◆SH1940◆弁護士の就職と転職Q&A Q47「『インハウスになれば安定できる』との発想に見落しはないか?」 西田 章(2018/07/02)

弁護士の就職と転職Q&A

Q47「『インハウスになれば安定できる』との発想に見落しはないか?」

西田法律事務所・西田法務研究所代表

弁護士 西 田   章

 

 前回の冒頭でも触れたとおり、大手事務所のアソシエイトにとっては、「パートナー審査の厳しさ」や「売上げプレッシャー」がキャリア形成上の大きなリスク要因と受け止められています。ハードワークを続けることに疑問を抱くアソシエイトは、一度は、「インハウスになれば、安定した生活を送れるのではないか?」と考えるものです。ただ、結論を導くための前提条件は「インハウスとして成功すれば」と置くべきであり、インハウス特有のリスクも考慮しなければなりません。

 

1 問題の所在

 大手事務所に入所する新人弁護士は、2つのタイプに分けられます。ひとつは、「パートナーになって自ら活躍すること」を夢見る層であり、もうひとつは、「とりあえず、大手事務所に入って基礎的な訓練を受けられたら十分」であり、その後のことは改めて考えようとする層です。前者は、「事務所で成功しているパートナー」をキャリアモデルに据えており、後者は、「事務所で辛そうに仕事をするパートナー又はカウンセル」に自分の将来像を重ねてしまいがちです。

 具体的な目標を持つことができずにハードワークを続ける後者にとっては、「インハウス」という言葉からは「①労働法に守られた生活を過ごすことができるし、②パートナー選考に落ちることはないし、③売上げプレッシャーを受けることもなくなる」という点では理想的な職場を思い浮かべることができます。確かに、緊急避難的な事例(すぐに現職を辞めなければ、心身を損なってしまいそうな段階)であれば、最大の問題(ハードワーク)を解消するためだけに転職に踏み切っても構いません。ただ、もし、中長期的にキャリアを考える余裕があるのならば、「法律事務所勤務を続けた場合の悲観シナリオ」を、「インハウス転向後の楽観シナリオ」と見比べるだけでは不十分です。「インハウスでミスマッチが生じた場合の悲観シナリオ」も念頭に置いた上で、自分の希望や適性に沿ったキャリアの方向性を考えてみてもらいたいと思います。

 

2 対応指針

 インハウスになれば、管理部門である法務部門の責任者又は担当者は、「売上プレッシャー」からは解放されます。他方、依頼者(上司/担当部門)が固定化されるために、「ミスマッチ」が生じてしまった時は、「自己に対する(不当に)低い評価が固定化してしまうリスク」が深刻な問題となります(外部弁護士であれば、ある依頼者から低い評価を受けたとしても、その低評価が他の依頼者に共有されるわけではないので、別の依頼者への仕事で挽回するチャンスがあります)。外資系企業であれば、ミスマッチを許容した長期雇用を期待することはできませんし、「終身雇用」が原則の日本企業においても、ミスマッチを解消してくれることを期待できるかどうか(法務部門で低評価を受けた弁護士有資格者に対して、他に活躍できるポストを提供できるのか)は難しい問題です。

 「ワークライフバランス」に関しては、「出産・育児に手間を要する世代」においては、「プライベートの確保」という観点では、インハウスのほうが優れていると受け止められるのが一般的ですが、一部には「会社のほうが硬直的である」という意見(例えば、出勤時間やランチタイム、子供の保護者会への出席等のために一時的に職場を離れるのは、法律事務所の許容度のほうが高いなど)も聞かれます。また、年齢が上がってくると、今度は、「会社は『ワークを増やしたい』というニーズに応えてくれない」(定年後に働くチャンスも狭まってしまう)ことに対する不満の声が大きくなってきます。

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(にしだ・あきら)

✉ akira@nishida.me

1972年東京生まれ。1991年東京都立西高等学校卒業・早稲田大学法学部入学、1994年司法試験合格、1995年東京大学大学院法学政治学研究科修士課程(研究者養成コース)入学、1997年同修士課程修了・司法研修所入所(第51期)。

1999年長島・大野法律事務所(現在の長島・大野・常松法律事務所)入所、2002年経済産業省(経済産業政策局産業組織課 課長補佐)へ出向、2004年日本銀行(金融市場局・決済機構局 法務主幹)へ出向。

2006年長島・大野・常松法律事務所を退所し、西田法律事務所を設立、2007年有料職業紹介事業の許可を受け、西田法務研究所を設立。現在西田法律事務所・西田法務研究所代表。

著書:『弁護士の就職と転職』(商事法務、2007)

 




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