◆SH2232◆ロンドンで活躍する日本人弁護士、Ashurstパートナー岩村浩幸氏に聞く③(完) 西田 章(2018/12/05)

ロンドンで活躍する日本人弁護士、Ashurstパートナー岩村浩幸氏に聞く③(完)

Ashurst LLP
弁護士(英国法および米国法) 岩 村 浩 幸

(聞き手)西 田   章

 

 前回(第2回)は、岩村弁護士が、Ashurstロンドンオフィスのジャパン・プラクティス・チームで、日本企業に対して提供しているサービスの概要を教えていただいた上で、業務拡大中の同チームにおいて、現在、日本法資格を持って、「一緒に新しいサービスを作っていこう」と考えてくれる若者を募集しているという話をお伺いしました。

 最終回である今回は、Ashurstロンドンオフィスに勤務する日本人弁護士にどのようなキャリアパスが拓かれているのかを岩村弁護士にお伺いした上で、日本で英語学習に励んでいる若手弁護士へのアドバイスとして、英語コミュニケーション力向上の秘訣もお聞きしています。

 

 Ashurstのロンドンオフィスで、ジャパン・プラクティス・チームにアソシエイトとして入った日本法弁護士としては、その後、どのようなキャリア展開を期待できるのでしょうか。
 まずは、事務所として、イギリス法資格の取得の手伝いはさせていただきます。学校にも行かせますし、そのための学費も援助します。
 手続的には、試験に通過すればいいので、予備校みたいな学校に3ヵ月程度通って、授業を受けてもらって、あとは、それを自分でも復習していただけば大丈夫だと思います。
 筆記試験ですか。
 筆記試験と、インタビューもあります。私の受験時代は簡単でしたが、いまは、少し面倒になっています。1週間ずつ、2回にわけて受験します。
 先に、米国法資格を取っておいたほうがいいのでしょうか。
 それは必要ありません。昔とは制度が代わり、今は、日本法資格者でも、試験に合格するだけでイギリス法資格を取得できるようになりました。
 事務所内のキャリアパスをお伺いしたいのですが、アソシエイトで入所した後に、パートナーに内部昇進することも可能なのでしょうか。
 パートナーに昇進してもらえる可能性も十分にあると思っています。私たちのチームはまだ小さく、これから大きくなるので。売上げがどれだけ伸びていくかにもよりますが、今の売上規模のままでも、パートナーが2人いてもいい位です。パートナーが2人になれば、さらに売上げも伸びると思います。
 また、将来のことを言えば、私がリタイアする時には、パートナー枠が空くので、そのポストも承継していただきたいです。


 
 年次的には何年ぐらい後にパートナー選考にかかるのでしょうか。
 ロンドンでは、大体、20歳代中盤にAshurstに入所した弁護士が、30歳後半でパートナーに昇進しているので、弁護士経験年数では、12~14年ぐらいですかね。この辺りは、日本の大手法律事務所ともあまり変わらないのではないでしょうか。
 パートナーとまで言わなくとも、カウンセルはもう少し簡単になれそうでしょうか。
 カウンセルならば、パートナーが承認さえすればほぼ大丈夫です。
 カウンセルになっておけば、パートナーを目指さなくとも、長くオフィスで働き続けることができるのでしょうか。いわゆる「アップ・オア・アウト」で、出ていけ、と言われることはないでしょうか。
 カウンセルにならなくとも、アソシエイトのままでも、長く居ていただくのは全然構いません。少なくとも、ジャパン・プラクティス・チームについて言えば。
 また、将来、「東京に戻りたい」という希望が芽生えたら、それについても、Ashurst内で調整して、できるかぎり、希望を叶えてあげたいと思っています。
 外資系事務所にいくと、リストラされる、というネガティブなイメージを抱く人もいますが、その点は大丈夫なのですね。
 そうはいっても、我々は、プロフェッショナル・ファームなので、仕事ができない人には、辞めてもらうことになります。周りのメンバーとも仲が悪いし、仕事もしないし、無断欠勤も多い、ということだったら、それは、「辞めてもらいたい」という話にはなってしまうのは止むを得ないです。
 ただ、「こいつは売上げを立てられないから」という理由で首になることはないですか。
 売上げは、我々パートナーの責任です。仕事をきちんとやってくれるアソシエイトに辞めてもらうような理由はありません。今のところ、そういうことはまったくありません。
 今日、岩村先生のお話をお伺いしていて、「日本で、大手法律事務所で、毎年、何十人も採用されるひとりになって、似たようにエリートの経歴を持つ弁護士が何百人もいる東京オフィスで、周りの同期と同じような仕事を続ける」というよりも、ロンドンに飛び込んでしまったほうが、実は、希少価値もあるし、リスクが少ないキャリアのように思えて来ました。
 少なくとも、英語はむちゃくちゃ上達しますしね(笑)。
 プロフェッショナルとしての生存確率も上がりそうな気がします。
 そうですね。私どもとしては、うちのチームに来てくれる若手には、「ロンドンオフィスでパートナーになってもらいたい」と期待するわけですが、でも、実際に、2~3年やったところで、「自分にロンドンは向いていないので、東京に戻ります」と言われたとしても、別に「裏切り者」とは思いません。「じゃあ、東京で頑張ってね」と送り出すことができます。狭い世界なので、別の事務所に分かれた後でも、一緒に仕事をする機会もありますし。
 事務所を辞めていく人は、どこに転身されるのでしょうか。他のローファームでしょうか。
 ジャパン・プラクティス・チームは、設立して間もないので、まだ、退職者はいません。
 事務所全体で言えば、英国人弁護士の退職者は、インハウスがほとんどですね。一部、「アメリカ系事務所のほうが給料が高い」といって転職する事例もありますが、他のファームに行ったからといって、それほど状況は変わらないですよね。つまり、Ashurstでパートナーになれなかった弁護士が、他のファームに移れば、すぐにパートナーになれるか? と言えば、そんな簡単な話ではありません。
 ジュニア・アソシエイトが、カルチャーが合わないから、と言って、別のローファームにいくことはありますが、シニア・アソシエイト以上になると、ほぼ、インハウスへの転向ですね。
 仮に、若手弁護士が、将来、日本企業のインハウスになることを考えたら、日本の法律事務所で勤務を続けるよりも、ロンドンに来て弁護士業務をするほうが、よほどチャンスが広がるような気がして来ました。
 私は、すごくチャンスはあると思っています。自分だったら、こんなチャンスがあったら、超面白いと思うんですけど。
 ここから先は、日本の若手弁護士へのアドバイスをいただきたいのですが、私は、「日本は、リーガルマーケットも小さいし、若手弁護士が、日本に留まっているのは、実はかなり危険なのではないか」「海外のリーガルマーケットにも目を向けるべきではないか」と思っています。岩村先生はどう思われますか。
 う~ん、別に、「日本のリーガルマーケットに留まるのが危険」とは思いませんね。まだまだ企業の数に比べて、弁護士の数は少ないので。日本の法律事務所にいても、まだチャンスはあると思います。
 ただ、「日本法資格だけでいいか?」というと、少し選択肢が狭まる気はしますね。





 
 少子高齢化の日本では、企業も、成長先として海外に目を向けざるを得ませんので、「日本法だけ」だと、業務分野が国内の訴訟業務中心にならざるを得ないですよね。
 インターナショナルな取引の準拠法は、その60%を英国法が占めていることも、イギリス法資格をお薦めしている理由のひとつです。イギリス法資格は、国際的な取引に携わる上で、すごく役に立ちます。
 Ashurstのロンドンオフィスに来てくれて、私たちの仕事をしながら、イギリス法資格まで取得できたら、その方の可能性はすごく広がると思うんですよね、日本法資格だけで勝負しているよりも。
 年齢的には、何歳ぐらいまでならば、チャンスがあると思われますか。岩村先生が、米国ロースクールのJDを卒業されたのが30歳でしたが、それを超えると厳しそうだな、と思われますか。
 そうですね、30歳を過ぎて挑戦するのは、ちょっと大変かもしれません。例えば、28歳で、ロンドンに来てくれたら、そこから10年かけてパートナーに昇進できたとすれば、38歳です。日本の大手事務所でパートナーになるのと、それほど変わらないので、メイクセンスすると思います。まだパートナーとして20年近く働けるでしょうし。
 他方、35歳でロンドンに来ても、10年かけてパートナーになったら、もう45歳ですよね。そこで、もし、55歳で引退、となってしまったりしたら、「10年しかパートナーを続けられない」ということになってしまいます。それは、ちょっと投資効率が悪いかもしれません。だったら、日本でパートナーを目指したほうがいいのかも、と。もちろん、ご本人の価値観次第ですが。
 35歳でロンドンに来ても、本当に45歳でパートナーになれるならば、それでも救われると思うのですが、でも、年を重ねたからといって、パートナーになりやすくなるわけではないですよね。むしろ、留年するほどに、パートナーになりにくくなる側面もあるのかな、と危惧するのですが。
 そうですね、年を取るほどに難しい、という傾向はあるかもしれません。私が、パートナーに昇進したのは、41歳のときですが、周りを見渡したら、自分よりも年下ばかりで、30歳代後半がほとんどでしたね。
 まぁ、私の場合は、そもそも弁護士になったのが遅かったので、ニュージャージー州の弁護士資格を取ったのが2003年で、パートナーになったのが、2015年なので、弁護士になってからの年数だけでいえば、12年で済ませることができましたが、それには幸運が重なっていると思います。
 実際、日本で、同じようなスペック、経歴の弁護士が大勢溢れている中で競うよりも、実は、競争倍率も低いのではないか、と想像しているのですが、いかがでしょうか。
 先ほども申しましたが、我々のオフィスについて言っても、一旦、ロンドンオフィスで働いた後でも、東京に戻って来ていただいても構いません。一方通行ではありません。
 海外に行くチャンスがあれば、一度は行ってみて、それから、東京の法律事務所でパートナーになる、というキャリアパスも、全然ありうると思います。
 面白いオポチュニティーがあれば、それに乗っかってみることが、競争優位性を獲得することにつながります。
 ひとつの同じルールが支配する世界で、多数の同期と戦い続けて、上に登り詰められる方は、優秀だろうし、それはそれで素晴らしいキャリアだと思いますが、いろんな違ったルールを見ながら、「こんなやり方もあるんだ」という発見をしながら、新しいことを生み出して行く、というのも、面白い生き方だと思います。
 経済的な収入面ではどうでしょうか。

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(にしだ・あきら)

✉ akira@nishida.me

1972年東京生まれ。1991年東京都立西高等学校卒業・早稲田大学法学部入学、1994年司法試験合格、1995年東京大学大学院法学政治学研究科修士課程(研究者養成コース)入学、1997年同修士課程修了・司法研修所入所(第51期)。

1999年長島・大野法律事務所(現在の長島・大野・常松法律事務所)入所、2002年経済産業省(経済産業政策局産業組織課 課長補佐)へ出向、2004年日本銀行(金融市場局・決済機構局 法務主幹)へ出向。

2006年長島・大野・常松法律事務所を退所し、西田法律事務所を設立、2007年有料職業紹介事業の許可を受け、西田法務研究所を設立。現在西田法律事務所・西田法務研究所代表。

著書:『弁護士の就職と転職』(商事法務、2007)

 

 




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