◆SH2608◆弁護士の就職と転職Q&A Q82「インハウス出身が社外役員を狙うのも『あり』か?」 西田 章(2019/06/17)

弁護士の就職と転職Q&A

Q82「インハウス出身が社外役員を狙うのも『あり』か?」

西田法律事務所・西田法務研究所代表

弁護士 西 田   章

 

 6月3日に公表された、金融審議会の市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」に対しては、「夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの無職の世帯では毎月の不足額の平均は約5万円であり、まだ20~30年の人生があるとすれば、不足額の総額は単純計算で1,300~2,000万円になる」という表現が、国会審議における野党からの攻撃対象となり、麻生太郎金融担当大臣が報告書を受け取らないという事態にまで発展しました。ただ、この報告書の分析内容自体を批判している弁護士は私の周囲には見当たらず、むしろ、社内弁護士たちは、その分析を前提として、「やはり、定年以降の収入源を確保しておきたい」という方向に思考を向けています。中でも、「定年後に社外役員に就任する」というプランの実現可能性を探る方が増えています。

 

1 問題の所在

 伝統的には、弁護士という職業には、「自由・独立」と「定年がない」という2つの魅力があると言われてきました。会社の指揮命令系統に組み込まれながらも、精神的な意味での「自由・独立」を維持しようと挑んでいる社内弁護士はいますが、定年制度は受け入れざるを得ません。定年後の進路について、「再雇用してもらうか?」「新興企業の法務担当に就職するか?」というアイディアもありえますが、執行部を支える管理部門を担う次世代が育っていれば、邪魔者扱いされてしまうリスクもあります。「それでは、法律事務所に移籍するか?」と言っても、プライベート・プラクティスで食べていくだけの自信もありません。その点、社外取締役又は監査役の職責は、自ら営業をしたりドキュメンテーションをするわけではなく、これまでに蓄積した経験や勘を頼りに、わからないところを執行部に質問しながら、常識的な判断を求められるものであり、法務畑キャリアの終盤に相応しいというイメージがあります。

 受け入れる企業側のニーズとしては、社外取締役の人物像に「事業経営の経験がある者」が真っ先に浮かびますが、社外取締役を複数名入れることになれば、その内訳を、「経営経験者」「会計専門家」「法務・コンプライアンスの専門家」と振り分けたならば、「一社にひとりの法律家枠」がありえます。これまでは、この「法律家枠」は、外部法律事務所のパートナークラス又はヤメ裁判官・検察官が就任するものという認識が一般的でした。しかし、社外役員を受け入れる側には、特に、社内弁護士を排除しなければならない理由はありません(社内弁護士が他社の上場企業の社外役員に就任する実例も散見されるようになってきました)。社内弁護士の社外役員登用を阻害しているのは、むしろ、社内弁護士の所属企業側の問題(兼業・副業に対する理解の低さ)にあるとすれば、「働き方改革」の一環としての「副業解禁」の流れからすれば、社内弁護士も排除せずに、より幅広い人材プールから、適切に社外役員候補の人選を行おうとする動きが広がっていくことが予想されます。そうなると、次には、「我が社の社外役員に相応しいのは?」という指名委員会の議論では、社内弁護士出身の候補者は、他の法律家候補者(外部弁護士や他の社内弁護士出身者)との具体的な比較の下に、その適性を吟味されることになります。ここでは、どのような資質や経験が求められることになるのでしょうか。

 

2 対応指針

 人材紹介業者の立場から、社外役員に推薦しやすいポイントとしては、(1) 企業の取締役会における議論に参画した経験があることや、(2) コーポレートガバナンス、コンプライアンスや内部統制等に関する本人の知見が経歴や公刊物において明らかにされていることが挙げられます。

 社内弁護士の場合には、執行役員まで昇格していたり、子会社等の役員を務めた経歴があれば、「取締役会の議論で法律家に求められる役割が何かを理解している」と説明しやすくなります。

 また、コーポレートガバナンスに関する論文等を公表してくれていれば、この分野の専門性を有することの疎明資料に使えます。他にも、海外子会社管理をガバナンス上の課題として認識している企業においては、NY州弁護士資格があれば、「クロスボーダー案件にも詳しい」とか、米国公認会計士資格があれば、「会計にも明るい」という印象を与えられます(株主総会招集通知に記載できる資格は、株主への説明に利用しやすいと言えます)。

 なお、社外役員ポストは非常勤であるために、別途、「ビジネス上のアドレス」を持てることが望ましいです。定年後に、法律事務所の顧問/オフカウンセルポストに就任するためには、現役時代から、外部法律事務所との間で「定年後に籍を置かせてくれるような、気が置けない関係」を構築しておくことは重要です。

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(にしだ・あきら)

✉ akira@nishida.me

1972年東京生まれ。1991年東京都立西高等学校卒業・早稲田大学法学部入学、1994年司法試験合格、1995年東京大学大学院法学政治学研究科修士課程(研究者養成コース)入学、1997年同修士課程修了・司法研修所入所(第51期)。

1999年長島・大野法律事務所(現在の長島・大野・常松法律事務所)入所、2002年経済産業省(経済産業政策局産業組織課 課長補佐)へ出向、2004年日本銀行(金融市場局・決済機構局 法務主幹)へ出向。

2006年長島・大野・常松法律事務所を退所し、西田法律事務所を設立、2007年有料職業紹介事業の許可を受け、西田法務研究所を設立。現在西田法律事務所・西田法務研究所代表。

 

著書:『弁護士の就職と転職』(商事法務、2007)

 




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