◆SH2177◆弁護士の就職と転職Q&A Q58「激務に耐えた経験は、市場価値を上げてくれるのか?」 西田 章(2018/11/05)

弁護士の就職と転職Q&A

Q58「激務に耐えた経験は、市場価値を上げてくれるのか?」

西田法律事務所・西田法務研究所代表

弁護士 西 田   章

 

 「働き方改革」の波は、法律事務所にも緩やかに及び始めています。「アソシエイトに労働者性が認められるのか?」という問いを肯定する結論が出されたわけではありませんが、表向きは、稼働時間を監視し、過剰な労働を防ぐ仕組みを講じる事務所が増えて来ています。ただ、他方で、企業法務の仕事には「踏ん張り」が求められる場面があることは今も変わりありません。現在、一流事務所でパートナーを務めている弁護士達は、皆、アソシエイト時代に「激務」を乗り越えて来た世代であるために、「どうすれば、今のアソシエイト達に、自分達の若い頃のような踏ん張りを求められるか?」という課題が生じています。

 

1 問題の所在

 伝統的には、法律事務所は、「新卒採用」を好んで来ました。「まっさらな新人に、ゼロから、当事務所の文化と仕事のスタイルを教え込みたい」「他所で教育を受けてヘンなクセがついてしまったら、矯正できない」という発想がありました。

 しかし、最近は、「新人弁護士を少し強く指導しただけでも、パワハラと言われてしまう」「ブラック事務所と呼ばれてしまう」という警戒感も生まれています。パートナーたちも、総論的には「アソシエイトにワークライフバランスが保たれた質の高い生活を過ごしてもらいたい」と考えて、「深夜までの残業や週末出勤を常態化させたくない」という姿を思い描いてはいます。ただ、現実には、M&AのDDレポートの提出期限が迫っていたら、残業してでも間に合わせなければなりません。密行性のある仮処分の申立てを依頼されたら、週末でも出勤して準備しなければなりません。そのような「踏ん張り」が求められるときに、アソシエイトから「仕事は定時に終わるのが原則」とか、「時間外労働には残業代が支給されるべき」と、(専門職の責任よりも先に)労働者の権利を優先して主張されてしまうと、「それでも弁護士か!」と怒鳴りたい衝動にも駆られるようです(ドライなアソシエイトの立場からすれば、「事務所のキャパシティーをオーバーするような業務を受けてしまったパートナーの判断ミス」ということになるのかもしれませんが)。

 「水は低きに流れる」の例えのように、「仕事のキツい職場からユルい職場へ」の順応は出来ても、その逆には難しいものがあります。そこで、法律事務所の採用担当パートナーからは、「どこか他所で『仕事の厳しさ』を教え込まれたアソシエイトを採用すれば、自ら『憎まれ役の鬼軍曹』を引き受けないで済む」というニーズも聞かれるようになりました。それでは、どのような経験であれば、「『仕事の厳しさ』を教え込まれたアソシエイト」という評価につながるのでしょうか。

 

2 対応指針

 採用担当パートナーは、「自分たちがアソシエイト時代に経験したのと同じような激務をこなした若手弁護士」には、「ここぞという時の『踏ん張り』がきくだろう」という期待を抱きます。そのため、転職市場でのプラス評価の対象は、「採用担当パートナーの想像力が及ぶ経験」に限られます。

 例えば、企業法務の世界で「あの弁護士の仕事は緻密で素晴らしいが、その下で働くのは大変」という評価を受けているパートナーの下で働いた経験や、「あのクライアントは、要求水準が高く、かつ、即答を欲する」という評判の企業(外資系投資銀行や投資ファンド等)を代理した経験は、採用担当パートナーに注目してもらいやすいです。

 他方、かつては存在していなかった新種の業務(例えば、危機管理案件におけるメールレビューやヒアリングメモの作成)については、(採用担当パートナーの経験に照らした共感を得ることができないので)「そんな仕事ばかりしていたら弁護士として成長できないのではないか?」という疑問を抱かれてしまうこともあります。

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(にしだ・あきら)

✉ akira@nishida.me

1972年東京生まれ。1991年東京都立西高等学校卒業・早稲田大学法学部入学、1994年司法試験合格、1995年東京大学大学院法学政治学研究科修士課程(研究者養成コース)入学、1997年同修士課程修了・司法研修所入所(第51期)。

1999年長島・大野法律事務所(現在の長島・大野・常松法律事務所)入所、2002年経済産業省(経済産業政策局産業組織課 課長補佐)へ出向、2004年日本銀行(金融市場局・決済機構局 法務主幹)へ出向。

2006年長島・大野・常松法律事務所を退所し、西田法律事務所を設立、2007年有料職業紹介事業の許可を受け、西田法務研究所を設立。現在西田法律事務所・西田法務研究所代表。

著書:『弁護士の就職と転職』(商事法務、2007)

 

 




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