3)経営幹部の記者会見での不用意な発言、①公表遅れへの回答による被害拡大防止意識の欠如の露呈、②乳糖不耐症に関する幹部の人種差別的発言、③社長の「工場長それは本当か」、「寝てないんだ」発言等が、メディアにより繰り返し報道され、組織が信用を失ったこと等、がある。

 今回、事故が事件化した本質的な原因は、同社が長年の成功により創業時の酪連精神を風化させ、八雲工場脱脂粉乳食中毒事件の教訓を忘れるという「成功のパラドクス」に陥ったことにあると思われる。    

 今回は、雪印乳業(株)が食中毒事件後と牛肉偽装事件後に実施した、それぞれの信頼回復策をまとめる。

 

【コンプライアンス経営のまとめ⑯:食中毒事件と牛肉偽装事件⑤】

 雪印乳業(株)は、事件後の信頼回復施策として以下の施策を実施した。

 食中毒事件後の施策は、「事件を品質事故ととらえ、主としてハード面の対策に重点を置いた」が、牛肉偽装事件後は、「不祥事の発生を組織文化に起因する」ものと受け止め、ガバナンスや組織体質を改革し、コンプライアンスを組織文化に浸透させようとした。

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(いわくら・ひでお)

経営倫理実践研究センターフェロー、日本経営倫理士協会主任フェロー研究員。

1976年北海道大学農学部卒、全国酪農業協同組合連合会(全酪連)に入会し、全酪連乳業統合準備室長兼日本ミルクコミュニティ(株)設立準備委員会事務局次長、日本ミルクコミュニティ初代コンプライアンス部長。雪印メグミルク(株)社史編纂室で、『日本ミルクコミュニティ史』と『雪印乳業史第7巻』を編纂(共著)し、2016年10月よりCSR部に異動。2017年同社を退職して「社会経営研究所」(個人事務所)を設立。

青山学院大学大学院修士課程修了、雪印メグミルク(株)時代に、一橋大学大学院国際企業戦略研究科経営法務コース博士後期課程を単位取得退学。

 

なお、業務の傍ら、トライアスロンの草創期にハワイ等のアイアンマンレースを3回完走し、日本トライアスロン協会理事長に就任、競技の普及に努めた。