◆SH2215◆著者に聞く『はじめて学ぶ社外取締役・社外監査役の役割』松山遥弁護士③・完 西田 章(2018/11/28)

著者に聞く『はじめて学ぶ社外取締役・社外監査役の役割』松山遥弁護士③・完

日比谷パーク法律事務所
弁護士 松 山   遥

(聞き手)西 田   章

 

 前回(第2回)は、松山遥弁護士が、初めて社外役員に就任した頃には緊張して、外部弁護士的な部分からでも発言するように心がけて、会社の事業内容や業績を理解するようになってから、次第に、「経営者目線」での議論に参加できるようになった経緯や、指名・報酬委員会に参加する社外取締役の総入れ替えは危険であり、期差制が求められるといったご見解をお伺いしました。

 最終回(第3回)は、弁護士が社外役員に就任した場合には、特に「利益相反の回避」を監視する役割が期待されていることを踏まえて、「子会社管理」の「肝」をお伺いした上で、社外役員に求められる弁護士の経験範囲、そして、「社外役員の独立性」がもたらす法律事務所経営への実務的な影響についてのコメントもお伺いしました。

 

 

 

 ところで、今年、日比谷パークの他の先生方と共同でご執筆された『実効的子会社管理のすべて』(商事法務、2018年)が出版されました。先ほども、社外役員の役割として、「子会社管理」や「利益相反の回避」に言及されていましたが、子会社管理の「肝」はどこにあるでしょうか。
 「子会社管理」は各社とも制度設計について悩んでいると思いますが、残念なことに正解がないのですね。というのも、企業グループによって、あるいは同じ企業グループの中であっても子会社ごとに、親会社と子会社との関係が違いすぎるのです。100%子会社と言っても、我が社からスピンアウトした会社と、M&Aをして完全子会社化した会社とは全然違います。
 なるほど、出資比率で区切ればいい、というものでもないのですね。
 ですので、あまり一律の基準を設けて、きれいな子会社管理体制を構築するのではなく、子会社ごとにそれぞれの事情を勘案して、最も大きなリスクは何か、それを回避するためにはどうするのがいいか、と地道に考えていくしかないと思います。特に気を付けてもらいたいのは、「不祥事は、普段はグループの一員とも意識していないような小さな会社で起こるかもしれない」という点ですね。いつも、役員が、親会社の取締役会に出席して報告してくれるような主要な子会社は、目が行き届いているし、親会社も注意しているので、実はあまりサプライズは起きません。むしろ、通常のモニタリングから抜け落ちているような子会社、孫会社で不祥事が起きることが怖いです。
 巨大な企業グループほど、取締役会では、すべてのグループ会社をカバーし切れないですよね。
 はい、すべてを取締役会で報告を受けるのは物理的に不可能なことがあります。すべてを取締役会で報告は受けられないとしても、「誰が見ることになっているか」という責任分担は確認しておかなければなりません。「誰も見ていなかった」という状況だけは避けなければなりません。
 小さい会社だから重要性が低い、というわけでもないのですね。
 今のご時世は、「数字のインパクトが小さいから不祥事があっても構わない」というわけにはいきません。グループ会社としての看板を背負って商売をしている以上、小さなグループ会社であっても、不祥事に伴う「レピュテーションリスク」の管理はきわめて重要です。
 海外子会社まで対象を広げたら、大企業グループは莫大な数になりますね。
 その通りです。日本の本社からすれば、海外に地域の統括会社があり、その子会社、孫会社までカバーすべき対象は広がります。海外の孫会社、ひ孫会社のことは、本社の取締役会で取り上げられることはありませんが、いざ、不正経理等が発覚したら、その影響は本社にまで波及して、決算の公表スケジュールを延期しなければならないような事態に発展してしまうこともあります。
 事業会社も大変ですが、金融機関も信用第一なので、レピュテーションリスクは大きいですね。
 そうですね。あと、最近ではシステムリスクも大きいです。金融機関の業務はシステムに依存していますので、システムリスクが大きいのは当然ですが、事業会社であっても経理・財務などのシステムに誤りが生じると大変なことになります。
 企業グループによっては、子会社でまったく別業態の事業を営んでいる場合もありますね。
 はい、その場合には、「親会社が子会社の事業の意思決定を担うことが適切なのか?」という問題も存在します。セミナーでお話しする際には、鉄道会社が駅ビルで商業施設を営むようなケースを挙げています。鉄道会社における鉄道の安全運行のノウハウと、商業施設における業界動向や規制のあり方は異なりますので、親会社(鉄道会社)の取締役会に子会社の事業(で駅ビルの運営)に関する議案を付議・報告することが本当にガバナンスとして適切なのかどうか、なんでも親会社にお伺いを立てさせることが最適な子会社管理とは言えないと思います。
 親会社で子会社の経営を細かくチェックすれば、ガバナンスが効いていて優れている、とは言い切れないのですね。
 親会社に専門的知見がないならば、企業価値の向上に資する仕組みとしては、子会社に任せるべきところを任せる、というほうが優れていることもあるはずです。各社それぞれの事情があるはずなので、各社の実情に合わせて制度設計しなければなりません。一律に適用される「正解」があるわけではありません。
 企業の担当者としては、松山先生のような専門家に「正解」を教えてもらいたい、という気持ちもあるのではないでしょうか。
 このことをセミナーでお話しすると、がっかりされてしまうこともあります(苦笑)。ただ、『実効的子会社管理のすべて』においては、答えそのものは書いていなくても、各社で答えを考えるためのヒントは盛り込んだつもりです。こういうことがあるときは注意しなければいけませんよね、といった点をなるべくたくさん書かせていただいたつもりですので、それを参考にしながら、自社なりの工夫を進めてもらいたいです。
 留意点、というと、どういう点があるでしょうか。
 そうですね、先ほども申し上げましたが、M&Aをした子会社は、カルチャーが違います。本社の内部監査部門が監査に出かけていっても、子会社がやってきた業務のやり方を知らなければ、監査に行っても、問題点を見つけ出すことができない可能性もあります。問題が起こって、初めて「あぁ、そうだったんだ」と気付くこともあります。うまく行っていない、うまく行かなくなる可能性がある、ということが起こりそうなポイントをできるかぎり網羅したつもりです。
 子会社管理は、雛形的な統一ルールを作ることが難しい分野なのですね。
 どこの会社の担当者も、人間の心理として「統一ルールを作りたい」という目標を設定しがちです。特に子会社をたくさん抱えている企業グループほど、整理したい、という気持ちが生じます。ただ、統一ルールには馴染まない可能性が高いです。統一ルールを機能させるためには、そういう前提で子会社を設計していかなければなりません。
 それでは、次に、弁護士が社外役員に就任する意義についてお伺いしてみたいと思います。先ほどの繰り返しとなりますが、どのような場面での活躍が期待されるでしょうか。
 まず、コンプライアンス、不祥事対応が挙げられます。また、私も会社法を専門としておりますので、指名委員会の運営のあり方とか、こういう点は議論したほうがいいのではないか、と言った形で発言できるポイントはあると思います。
 先ほどは、旧経営陣の責任追及訴訟での代理人経験も豊富なことをお伺いしましたが、その経験も活かされているのでしょうか。
 役員の経営判断、善管注意義務違反が問題になるかもしれない、と疑われる場面では、リスクの検証についての意見を言うことも多いです。取締役会の資料でリスク情報や検証が十分されているのかどうか、「もうちょっとこの部分のリスクをチェックしておいたほうがいいのではないか?」といった提案ができることもありますね。
 法律的なバックグラウンドを持たない社外役員からすれば、取締役会に、弁護士資格を持った社外役員がいてくれるのは、自分達の善管注意義務を尽くす、という観点からも、心強いかもしれませんね。
 はい、期待されているところだと思います。
 これまでにも、監査役会設置会社で社外監査役を務めている弁護士は相当数いらっしゃいますが、取締役にいたほうがいいでしょうか。それとも取締役と監査役に両方いたほうがいいでしょうか。
 取締役会の出席者に、ひとりは法律家がいることにすごく意味はあると思います。ただ、二人、三人も必要か、というと、貴重な枠を法律家ばかりで埋めるのがよいかどうかはわかりません。
 取締役会にひとりでも法律家が参加していれば、それは、取締役であっても、監査役であっても構わないと思います。
 一般論として、法律家、弁護士が取締役会のメンバーとして参加することに意義はあるとしても、どういう専門分野の方がより望ましいと思いますか。やはり、会社法の知識は効きますか。
 会社法に詳しいのは、効果的なガバナンスの仕組みを考える上では役には立ちますよね。
 不祥事対応でも弁護士が活躍する余地がある、との指摘がありました。不祥事対応力という点では、検察官出身者が人気を集めていますが、この点はどう思われますか。
 検察官出身者で不祥事調査の経験が多いとか、刑事事件に発展した場合の見通しといった点では役に立つと思います。ただ、細かい知識が問われるか、と言えば、そういうものでもないような気もします。
 高度な専門性が求められる、というイメージもありますが。
 本当に専門的なアドバイスが必要であれば、社外役員の弁護士で代替せずにきちんと専門の弁護士に助言を求めるべきであり、社外役員にあまりニッチな専門性が期待されているわけでもないと思います。最先端の金融取引の理解とかが求められているわけでもありません。何が求められているか、と言えば、個別案件についてのアドバイスではなく、ガバナンスとしての立ち位置、振る舞い、全般的なリスク感覚と言ったところの理解が大事だと思います。
 執行側は、個別案件のアドバイスは、顧問弁護士に相談すればいいのですね。次に、監査役と取締役の違いについてもお伺いしたいと思います。先ほど、法律家がボードに参加するならば、どちらでも構わない、というご発言がありましたが、取締役は、議決権を持っている分だけ、監査役よりも重い責任を持って取締役会に出席されているのでしょうか。
 ボードでの発言に関しては、それほど区別はないのではないでしょうか。私も、個人的には、監査役の場合には「監査役目線」の発言を、取締役の場合には「取締役目線」の発言を多少は意識していますが、だからといって、「自分は監査役だから発言を控えよう」といった発想はしません。社外取締役からも、コンプラに関する発言がなされることもありますし、社外監査役から、組織運営について発言がなされることもあります。そこは、各人のご経験に沿った発言が期待されていると思います。
 それでは、この人は、社外監査役には向いているけど、社外取締役には向かない、ということはないでしょうか。
 この先、違いが出てくるとすれば、委員会での議論ですよね。社外取締役は、指名委員会と報酬委員会に入っていくことになります。指名委員会は、事業計画をどう立てて、その計画を達成できたかどうか、という業績評価をしなければならなくなってきます。そうすると、監査役の役割とは大分違いが出てきます。
 では、指名委員会や報酬委員会への参加も視野に入れると、社外取締役が務まる弁護士、というのは、どういうイメージでしょうか。

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(にしだ・あきら)

✉ akira@nishida.me

1972年東京生まれ。1991年東京都立西高等学校卒業・早稲田大学法学部入学、1994年司法試験合格、1995年東京大学大学院法学政治学研究科修士課程(研究者養成コース)入学、1997年同修士課程修了・司法研修所入所(第51期)。

1999年長島・大野法律事務所(現在の長島・大野・常松法律事務所)入所、2002年経済産業省(経済産業政策局産業組織課 課長補佐)へ出向、2004年日本銀行(金融市場局・決済機構局 法務主幹)へ出向。

2006年長島・大野・常松法律事務所を退所し、西田法律事務所を設立、2007年有料職業紹介事業の許可を受け、西田法務研究所を設立。現在西田法律事務所・西田法務研究所代表。

著書:『弁護士の就職と転職』(商事法務、2007)

 

 




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