◆SH2696◆弁護士の就職と転職Q&A Q87「法律事務所に『後継者育成』を求められるか?」 西田 章(2019/07/29)

弁護士の就職と転職Q&A

Q87「法律事務所に『後継者育成』を求められるか?」

西田法律事務所・西田法務研究所代表

弁護士 西 田   章

 

 法律事務所の「退職者にどんな弁護士がいるか?」を洗い出していると、「これら卒業生がすべて事務所に残っていたら、すごく良い事務所だっただろうに……」と思わされる、「人材輩出事務所」がいくつかあります。これら事例からは、40歳代で、営業面では企業からの信頼を得て活躍をするスタープレイヤーになることができても、「後継者を育てる」という面ではまた別の才能やスキルが求められていたんだなと感じさせられます。

 

1 問題の所在

 伝統的には、法律事務所は、「イソ弁としての修行を積ませてもらい、一人でも案件を回せるようになったら、独立する」「独立して『一国一城の主』になってこそ一人前」というキャリアモデルが王道とされていました。共同事務所が広がり、「所属事務所でパートナーに昇格する」というモデルも市民権を得てきたとはいえ、油断すると、「自ら売上げを立てられる弁護士は独立し、売上げを立てられない弁護士だけが滞留する」という傾向は依然として存在します。

 「日本最高の事務所を作る」というような理想を掲げるならば、本来的には、一から事務所を立ち上げるよりも、既存の事務所のインフラを活用して、これを発展させることに取り組む方が、事務所の人的及び物的設備を整える面においても、顧客基盤を維持する面においても、採用面における優位性を保つ面においても、効果的なように思われます。しかし、現実には、「稼げる弁護士」であるほどに、所属事務所に対して、「自分の売上げに見合った配分を得られていない」とか「能力不足のパートナーや職員と一緒に仕事を続けたくない」とか「コンフリクトが案件獲得に支障になる」という不満を抱えがちであり、「だったら、負の遺産を引き継がないためにも、ゼロから事務所を作り上げたほうが手取り早い」という方向に意識が向かいます。

 ただ、最近では、そのような問題意識を持った創業メンバーによって設立された事務所でも、皮肉なことに、そこで採用されて育った第二世代から同じような不満を抱かれることとなり、さらなる分裂を生む、という展開が起こりがちになっています。コーポレートガバナンス・コードには、「後継者計画の策定・運用への関与、後継者候補の計画的な育成の監督」(補充原則4-2③)が掲げられており、弁護士はそれに助言すべき立場にありながらも、自らの事務所の後継者問題については何も進歩が見られない、「医者の不養生」とも言える状況が続いています。これには、「既存クライアントをメンテナンスしている番頭役と、新規顧客を開拓できる営業力ある弁護士のどちらが優遇すべきか」という哲学的な問題を背景として、「弁護士業務は設備投資が要らないので、売上げを立てられる弁護士には独立が現実的な選択肢になる」という事情も絡んで画一的な解を見出すことができていません。

 

2 対応指針

 抽象的に言えば、「営業力がある若手パートナーに(経営陣を批判する『野党』の立場ではなく)『与党』の一員としての意識を持ってもらうためにはどうすればいいか?」という課題を設定することができます。最も端的な方法としては、経営陣批判をする若手パートナーであっても、優秀ならば、権限の一部を委譲して、経営の意思決定を担う執行部の一員に招き入れることが考えられます。ただ、この場合は、組織体としての継続性を維持することはできても、第二世代の執行部の意向によっては、創業者の意思やDNAが排除されていくリスクも受け入れなければなりません。

 中長期的な視点からは、「事務所を中途採用者ばかりの寄せ集め所帯にしない」ということは多くの事務所が意識しているところです。事務所設立当時は、「新人を教育しているだけの余裕がない」のが通例ですが、「即戦力の中途採用者には愛社精神が乏しい」「他により条件がよい先があれば、躊躇なく辞めてしまう」というリスクの認識は必要です。その点、新卒には、「教育コスト」が必要となりますが、それを乗り超えてパートナーにまで育て上げることができれば、そのような「生え抜きパートナー」に対しては、「自分を育ててもらった恩義がある」という「御恩と奉公」的な発想に基づく「与党意識」を期待しやすい面があります。

 短期的に問題を解決できる処方箋がないことを前提として、(問題が深刻化する前の早い段階から)次世代を担うパートナーと情報交換や意見交換を行うことが、とりあえず、採りうる現実的な対応策となりそうです(分裂や独立の計画にも相応の日数を要するために、その計画が煮詰まる前に、不満分子に対して、現事務所における改善策も並行して考えてもらえるように仕向けることが分裂を防ぐこともあります)。

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(にしだ・あきら)

✉ akira@nishida.me

1972年東京生まれ。1991年東京都立西高等学校卒業・早稲田大学法学部入学、1994年司法試験合格、1995年東京大学大学院法学政治学研究科修士課程(研究者養成コース)入学、1997年同修士課程修了・司法研修所入所(第51期)。

1999年長島・大野法律事務所(現在の長島・大野・常松法律事務所)入所、2002年経済産業省(経済産業政策局産業組織課 課長補佐)へ出向、2004年日本銀行(金融市場局・決済機構局 法務主幹)へ出向。

2006年長島・大野・常松法律事務所を退所し、西田法律事務所を設立、2007年有料職業紹介事業の許可を受け、西田法務研究所を設立。現在西田法律事務所・西田法務研究所代表。

著書:『弁護士の就職と転職』(商事法務、2007)




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