◆SH2576◆弁護士の就職と転職Q&A Q80「『転職35歳限界説』は弁護士にも当てはまるのか?」 西田 章(2019/06/03)

弁護士の就職と転職Q&A

Q80「『転職35歳限界説』は弁護士にも当てはまるのか?」

西田法律事務所・西田法務研究所代表

弁護士 西 田   章

 

 私は、30代前半に金融機関に出向していた時に、「転職は35歳までしかできない」という俗説を聞いて、自らのキャリアに危機感を抱かされました。人材紹介業に転じてからも、大手事務所に所属する弁護士からは「以前はヘッドハンターからの電話がうるさかったが、35歳を過ぎたら来なくなった(苦笑)」と聞かされます。今回は、この「転職35歳転職限界説」を、弁護士のキャリア形成において、どう解釈すべきかについての私見を述べたいと思います。

 

1 問題の所在

 ざっくりしたイメージを述べると、法務の人材市場は、対象となる候補者の経験年数に応じて、3段階に分かれます。①ポテンシャル人材の市場(新卒/第二新卒)、②即戦力プレイヤーの市場、③元請け/責任者の市場、の3つです。そして、③元請け/責任者市場の対象者の入口が、35歳頃に設定されています。

 「依頼者/上司の属性」に注目すれば、①ポテンシャル人材と②即戦力プレイヤーは、「自分よりも先輩である法律家を元請け/上司」として働く、いわば「下請け法律家」ポストであり、その仕事の成果は「先輩法律家のスーパーバイズを受けてアウトプットされること」が予定されている、と言えます(「元請け/上司」から信頼されたら、事細かなレビューを受けずに、仕事を「丸投げ」されることもありますが、責任の所在は「元請け/上司」に帰属するため、その庇護の下に仕事をさせてもらっていることに変わりありません)。

 この「下請け法律家」としてのスキルは、最初の何年間かは、「年次が上がるほどに向上する」という「正の相関」があると擬制されています。そのため、中途採用のジョブ・ディスクリプションには、求めるスキル水準を示す指標として「経験年数3年以上」とか「5年以上」という要件が掲げられます。ただ、この「正の相関」は、いつまでも続くわけではありません。ジョブ・ディスクリプションに「経験年数15年以上」というような要件は見かけません。実務感覚的には、「下請け法律家としての免許皆伝とされるため必履修単位」は、実働7年程度で修得し終えることが期待されています(一流の法律事務所で、パートナーの昇進要件として「実働7年間」(留学期間等を除く)が掲げられているのもこれを反映したものだと思われます)。

 そのため、学校を卒業してストレートに弁護士になった最速出世組は、35歳には、「下請け法律家」としては免許皆伝を受けることが想定されており、③元請け/責任者の人材市場の入口に立てることになります。逆に、35歳を過ぎても、②即戦力プレイヤー市場に留まっている留年組は、もはや「経験年数が増えても、スキルのパラメータは上昇しないのに、年齢が上がることに伴う『採用しづらさ』が増してしまう(→後輩にポストを奪われやすくなる)」という、「オーバードクターの就職難」にも似た問題を抱えることになります。

 所属する組織でスムースに内部昇進できれば、嫌が応にも、「②即戦力プレイヤー市場」から「③元請け/責任者市場」へとシフトすることになりますが、それが適わなかった場合に、人材市場をどう活用すればいいのかが問題となります。

 

2 対応指針

 ③元請け/責任者市場では、「依頼者/上司」は、ビジネスパーソンです。ここでは、候補者は「実績/アウトプット」によってのみ評価されます。従って、市場で評価されるためには、(インプットを増やすことではなく)「実績を残すために打席に立つ」ことが必要です。

 社内弁護士市場で「法務部長サーチ」の理想的候補者は、「(自社に先行する)同業他社の同種ポスト経験者」となります(マザーズ上場企業が、一部上場企業の法務部長経験者を引き抜くイメージです)。「責任者ポスト」未経験者が経験を積む方法は、巨大企業の社内育成であれば、関連会社出向という手法がありますが、転職市場を活用するならば、「候補者の層が薄い先」(スタートアップや新規に日本市場に参入する外資系企業、オーナー企業、不祥事等から再建を目指す企業)への転職リスクを分析する力が求められます(採用選考では、「責任者ポスト経験者」が優遇されてしまうために、「経験者が躊躇する先」に飛び込む覚悟を持てるかどうかがポイントとなります)。

 法律事務所での「元請けポスト」に挑戦するならば、「売上げが立たないリスク」を自ら負担する覚悟を持てるかどうかがポイントとなります(最低保証を求めるならば、「売上げが立たないリスク」を採用側が負担することになるため、売上げ実績がない候補者を採用するハードルは高くなってしまいます)。

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(にしだ・あきら)

✉ akira@nishida.me

1972年東京生まれ。1991年東京都立西高等学校卒業・早稲田大学法学部入学、1994年司法試験合格、1995年東京大学大学院法学政治学研究科修士課程(研究者養成コース)入学、1997年同修士課程修了・司法研修所入所(第51期)。

1999年長島・大野法律事務所(現在の長島・大野・常松法律事務所)入所、2002年経済産業省(経済産業政策局産業組織課 課長補佐)へ出向、2004年日本銀行(金融市場局・決済機構局 法務主幹)へ出向。

2006年長島・大野・常松法律事務所を退所し、西田法律事務所を設立、2007年有料職業紹介事業の許可を受け、西田法務研究所を設立。現在西田法律事務所・西田法務研究所代表。

著書:『弁護士の就職と転職』(商事法務、2007)




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