◆SH2496◆弁護士の就職と転職Q&A Q76「マンネリ化した職場は卒業すべきなのか?」 西田 章(2019/04/22)

弁護士の就職と転職Q&A

Q76「マンネリ化した職場は卒業すべきなのか?」

西田法律事務所・西田法務研究所代表

弁護士 西 田   章

 

 ジュニア・アソシエイトの転職理由が「ハードワーク」や「パワハラ」を原因とするストレスフルな日々であることが典型例であるのに対して、40歳代の弁護士からは「今の仕事を続けても成長を得られない」という事情から「環境を変えるべき時期ではないか?」という問題意識を聞かされることが増えます。学校を、所定の単位取得後に卒業するのと同様に、職場についても「もはや学ぶべきことがない」と感じた場合に、「限りある職業人生をここで浪費していてもいいのか?」という迷いが生じます。

 

1 問題の所在

 弁護士の仕事は、依頼者を支える黒子、裏方業務です。そのため、「キャリアの成否」は「よい依頼者に巡り会えたかどうか」で決まります。「よい依頼者」に尽くしたと感じられる弁護士は幸福であり、その充足感を得られないままに終えたキャリアは不完全燃焼感を拭い切れません。

 そこで、弁護士のキャリアを二段階に分けて、前期を修行期間として割り切り、後期を「よい依頼者」のために尽くす自己実現の期間と位置付けることが効果的な職場選択につながります。つまり、アソシエイト時期は、「いずれどこかで出会うであろう自分の依頼者」のためにリーガルサービスの腕を磨く期間ですから、クオリティ・オブ・ライフを犠牲にしてでも、ハードワークに耐えて「経験値獲得」を重視することが正当化されます。そして、パートナーになってからは、いよいよ、自己実現の場を迎えるわけですから、「自分が支援したいと思える、よき依頼者」から自分を頼りにしてもらえることを期待して、声をかけてもらえるのを待つことになります。もちろん、業務に費やす時間の100%を、やりがいのある仕事で埋めることは、現実的には不可能です。事務所経営のためには、気に入らない依頼者(担当者)の仕事も受けなければなりません。ただ、仕事の100%が「気に入らない依頼者」の仕事で埋め尽くされてしまっているとしたら、「そもそも、なぜこの職業に就いたのか」の意義が見失われることにもなりかねません。

 40歳代となっても、法律事務所のパートナーであれば、「売上げを立てなければならない」という、今年度の目標達成を最優先課題に設定せざるを得ないため、哲学的な問いは棚上げされがちです。また、インハウスでも、法務部長を目指す幹部候補生は人事評価という、現在進行形の課題クリアと葛藤しています。他方、法律事務所でもカウンセル的に、又は、インハウスでも社内昇進という目標を持たない層の中には、「弁護士キャリアはもう折り返し地点を過ぎた」「残り半分の時間も刻一刻と失われていく中で、今の環境でこのまま仕事を続けてよいのかどうか」という問題を深刻に考えるようになる弁護士が増えてきます。

 

2 対応指針

 「会社都合」「事務所都合」に基づくリストラ型の転職とは異なり、「自己都合」の転職は、「次の職場が、現在の職場よりも優れた環境である」という見込みが得られる場合に実施するものです。もちろん、それは予め保証されるわけではありませんが、「よい依頼者と巡り会える」というシナリオを(一応は)描くことができ、かつ、「仮に失敗しても、取り返しがきく」「致命的な汚点を残さない」かどうかが判断基準となります。

 法律事務所への転職は、現在の職場よりも、「よい依頼者」の仕事を受けやすい環境かどうかを確認することになります(例えば、レートが高過ぎたり、コンフリクトが生じやすかったり、社外役員になることが禁止されていたりすると、それだけ自己実現を図る機会を逃しやすくなります)。法律事務所における弁護士業務はフロント業務であることから、「初年度給与」の数字が持つ意味は大きくはありません(売上げさえ立てられたら、年俸が大幅に上がることもあります)。

 また、社内弁護士としての転職は、「依頼者が一社に限定される」ことから、より慎重な検討が求められます。経済条件以外の検討ポイントとしては、転職先の提供する商品又はサービスについて、自分もその拡大を支援することに喜びを感じられること、自分がそのポストに就けば、他の候補者よりも優れた役務を提供する自信があることを挙げることができます。

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(にしだ・あきら)

✉ akira@nishida.me

1972年東京生まれ。1991年東京都立西高等学校卒業・早稲田大学法学部入学、1994年司法試験合格、1995年東京大学大学院法学政治学研究科修士課程(研究者養成コース)入学、1997年同修士課程修了・司法研修所入所(第51期)。

1999年長島・大野法律事務所(現在の長島・大野・常松法律事務所)入所、2002年経済産業省(経済産業政策局産業組織課 課長補佐)へ出向、2004年日本銀行(金融市場局・決済機構局 法務主幹)へ出向。

2006年長島・大野・常松法律事務所を退所し、西田法律事務所を設立、2007年有料職業紹介事業の許可を受け、西田法務研究所を設立。現在西田法律事務所・西田法務研究所代表。

著書:『弁護士の就職と転職』(商事法務、2007)

 



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