◆SH2423◆弁護士の就職と転職Q&A Q72「仕事の対価は経験か? 金銭か? 主観的満足か?」 西田 章(2019/03/25)

弁護士の就職と転職Q&A

Q72「仕事の対価は経験か? 金銭か? 主観的満足か?」

西田法律事務所・西田法務研究所代表

弁護士 西 田   章

 

 弁護士は、「自由業」の典型例と言われてきました。最近では、法科大学院の入学志願者が年々減少していることを取り上げて、「人気が下がった」と言われることが増えていますが、昔から「自由業=やりたいことをやって儲かる仕事」とみなされていたわけではありません。どちらかと言えば、「やりたくないことをやらないでもそこそこ食っていける」ことに最大の魅力がありました。ただ、競争が激化してきたことで、「やりたくないことをやらない」のと「そこそこ食っていく」ことを両立できるだけでも、「自分は相当程度に幸せな部類に属する」と感謝しなければならない状況になってきつつあります。

 

1 問題の所在

 人材紹介業者は、転職希望者から、まずは「移籍先に求める条件」についての率直なニーズを聞き取ります。「給与は1000万円以上欲しい」「個人事件も受任させてほしい」「大規模プロジェクトにも携わりたい」「プライベートの時間も確保したい」「企業法務をメインとしつつも、一般民事も扱いたい」等々。

 ただ、本人の喫緊のニーズに合致する移籍先を探す取組みが、中長期的なキャリア支援につながるとは限りません。「給与=事務所事件に従事することへの報酬」であり、高額の給与を提供してくれる先ほど、事務所事件への専従を求められてしまい、個人事件のために時間を割くことを認めてもらいにくくなります。また、大規模案件は、その成否が当事者に与える経済的影響も大きく、関係者数も膨らむために、担当弁護士には即時の対応が求められがちであり、案件継続中にはプライベートを犠牲にする覚悟が必要です。また、個人を依頼者とする一般民事系事件は、対面で十分に時間をかけた説明を踏まえて案件を進めなければ、依頼者の納得を得ることが難しくなるために、金額規模に関わらない手間暇が求められます。そのため、キャリア・コンサルティングでは、本人が抱く様々な希望について、キャリアプランの全体像を見据えて、現時点での優先順位を付けていくことが重要になります。

 伝統的には、弁護士のキャリアモデルは、「高額な収入と自由を獲得できるとしたら、それは独立後のことだから、まずは、イソ弁として、労働条件に満足できなくとも、これを修行だと思って耐えなければならない」という理解が通用していました。時代と共に、弁護士の業務に専門性が求められるようになり、事務所経営の共同化が進んできました。また、企業では働き方改革が進められており、一従業員として働く弁護士の数も増えてきました。このような環境変化に応じて、弁護士はキャリアプランにどのような修正を求められているのでしょうか。

 

2 対応指針

 仕事の対価は、金銭報酬と非金銭報酬(主観的満足)に分かれますが、それに加えて「将来に良い仕事を受けるための投資(経験値獲得)」を忘れてはなりません。

 アソシエイト時代の仕事で最も重要なのは、この「経験値獲得」です。「未経験分野の仕事を振る先は若手優先」であり、年齢を重ねるほどに「新しい仕事」に挑戦する機会を与えてもらえなくなるからです。修行後の「独り立ち」先については、「メインシナリオ」をパートナー昇進に置きつつも、それが実現できない場合の「代替シナリオ」を社内弁護士への転向に設定するアソシエイトが増えています(かつては「地方で個人事務所を開く」が腹案の代表例でしたが)。

 経済的成功は(アソシエイト時代ではなく)パートナー時代での仕事の成功指標に置くのが合理的です。タイムチャージ型のビジネスモデルが主流になっている現在の企業法務実務においても、アソシエイト時代には、所詮、自分の時間の切り売りでしか稼ぐことができず、その期間も所詮10年程度に止まります。パートナーとしてどのような環境でどうやって稼ぐかがキャリアの肝であることは、伝統的なキャリアモデル(イソ弁→独立)と変わりありません。

 弁護士業務の主観的満足については、かつては「採算を度外視して、困っている人を助ける」ことで得られると考えられてきました。しかし、一般民事の競争激化は「他の弁護士ではなく、敢えて自分がこの依頼者、この事件を担当することの意味」の実感を失わせつつあります。むしろ、相当程度の企業法務経験を積んだ弁護士にとっては、企業の社外役員を務めることに対して「自己の経験値を生かした社会貢献につながる」と考える弁護士が増えています。

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(にしだ・あきら)

✉ akira@nishida.me

1972年東京生まれ。1991年東京都立西高等学校卒業・早稲田大学法学部入学、1994年司法試験合格、1995年東京大学大学院法学政治学研究科修士課程(研究者養成コース)入学、1997年同修士課程修了・司法研修所入所(第51期)。

1999年長島・大野法律事務所(現在の長島・大野・常松法律事務所)入所、2002年経済産業省(経済産業政策局産業組織課 課長補佐)へ出向、2004年日本銀行(金融市場局・決済機構局 法務主幹)へ出向。

2006年長島・大野・常松法律事務所を退所し、西田法律事務所を設立、2007年有料職業紹介事業の許可を受け、西田法務研究所を設立。現在西田法律事務所・西田法務研究所代表。

著書:『弁護士の就職と転職』(商事法務、2007)

 




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