◆SH2561◆弁護士の就職と転職Q&A Q79「では不祥事調査を担当するアソシエイトはどうすれば生き残れるのか?」 西田 章(2019/05/27)

弁護士の就職と転職Q&A

Q79「では不祥事調査を担当するアソシエイトはどうすれば生き残れるのか?」

西田法律事務所・西田法務研究所代表

弁護士 西 田   章

 

 前回は、不祥事調査案件に専従するアソシエイトのキャリア形成上のリスクを取り上げました。現時点で不祥事調査を担当しているシニア・パートナーは、ヤメ検等のキャリア転換組であり、法律事務所でジュニア時代から不祥事を担当するというのは、いわば「ニュータイプ」のキャリアです。この層からは、「仮に、Q78が正しいならば、我々はどうすればいいのか?」という、怒りにも似たコメントが届きます。本稿では、前回を捕捉する私見を述べさせていただきたいと思います。

 

1 問題の所在

 「不祥事調査バブル」には、リーガルマーケットの観点からすれば、20年前の「倒産バブル」を彷彿とさせるものがあります。大型倒産事件の管財業務は、企業の緊急事態に弁護士が乗り込んでいき、裁量を持って建て直しに取り組むものであり、その尽力は、社会的には大きな功績を残しましたが、企業側からの反作用も招きました。つまり、「案件の処理方針までを外部弁護士に委ねたくない」「方針決定は執行部側に留保しながら適切に案件を処理したい」というニーズが明らかになり、問題企業も会社更生を避けて、DIP型の民事再生を選ぶようになり、更には、もはや倒産手続自体を利用せずに、会社法上の権限内で優良事業を売却することで再建を目指すのがメインシナリオとして選ばれるようになりました。

 不祥事調査にも同様の流れを辿る兆候が見られ始めています。企業も、不祥事への対応として、第三者委員会を組成して、案件処理の方針決定までを委ねるよりも、社内調査の補助者として外部弁護士を利用する方向性が打ち出されつつあります。また、社外取締役による経営へのモニタリングの実効性が上がってくれば、「社内調査」への信頼も上がって来ることが予想されます。これには事業再生分野における「会社更生手続から民事再生手続、私的整理への移行」の流れを想起させられます。

 人材市場の観点からは、「ジュニア時代から倒産事件に専従してきたアソシエイト」は、「転職向きではない」「独立向き」と区分されてきました。これは、一方では、「裁判所から発注される管財事件の実績は、所属事務所単位ではなく、担当弁護士に属人的に蓄積されるので、独立しても仕事が来る」というポジティブな理由もありますが、ネガティブな理由としては、転職活動をしても「早期に自立してしまっているが故に、パートナーからすれば使いづらい」「クライアントに対して偉そう」という難点も指摘されていました。そして、アソシエイト時代に「倒産バブル」を経験しながらも、現在ではパートナーとして活躍している弁護士には、「債務者側だけでなく、債権者側でファイナンスの仕組み作りや債権回収でも頼りにされている弁護士」や「知財等の他分野でも専門性を磨いて来た弁護士」が目立ちます。このような先行事例の中には、不祥事調査を担当するアソシエイトが学ぶべきこともあるのではないでしょうか。

 

2 対応指針

 ジュニア時代から不祥事調査に専従してしまったアソシエイトには、「会社の有事/緊急事態」における対応を業務の中心に据えてしまったが故に、「会社の平時/通常の指揮命令系統からの依頼」への対応の経験値が不足してしまう傾向があります。それを補う方法としては、不祥事調査としては「大規模案件調査の多人数チームに入るだけでなく、小規模案件を扱う主任となる」ことや会社法関連の相談業務への対応力を磨くことが考えられます。

 また、現在のアソシエイトがパートナーになる頃に、専門分野として「不祥事全般」を掲げるのは困難となることが予想されますので、「不祥事」に掛け合わせられる専門分野を持つことが重要です。「不祥事×労働法」は、その代表例ですが、それ以外にも、「不祥事×ヘルスケア」「不祥事×金融機関」のように、特定の業種を対象とした業規制に詳しくなることも、クライアントの「平時」の執行ラインからの相談への対応力を高めることにつながり、弁護士キャリアの生存率も高めることができます。

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(にしだ・あきら)

✉ akira@nishida.me

1972年東京生まれ。1991年東京都立西高等学校卒業・早稲田大学法学部入学、1994年司法試験合格、1995年東京大学大学院法学政治学研究科修士課程(研究者養成コース)入学、1997年同修士課程修了・司法研修所入所(第51期)。

1999年長島・大野法律事務所(現在の長島・大野・常松法律事務所)入所、2002年経済産業省(経済産業政策局産業組織課 課長補佐)へ出向、2004年日本銀行(金融市場局・決済機構局 法務主幹)へ出向。

2006年長島・大野・常松法律事務所を退所し、西田法律事務所を設立、2007年有料職業紹介事業の許可を受け、西田法務研究所を設立。現在西田法律事務所・西田法務研究所代表。

著書:『弁護士の就職と転職』(商事法務、2007)




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