◆SH2069◆インハウスと外部弁護士③ GEジャパンGC(大島葉子)に聞くインハウスとしての資質と経験 西田 章(2018/09/05)

インハウスと外部弁護士③
GEジャパンGeneral Counsel(大島葉子)に聞く
インハウスに求められる資質と経験

GEジャパン General Counsel
弁護士 大 島 葉 子

Vanguard Lawyers Tokyo
弁護士 山 川 亜紀子

(司会)西 田   章

 

 前回(第2回)は、山川亜紀子弁護士が、フレッシュフィールズにおいて、出世欲がなかったにも関わらず、先輩弁護士から強引にパートナートラックに載せられてしまったこと(結果としてパートナーに昇進してハッピーだったこと)、そして、マーケットの変化に伴いアウトバウンドの仕事が中心となった英国系トップファームが、日本国内の訴訟や労働案件に携わるためには最善のプラットフォームではなくなった状況を踏まえて、長年の夢である独立を果たされた経緯などをお伺いしました。

 今回(第3回)は、大島弁護士に、GEジャパンでのご経験を踏まえた採用側の目線から、インハウスに求められる資質や経験を語ってもらいました。

 

 それでは、今度は、大島さんに、GEでの経験も踏まえて、インハウスに求められる資質や経験について教えていただきたいと思います。今後、GEでインハウスを募集するとすれば、どんなポジションがあるでしょうか。


 一般論として、GEジャパンでは①マネジメントの一員となるビジネスのGeneral Counselのポジションを探す場合と、②ビジネスの取引案件を主にサポートする、コマーシャル・カウンセル、というポジションそれから③コンプライアンスに注力するポジションを探す場合の3通りが考えられます。


 新人弁護士やジュニアを採用することはなさそうですね。


 コマーシャル・カウンセル(②)やコンプライアンス・カウンセル(③)でも、法律事務所で一定の経験を積んで、一通りのことを自分で判断できる、そして、自分は何ができて、何ができないかを理解した上で、上司に相談または関係部署に適切な質問ができる、という層を候補者として想定しています。結果的には、最低でも4年、概ね、5年から8年程度の実務経験は必要だと考えています。


 General Counsel(①)になれば、もっと長い経験が求められますよね。


 そうですね。General Counsel(①)は、ビジネスリーダーのアドバイザーであり、かつ、自らがマネジメントのスタッフとなりますので、若手で抜擢されることがありうるといっても、最低でも10年以上の実務経験が求められると思います。


 経験を積む場所としては、やはり、法律事務所経験が必須、ということになるでしょうか。他の企業でインハウスとして働いてるだけでは足りない、と。


 少なくとも現時点ではそう思っています。先ほども「法律事務所では徹底的にリサーチする」とか「契約書や意見書に完璧度を求める」という話が出ましたが、一度は、完成度、精度を上げることを追求したトレーニングを積んでおいてもらいたいと思っています。
 インハウスになってしまうと、逆にそこまでの完璧度を求められなくなりますが、「本来、法律事務所であれば、ここまで精度を上げることが求められていた」という感覚を持っているからこそ、「インハウスでは、スピード重視で進めるために、この程度緩ませた基準でOKとする」という判断ができると思います。まずは、「高い精度が求められた場合に、本来はどこまでの仕事をするのか?」という状況を経験してくれていることは大きな財産だと思っています。それをベースに入社後GEのインハウス・ロイヤーそして社員として研鑽を積んでいただく、少なくとも現時点ではそう考えています。


 業務分野としては、どのような案件の経験を求めるでしょうか。訴訟代理人をしているだけで身に付くものではないですよね。


 先ほどの山川さんの話にも「訴訟弁護士は好戦的なほうがいい」という指摘があったとおり、訴訟弁護士と、トランザクションの弁護士は、ちょっと仕事のスタイルが異なるように思います。実際に、仲裁の準備もしながら、契約交渉をしたことがあったのですが、チームにリティゲイターに入ってもらったときにそれを感じました。もちろん、契約交渉も、どこが弱みだとか、ここを突かれたらこう返そう、という準備はしますが、あくまでも「合意ありき」で検討しますので、「叩き潰す」という発想はありません(笑)。


 やはり、コーポレートやファイナンスのトランザクションを経験しているのが望ましいですか。


 コマーシャル・カウンセル(②)であれば、確かに即戦力となるのは、M&Aやプロジェクト・ファイナンスなどのディール系のコーポレートやファイナンスの弁護士です。例えば、パワー部門での採用を考えた場合に、エネルギー業界のことを知ってくれていたり、契約関係でも、自分たちが足元で交渉している契約だけでなく、「その先にどういうプレイヤーがいて、どういう契約関係が存在するか」というイメージを持ってくれているとコミュニケーションはとりやすいです。ただ、グローバルのGEのGeneral Counselは、過去2代はLitigatorと検察官出身でした。というのも、一般的な契約業務のスキルをベースに、「訴訟になったらどうか」という視点や危機対応が究極的には会社のガバナンスにとって重要だからです。コンプライアンス・カウンセル(③)であれば、不祥事対応などで調査等の経験が生かされます。
 いずれにせよ、「どの法分野のスキルセットが必要である」もさることながら、どんな法分野であっても、「精度の高い仕事をするトレーニングを積んで来てくれていること」を大事にしています。


 GEだと、英語力は必須ですよね。


 そうですね。GEの日本での案件では、取引先との間では、日本における企業の担当者と日本語でコミュニケーションをとることが多いのですが、何かトラブルが起きたとき、社内の関係者に、その問題を伝えて対応を検討するのは、英語での電話会議や、英文メールでのやりとりが多くなります。せっかく日本語では問題に対応できる知見を持っていたとしても、英語でそれを表現するスキルを持っていなければ、現実的には、仕事を効率的に進めることは難しくなってしまいます。


 大島さんは、学生時代にも海外で生活されたご経験もあるので、英語での苦労はなかったのですか。


 英語で仕事をすることは、ClearyのNYオフィスでNY州の弁護士として、米国人のクライアントや同僚とのコミュニケーションをとる中で鍛えられたと思います。子供または学生として生活するのとは違いましたね。


 GEに入ってからは、英語での苦労はなかったですか。


 コミュニケーションに関して、英語もそうですが別の観点からも鍛えられました。GEに入ってから学んだことは、「関連する大量な情報をそのまま伝えることは求められていない」ということですね。ビジネスサイドの担当者やマネジメントには、細かい事実関係やテクニカル法律解釈を伝えても、かえって混乱してしまいます。どこが一番大事なのか、を考えて、関連する情報を取捨選択し、「ここだけは気にしておいてね」という点を伝えることを意識するようになりました。メールも短ければ短いほどよいので、チームの弁護士のメールをレビューした際、切り落としていき、3分の1の長さに縮めたこともあります。


 それは、座学とか、コミュニケーションに関する研修で学ばれたことなのでしょうか。


 研修も一定のメリットはありますが、GEで働いていると、周囲にすぐれた見本がたくさんあるので、仕事で見聞きするコミュニケーションの仕方から、学んだ面が多いです。


 見本というのは、GEの社内の法務部門の上司や同僚ということでしょうか。


 勿論GEのグローバルやリージョナルのGeneral Counselらから学んだことは多いですが、リーガル部門に限らないですね。また、キャピタル時代、案件レビューがあり、そこでは10分程度でグローバルまたはリージョナルのマネジメントにチームで案件の概要と考えられるリスクを説明し且つ鋭い質問に答える必要があったので、そこで鍛えられた部分もあります。リーガル部門に限らず、例えば、ファイナンス部門の人でも、議論の中では、どんどん切り込んだ指摘や質問をしてくれますし、リーガルからの意見を聞いて、あっという間に理解して分析してくれます。法務を専門としていないビジネスパーソンと一緒に仕事をしていると、「法律は殆どの場合結局はロジックと価値判断である」ということを気付かされます。今でも鍛えてもらえる場には事欠かないです。


 インハウスに求められる資質は、法律事務所において求められるものと違いがあると思われますか。ビジネスに対する興味は持っておかないとならないのかな、とは漠然とは想像致しますが。


 「この問題はリーガルではないので、私の担当ではない」という風に、守備範囲を狭めて捉えてしまうような弁護士には向いていないと思います。GEは、変化が激しい会社なので、変化に対する柔軟性を持っていることはリーガルでもとても大事です。また戦略的に考えることに面白さを感じる方にはGEのリーガルは向いていると思います。


 よく言われるフレーズに、「リーガルは、事業部門から問い合わせられた方法に『NO』と言うだけではダメであり、代替案を出せ」と言われますよね。


 はい、「NOと言うだけでなく、どうしたら出来るようになるかを教えてほしい」というのはよく聞く言葉ですね。ただ、「本当にNO」という案件もあります(苦笑)。ただ、それはリーガルというよりビジネスのNOなのですよね。
 どういうリスクが自社にあるか。そのリスクを当社が取れるものかどうかを分析するための前提を理解してもらい、ビジネスリーダーと判断する。そのための説明をできることが大切です。


 先ほどご指摘にあった「なんでもかんでも細かい情報を伝えたらいいというわけではない」という、ビジネスサイドとのコミュニケーションのあり方が大事になってくるのですね。


 はい。社内の打合せで、説明者からの報告に対して、ビジネスリーダーが「言っていることが分からない」と返している場面に居合わせたことがあります。これは、説明者が「ビジネスリーダーに対して、何を判断してもらいたいのか?」という目的意識を持たずに、単に、事実の細かいことを伝えようとするために、うまく必要な事実が吸い上げられていないことが原因だったのでしょう。


 トラブル対応にも当てはまりそうですね。


 そうですね。「何のリスクがあって、それはどんなリスクなのか、そのリスクに対して現時的にできることは何か」といった分析が重要となります。優秀でも、そこで苦労している日本の弁護士も多いような気がします。


 外部弁護士との仕事の切り分けはどのようになっているのでしょうか。例えば、製品供給先に提供しているデータに改ざんがあった、というような相手方への責任が絡むような場合では、外部弁護士に相談するのでしょうか。


 保証や賠償義務を含む契約上の責任や告知しなかった場合の錯誤無効の成否は、民法上の問題ですので、社内のリーガルで検討してビジネスに助言することになります。ただ、その前提として客観的な事実関係の調査が大規模に必要になりますと、外部弁護士を起用したりします。レピュテーション・リスクとなると広報などの関係部署と連携して検討することになります。
 外部事務所の起用は、内部に専門知識がない分野である場合、訴訟リスクとか、外部弁護士としての経験などに基づく分析を期待する場合、M&Aや証券化のように大量のマンパワーまたはドキュメンテーション作成が必要な場合、などに限られてきます。


 そういうインハウスの役割を担う人材として、性格的な向き、不向きみたいなものはありますでしょうか。ポジティブな人がいい、とか。


 確かに、ネガティブな人よりは、ポジティブな人のほうがいいですね。
 あとは、素直な人。周囲から指摘を受けても、それを攻撃されたと思って自己弁護に走るのではなく、「なるほど」と言って、素直に指摘を受け止められる人のほうが伸びますね。


 大島さんには、目標にするような、憧れの弁護士はいるのでしょうか。


 外部弁護士としては、Cleary時代にお世話になった、Lee C. Buchheit弁護士の仕事振りは凄かったな、と尊敬しています。ちょっと変わった人なのですが(笑)。
 インターネット上にも記事が紹介されているように、Buchheit弁護士は、外国政府の債務のリストラクチャリングの専門家です。一緒に仕事をした中東の某国の債務をグローバルでリストラクチャリングする件でも、チームでDCに飛び、債務国の中央銀行の総裁や財務担当の大臣と共に、30分の交渉に臨む際には、事前にチームメンバーを集めて、「これからこういう話になると思うが、先方がこう言って来たら、こう返す」という、すべてのシナリオを1時間半シミュレーションしていました。チームメンバーは、「交渉には世界の第一人者ですらこれだけの入念な準備をして臨むのか」ということをまのあたりにした訳です。ただそれ以外にも、今まで勤務した日米の事務所そしてGEでご縁のあった弁護士にも「すごいな」と感動する方々が数多くいました。


 インハウスにも尊敬する方はいますか。


 特定の方一人に絞り込むことはできませんが、リーガルであるか否かに問わず、社内に、色々と学ばせてもらえ、人格的にもすばらしい人たちがいるのは、幸運なことだと思います。


 インハウスとしての待遇面についてもお伺いしてもいいでしょうか。たとえば、給与はどのような設計になっているのでしょうか。投資銀行は、株や業績に連動したボーナスの比重が大きい、と聞くこともありますが。

 

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(にしだ・あきら)

✉ akira@nishida.me

1972年東京生まれ。1991年東京都立西高等学校卒業・早稲田大学法学部入学、1994年司法試験合格、1995年東京大学大学院法学政治学研究科修士課程(研究者養成コース)入学、1997年同修士課程修了・司法研修所入所(第51期)。

1999年長島・大野法律事務所(現在の長島・大野・常松法律事務所)入所、2002年経済産業省(経済産業政策局産業組織課 課長補佐)へ出向、2004年日本銀行(金融市場局・決済機構局 法務主幹)へ出向。

2006年長島・大野・常松法律事務所を退所し、西田法律事務所を設立、2007年有料職業紹介事業の許可を受け、西田法務研究所を設立。現在西田法律事務所・西田法務研究所代表。

著書:『弁護士の就職と転職』(商事法務、2007)

 

 




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