◆SH2346◆弁護士の就職と転職Q&A Q67「『アソシエイトが辞める事務所』への応募は避けるべきか?」 西田 章(2019/02/18)

弁護士の就職と転職Q&A

Q67「『アソシエイトが辞める事務所』への応募は避けるべきか?」

西田法律事務所・西田法務研究所代表

弁護士 西 田   章

 

 事務所の移籍を考えるアソシエイトは、幅広い選択肢を得たいと考えて、1社だけでなく、複数の転職エージェントに情報提供を求めることがあります。それが「転職エージェント間の候補者の奪い合い」をもたらして、他のエージェントから紹介された事務所についてのネガティブ情報を吹き込むことに熱心な転職エージェントを出現させています。そのネガティブ・キャンペーンで頻繁に使われるのが「そこはアソシエイトが辞める事務所だよ」というフレーズです。一見、親切な情報提供にも思われますが、どこまで致命的な問題として受け止めるべきでしょうか。

 

1 問題の所在

 法律事務所は、「●●弁護士が入所しました」という人事情報については、HPに掲載し、挨拶状を送付して公表しますが、「●●弁護士が退所しました」という発表は見かけません。アソシエイトの退所が通知されるのは、具体的に案件を担当していたクライアント先に限定されます。

 そこで、「他のエージェントからこの事務所を紹介されたので応募しようと思う」という候補者からの相談に対して、転職エージェントは「その事務所は最近、アソシエイトが辞めた」というニュースを、事務所が隠している裏情報であるかのように耳打ちすることで、その応募意欲を失わせようと試みます(その事務所との間に自身も接点を持つエージェントであれば、「この話を破断させたら、この事務所には自分が別の候補者を紹介するチャンスが生まれる」という心理も働きます)。

 確かに、「アソシエイトが辞めた」という事実からは、事務所のネガティブなイメージが膨らみます。ジュニア・アソシエイトの退職ならば、「ボス弁のパワハラに耐えられないのではないか?」と想像させられますし、シニア・アソシエイトの退職ならば、「ボス弁がケチでお金に意地汚いか、又は、ダーティーな仕事に手を染めているから、一緒にパートナーシップを組みたくないのではないか?」という疑念が頭をよぎります。

 しかし、だからといって、「アソシエイトが辞める事務所には行かない」と決め付けるのは早計です。法律事務所は、伝統的に新卒採用を中心に据えているため、中途採用のニーズは「辞めたアソシエイトの穴埋め」にこそ生まれます。そのため、「アソシエイトが辞める事務所」を一律に排除してしまうと、移籍先の選択肢を過度に狭めてしまうことにつながります。

 

2 対応指針

 パートナーのパワハラ的指導又はダーティーな仕事振りから逃れるために、アソシエイトが次々に退職していく事務所も現実に存在します。ただ、共同事務所において、その問題がひとりのパートナーの人間性に起因する場合には、「問題パートナーを放逐することで問題が解消された」というケースもあります。

 また、一流と呼ばれる事務所ほど、アソシエイトの退職は、本人の能力・適性不足に起因する場合も少なからず存在します。アソシエイト目線では「人事評価が低い者を退職させる事務所は酷い」と思うかもしれません。しかし、自らも、いずれはパートナーに昇進するシナリオを思い描くのであれば、経営者視点を持つことも必要です。経営者視点からすれば、「リーガルサービスの質を落とすようなアソシエイトをいつまでも抱えておくわけにはいかない」という判断は理解できます(教育による改善がもはや見込めないのならば)。

 それ以外に、優秀なアソシエイトが、自らの意思で次のキャリア(他事務所やインハウス)に進むために退職する事例もあります。それを「ジョブ・ホッピングの踏み台に使われるような事務所」というネガティブなイメージとして受け止めることもあるかもしれませんが、「ここでの修行が、次の職場からのオファーにつながった」と解釈できれば、アソシエイトとしてこの事務所で働ける経験の有用性はむしろ肯定的に評価できます。

続きはこちらから

バックナンバーはこちらから

 

(にしだ・あきら)

✉ akira@nishida.me

1972年東京生まれ。1991年東京都立西高等学校卒業・早稲田大学法学部入学、1994年司法試験合格、1995年東京大学大学院法学政治学研究科修士課程(研究者養成コース)入学、1997年同修士課程修了・司法研修所入所(第51期)。

1999年長島・大野法律事務所(現在の長島・大野・常松法律事務所)入所、2002年経済産業省(経済産業政策局産業組織課 課長補佐)へ出向、2004年日本銀行(金融市場局・決済機構局 法務主幹)へ出向。

2006年長島・大野・常松法律事務所を退所し、西田法律事務所を設立、2007年有料職業紹介事業の許可を受け、西田法務研究所を設立。現在西田法律事務所・西田法務研究所代表。

著書:『弁護士の就職と転職』(商事法務、2007)

 

 




メールで情報をお届けします
(毎週火曜日・金曜日)