◆SH2360◆弁護士の就職と転職Q&A Q68「転職エージェント経由が直接応募よりも効果的なことはあるのか?」 西田 章(2019/02/25)

弁護士の就職と転職Q&A

Q68「転職エージェント経由が直接応募よりも効果的なことはあるのか?」

西田法律事務所・西田法務研究所代表

弁護士 西 田   章

 

 若手弁護士の転職活動の基本形は「直接応募」です。日本のリーガルマーケットに商業ベースの人材紹介業者が参入したのはわずか15年前であり(2004年に起きた三井安田法律事務所の分裂が契機となっています)、いまだに多くの優良事務所が「やる気がある者ならば、直接に応募してくるべき」であり、「エージェントの広告宣伝費を賄うための費用を支払わされるのは不愉快」と考えています。

 

1 問題の所在

 企業間の転職を扱う大手人材紹介会社には、TVのCMで「転職は慎重に」というキャッチフレーズで候補者の信頼を得ようとする取組みがあります。弁護士を扱う事業者にも「本人のためにならない時期の相談には転職を止める助言をする」と主張する方もありますが、それは「当社には、今、適当な紹介先がないから、しばらく現職で我慢しておいてください」というメッセージに過ぎません。真に相談者のキャリアを考える誠実なコンサルタントであれば、「当社への依頼はありませんが、この事務所は良いと聞いているので、直接に応募されたらいかがですか?」という提案まで含めて助言すべきです。

 転職エージェントは、あたかも「適切な採用ニーズがある先はすべて当社が扱っている」「エージェントに依頼しないのは、金銭的余裕がないケチな事務所だけである」と相談者を信じ込ませようとします。しかし、法律事務所が転職エージェントに依頼しないのは、「紹介手数料負担を免れたい」という理由だけではありません。一部のエージェントが、事務所の了解もなく、求人情報をメーリングリストで回覧したり、問題がある事務所も混在した「求人事務所一覧」を配布したりするために、「事務所名がエージェントに濫用されてブランドイメージを損うこと」が嫌われています。

 また、事務所における現実の選考過程においても、「直接応募だから却下する」ということはありません。履歴書や職務経歴書に光るものがあれば、きちんと審査してもらえるため、「エージェント経由で採用された人材は、直接に応募しても、ほぼ間違いなく合格していたはず」と言えます(逆に、事務所側が「このエージェントとは関わりたくないため、エージェントからの問合せに返事しない」こともあるため、「エージェントなど利用せずに、直接に応募していたら合格していたかもしれないのに」と感じさせられる、残念な事例をいくつも見聞きします)。

 それでは、(情報収集やコンサルティングという意味を超えて)特定の法律事務所への志望動機が固まっている段階において「直接応募よりも、エージェントを経由することが本人のメリットになる」というのはどういう場合にありうるのでしょうか。

 

2 対応指針

 エージェントの利用が応募者にとってメリットとなる場合としては、(1)進め方に配慮が求められる場合、(2)内定を取得しても、回答期限の延長を求めたり、結果的に辞退しなければならない場面が想定される場合、(3)条件交渉が求められる場合等があります。

 まず、「進め方に配慮が求められる場合」(1)とは、「真実の転職理由をエントリーシートにそのままは記載しづらい場合」(例えば、現事務所で弁護士倫理に反する事件処理が行われているとか、金銭・人間関係の深刻な問題がある等)や「応募先事務所の判断が一枚岩でないときに、まず、特定のパートナーを推薦人として確保することを狙う場合」などです。

 また、「内定取得後の対応」(2)には、「即答しなかったら、内定を取り消された」とか「内定辞退を連絡したら、返事も貰えなかった」ということが起きることもあります。そこまで極端でなくとも、当事者間に「気まずさ」が生じることは確かですので、「適当な理由を付けて検討期間を確保してもらいたい」とか「まずは辞退の結論だけエージェント経由で伝えておいて、直接の謝罪は時機を改めて行いたい」というのは当事者の精神的負担を軽減する工夫にはなります。

 なお、「条件交渉」(3)については、エージェントは「採用側の使者」という位置付けのため、「応募者側を代理して採用側と交渉する」ということはありません。ただ、応募者が直接に条件面の希望を伝えることには「それを呑んでもらえなければ、ディールブレイクしてもいいか?」というリスクを伴います。そこで、エージェント経由で事情(現職で想定されている昇給、個人事件の収入、他社オファーの条件等)を柔らかく伝えることで、条件の引上げについて、採用側における自主的な検討を促すこともあります。

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(にしだ・あきら)

✉ akira@nishida.me

1972年東京生まれ。1991年東京都立西高等学校卒業・早稲田大学法学部入学、1994年司法試験合格、1995年東京大学大学院法学政治学研究科修士課程(研究者養成コース)入学、1997年同修士課程修了・司法研修所入所(第51期)。

1999年長島・大野法律事務所(現在の長島・大野・常松法律事務所)入所、2002年経済産業省(経済産業政策局産業組織課 課長補佐)へ出向、2004年日本銀行(金融市場局・決済機構局 法務主幹)へ出向。

2006年長島・大野・常松法律事務所を退所し、西田法律事務所を設立、2007年有料職業紹介事業の許可を受け、西田法務研究所を設立。現在西田法律事務所・西田法務研究所代表。

著書:『弁護士の就職と転職』(商事法務、2007)

 




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