◆SH2594◆弁護士の就職と転職Q&A Q81「インハウス選びで給与以上に重視すべき点は何か?」 西田 章(2019/06/10)

弁護士の就職と転職Q&A

Q81「インハウス選びで給与以上に重視すべき点は何か?」

西田法律事務所・西田法務研究所代表

弁護士 西 田   章

 

 法律事務所における弁護士業務は「フロント部門」です。好景気時には、稼働に見合う給与を支払える素地があるために、転職市場における人材獲得競争では、「企業よりも、法律事務所が有利」と言われてきました。ただ、「戦後最長」と評された景気回復が後退局面に移ってきたとも言われ始めてきた中で、「インハウスに行くならば、どこがよいか?」という問題意識を抱く若手弁護士も増えてきました。

 

1 問題の所在

 一般論としては、「法律事務所とは異なり、企業における法務部は、管理部門/間接部門であるため、入社後に、自己のパフォーマンスを数字で示すことによって昇給を要求することが難しい」と言われています。そして、「だからこそ、インハウスになる際には、初年度給与を高めに設定することが大事」とのキャリア・アドバイスがなされることもあります。また、「インハウスの市場価値は所属企業の名前で決まる」「二流から一流への上方遷移は難しい」とも言われてきました。そのため、「給与の高さ」と「企業のブランド力」がそのまま転職市場での人気に反映されていました。しかし、「インハウスのキャリアパス」が多様化して来たために、そう単純には割り切れなくなってきています。

 インハウスのロールモデルとしては、古典的には「第一キャリアとして、法律事務所で積んだ経験を、第二キャリアとしてのインハウスで活用する」という姿がイメージされていました。そこでの転換のタイミングは、「渉外事務所のアソシエイトが留学から戻ってきて、外資系企業に転職する」というのが典型例と考えられてきました。しかし、司法制度改革も受けて、「司法修習を終えて直ちに企業に就職する」という、いわゆる「いきなりインハウス」も増えており、その中には、法律事務所に移籍して活躍する事例も生まれています(企業内で働いた経験が、外部弁護士としての成功につながった事例としては、長島安治弁護士も、そのインタビューにおいて、「会社にいたからこそ、依頼者の立場がよく分かるようになりました」と答えています(SH2268 著者に聞く! 長島安治弁護士「日本のローファームの誕生と発展」(前編)(2018/12/31))。

 また、定年後のインハウスが、「まだ働ける」として、法律事務所に籍を置くことを希望することも増えてきました。これには、「弁護士業務をバリバリ営みたい」というよりも、「非常勤の社外役員ポストを引き受けるためには、連絡先としての所属事務所を確保しておくほうが便宜」というニーズのほうが強いと言えそうです。

 「弁護士資格がある会社員」というだけでは、人材市場における希少性をアピールできなくなってきた時代が到来していることも踏まえて、中長期的なキャリア構築の視点から、「給与」と「見栄え」ではなく、転職先を実質的に選びたいという相談が増えています。

 

2 対応指針

 「現職の給与が高ければ、転職先も高い金額のオファーを出してくれるだろう」という期待は、候補者たる人材の層が薄い世代にはある程度は通用していましたが、徐々にそれが通用しなくなってきています。重要なポストの採用ほど、候補者の実質的な経験値を確認することが求められるようになってきました。そのため、「現職で成果を残した人が、他社からも誘われる」ことが中心となり、「現職で不完全燃焼の人材が転職を機に再チャレンジしたい」という戦略を取りにくくなってきています。

 会社員として「現職で(何らかの)成果を残す」ためには、それが先端的なプロジェクト関連の成功でも、後ろ向き案件の解決でも、部下を持ってマネジメントする経験でも、いずれにおいても、上司の理解と協力は不可欠です。その意味でも、「上司と円滑なコミュニケーションを取れる」というのは、転職先選定における最重要の確認事項であると考えられます。そして、上司から高い評価を受けることが、社内での出世につながり、かつ、社外への転職の際にもプラスに働きます。

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(にしだ・あきら)

✉ akira@nishida.me

1972年東京生まれ。1991年東京都立西高等学校卒業・早稲田大学法学部入学、1994年司法試験合格、1995年東京大学大学院法学政治学研究科修士課程(研究者養成コース)入学、1997年同修士課程修了・司法研修所入所(第51期)。

1999年長島・大野法律事務所(現在の長島・大野・常松法律事務所)入所、2002年経済産業省(経済産業政策局産業組織課 課長補佐)へ出向、2004年日本銀行(金融市場局・決済機構局 法務主幹)へ出向。

2006年長島・大野・常松法律事務所を退所し、西田法律事務所を設立、2007年有料職業紹介事業の許可を受け、西田法務研究所を設立。現在西田法律事務所・西田法務研究所代表。

著書:『弁護士の就職と転職』(商事法務、2007)




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