◆SH1912◆弁護士の就職と転職Q&A Q45「新興事務所に参画するメリットはどこにあるか?」 西田 章(2018/06/18)

弁護士の就職と転職Q&A

Q45「新興事務所に参画するメリットはどこにあるか?」

西田法律事務所・西田法務研究所代表

弁護士 西 田   章

 

 事務所の設立は、創業者にとっては、夢と希望のある取組みです。これまでの弁護士経験を踏まえて考え抜いた理想の事務所を具現化し、かつ、それを永続的な組織に発展させるのは、リスクや苦労を引き受けてでも取り組む価値があるプロジェクトです。しかし、「創業者の思い」は、第二世代、第三世代には必ずしも共有されません。創業者にとっては思い入れのある事務所も、後から参画する弁護士にとってみれば、「数ある法律事務所の中のひとつ」に過ぎません。ベンチャー企業のように「ストック・オプションを貰っておけば、上場によるキャピタル・ゲインも期待できる」というシナリオも想定できません。そのため、「設立当初でまだ経営が不安定な時期に飛び込んでまで得たいものとは何か?」はそろばん勘定だけでは見出しにくいものがあります。

 

1 問題の所在

 伝統ある名門事務所は、「アソシエイトとしての修行を受けさせてもらう」という環境面では優れていたとしても、一人前になった後で「では、ここでパートナーとして弁護士業務を営むべきか?」については別の考慮が働きます。事務所から与えられた恩義と恩恵(ブランド力や設備)よりも、ネガティブな要素(経費負担や先輩パートナーとの調整による不自由さ)が上回れば、「独立」するのも合理的な選択です。実際、「出身事務所で培ってきたスキルを用いて、従前通りの業務分野の仕事を提供する」という範囲での業務継続は、クライアントから、一職人弁護士としての資質を信頼してもらえているならば、それほど難易度が高いわけではありません(利益相反が少なくなり、料金設定に自由度を得られるのも好材料となります)。

 ただ、「新事務所で優秀な人材を採用して規模を拡大させる」「出身事務所では取り組めなかった分野にも進出する」となると、プレイヤーとしての資質を超えて、事務所経営者としての資質が問われるものとなり、成功のハードルは途端に上がります。創業者世代は、「これから成長する事務所である」「自分で事務所作りに参画できる」ことがセールスポイントになると考えがちです。しかし、「アソシエイト=労働者」にとってみれば、「成長」とは(経済的アップサイドではなく)むしろ「ハードワーク」を想起させるものです。また、「事務所作り」の面でも、労働条件を巡っては、使用者(パートナー)と労働者(アソシエイト)の利益は対立しがちです。現実にも、新興事務所に参画したアソシエイトからは、「名門事務所出身の創業者には、新興事務所のアソシエイトの辛さが分かっていない」「彼らも、アソシエイト時代にハードワークをこなしたかもしれないが、同時に、初任給1000万円超の高給や留学制度等の恵まれた条件も与えられていた」「それにも関わらず、経営者としては、『うちはベンチャーだから』といって、アソシエイトの給料の支払いには渋い」という愚痴も聞かれます。そして、結果として「『名門事務所のアソシエイトのハードワーク』と『中小事務所のイソ弁の低給与』が合体したようなブラック事務所が出来上がってしまっている」と評されていました。そこで、「制度が整った名門事務所よりも、新興事務所のほうが優れている」という点を、創業者やクライアントの視点だけではなく、第二、第三世代として事務所に参画する者の視点から考えてみる意義が生じています。

 

2 対応指針

 新興事務所への参画のメリットは、本人の年次や置かれた状況に応じて、代替案との比較考慮の下に相対的に感じられるものです。

 「パートナー(経費負担者)」にとってみれば、「信頼できる同僚弁護士と議論しながら仕事をできたら楽しいだろうな」という、ぼんやりとした姿を思い描くのをきっかけとして、次には、実務的に、現在の事務所経費の負担額を念頭に置いて、移籍後の経費負担、営業上のシナジーや「忙しい時に手伝ってくれる人手の確保しやすさ」等を比較して実現可能性を検討することになります。

 「パートナー予備軍」にとってみれば、「そろそろどこかでパートナーのタイトルを手に入れなければならない」という課題を意識しつつ、名門事務所の所内における「生き残り戦略」(例えば、同一法分野の大先輩の仕事を手伝って恩を売っておくことで、その定年時に顧客を承継してもらえる相続人になる等)とは異なって、「同一法分野には先輩がいない環境で、自らが新事務所でこの分野の第一人者になる」という目標を設定したりして、移籍後の生存可能性を探ることになります。

 「アソシエイト」にとってみれば、「事務所の成長=今後も先輩弁護士が増えてより忙しくなるかもしれない」だけであり、「下の世代に自分が使えるアソシエイトが増える(その稼働からフィーをピンハネして経済的アップサイドが生じる)」という「遠い未来」にまでは想像力が及びません。そのため、もっぱら、創業者の人間的魅力を背景に、近視眼的に「このパートナーの下で働いてみたい」という、純粋な「経験値獲得」が目的になります(ブティック事務所に対しては、特定法分野の専門性を磨くことが、総合事務所に対しては、幅広い種類の案件への関与が重視されがちです)。

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(にしだ・あきら)

✉ akira@nishida.me

1972年東京生まれ。1991年東京都立西高等学校卒業・早稲田大学法学部入学、1994年司法試験合格、1995年東京大学大学院法学政治学研究科修士課程(研究者養成コース)入学、1997年同修士課程修了・司法研修所入所(第51期)。

1999年長島・大野法律事務所(現在の長島・大野・常松法律事務所)入所、2002年経済産業省(経済産業政策局産業組織課 課長補佐)へ出向、2004年日本銀行(金融市場局・決済機構局 法務主幹)へ出向。

2006年長島・大野・常松法律事務所を退所し、西田法律事務所を設立、2007年有料職業紹介事業の許可を受け、西田法務研究所を設立。現在西田法律事務所・西田法務研究所代表。

著書:『弁護士の就職と転職』(商事法務、2007)

 

 




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