◆SH2199◆弁護士の就職と転職Q&A Q60「修習生は弁護士会による勧誘自粛要請をどう解釈すべきか?」 西田 章(2018/11/19)

弁護士の就職と転職Q&A

Q60「修習生は弁護士会による勧誘自粛要請をどう解釈すべきか?」

西田法律事務所・西田法務研究所代表

弁護士 西 田   章

 

 今年も、弁護士会から「第72期司法修習生等に対する採用のための勧誘行為自粛に関する協力について(要請)」が届きました。「平静な司法修習環境を維持し、司法修習の実効を期し、また司法修習生の職業選択の自由を尊重するため」に、司法修習の開始から3ヵ月間(来年2月末まで)は、採用の勧誘を行ってはならないものとされています。しかし、人気の高い企業法務系事務所ほど、修習が開始する前に事実上の採用活動を終えている、という皮肉な現実もあります。

 

1 問題の所在

 要請文書は、「平静な司法修習環境」や「司法修習の実効」を目的に掲げていますが、これにはあまり説得力はありません。内定を持っているほうが、落ち着いて修習に専念できますし、休暇を取って就職活動をする必要もなくなるからです(以前は、「企業法務系事務所への就職が決まっていると、刑事系科目が疎かになる」という議論もありましたが、昨今の「危機管理ブーム」は、図らずも、企業法務系事務所に就職する者が刑事系科目を習得することの重要性を認識させています)。

 とすれば、この要請文書の「肝」は、「司法修習生の職業選択の自由」を尊重するために、法律事務所は、内定受諾まで至っていても、「司法修習生等が撤回することを妨げてはならない」という部分にあると考えるべきです(その反射効として、裁判所と検察庁における優秀な人材の確保にも資することになります)。実際のところ、修習前に法律事務所の内定を受諾していても、弁護士登録後に担うべき業務の具体的イメージまで思い描けている人はいません(当然ながら、その業務に対する適性が自分にあるのかどうかも未知の世界です)。内定受諾で了承したのは、「毎日、あのオフィスで深夜まで働くことになるんだろうな」という勤務の外形的なイメージです。

 これに対して、司法修習に入れば、事件記録を読み込んだ上で、裁判修習では証人尋問を傍聴して判決を起案し、弁護修習では準備書面を起案し、検察修習では、被疑者の取り調べを行います。業務に対する適性という観点からは「これこそ自分の天職だ!」とまで確信できるところまでは至らなくとも、少なくとも「この仕事は自分に向いていなくもない」という程度には自信を抱くことはできます。

 そのため、法律事務所の内定を持って司法修習をスタートするということは、「先攻で、外観的イメージだけで法律事務所への就職を決めた暫定的判断に対して、後攻で、実際に、弁護士業務、裁判官業務、検察官業務を体験することで、その暫定的判断を維持できるかどうかを確認するプロセス」が待っているということになります。ここで、要請文書が掲げる「職業選択に関する自由な意思」を重視すれば、ゼロベースで、他の選択肢への乗り換えも検討できることになります。

 

2 対応指針

 進路を決定するのは自分ですが、「自分の意思」と思われる価値観は、それほど確固たるものではなく、直近の体験と入手した情報に大きく影響を受けます。

 裁判修習や検察修習で、「裁判官又は検察官の業務内容」に惹かれたのであれば、裁判官又は検察官の指導担当との間で、その進路に進むことについて真剣に話してみるべきです(指導担当からは、裁判官又は検察官の仕事の面白さとは別に、企業法務系事務所のネガティブ情報(ハードワーク、パートナー選考の厳しさ、売上げプレッシャー等)が指摘されがちです)。

 他方、「後出しジャンケン」で内定承諾先事務所を負かせることにも配慮が必要です。少なくとも、(事後報告ではなく)撤回を決める前に、内定先事務所を訪ねて、反論の機会を与えるべきです(内定取得前よりも本音ベースの質問をすることができます。事務所に裁判官又は検察官出身者がいれば、役所勤めの実際のところや退官理由を教えてもらうこともあります)。

 なお、「内定承諾の撤回」を、他の法律事務所に乗り換える場合でも自由に行使できる、とまで考えるのは行き過ぎかもしれません。個人的には、実務修習先事務所は(内定先を断っていくべき先ではなく)一旦、勤務した後にミスマッチが発覚した場合の「転職先候補」として確保することをお勧めしています。

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(にしだ・あきら)

✉ akira@nishida.me

1972年東京生まれ。1991年東京都立西高等学校卒業・早稲田大学法学部入学、1994年司法試験合格、1995年東京大学大学院法学政治学研究科修士課程(研究者養成コース)入学、1997年同修士課程修了・司法研修所入所(第51期)。

1999年長島・大野法律事務所(現在の長島・大野・常松法律事務所)入所、2002年経済産業省(経済産業政策局産業組織課 課長補佐)へ出向、2004年日本銀行(金融市場局・決済機構局 法務主幹)へ出向。

2006年長島・大野・常松法律事務所を退所し、西田法律事務所を設立、2007年有料職業紹介事業の許可を受け、西田法務研究所を設立。現在西田法律事務所・西田法務研究所代表。

著書:『弁護士の就職と転職』(商事法務、2007)

 




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