◆SH1873◆一流企業が真に信頼する法律事務所はどこか? ④潮見坂綜合法律事務所インタビュー 西田 章(2018/05/30)

一流企業が真に信頼する法律事務所はどこか?

④ 潮見坂綜合法律事務所インタビュー

潮見坂綜合法律事務所
弁護士 阿 南   剛

(聞き手)西 田   章

 

 業界研究(法律事務所)のインタビュー第4弾として、潮見坂綜合法律事務所の阿南剛弁護士にお話をお伺いしました(2018年5月11日)。
 

 (阿南弁護士は、東京大学法学部在学中に司法試験に合格されて、司法修習(54期)を経て、森綜合法律事務所(当時)に入所された後に、2007年4月の末吉綜合法律事務所の設立に参画されて、設立当初よりパートナーを務めておられます。同事務所は、その後2009年の事務所名を潮見坂綜合法律事務所と改称され現在に至っております。阿南弁護士の略歴については、潮見坂綜合法律事務所のHPをご参照下さい。)
 

 企業の知財担当者だけでなく、知財でのキャリアを目指す若手には、東京大学法科大学院で客員教授も務められた末吉亙弁護士があまりにも著名ですが、潮見坂綜合の50期代の中堅弁護士が講師を務めるセミナーでは、日本を代表する企業から数多くの法務担当者が、会社法、独禁法及び労働法等に関する最新の動向を教えてもらうために集まっています。今回の取材を通じて、私は、

  1.   潮見坂綜合の持つ知財に関する卓越した専門性が、中堅弁護士の有するM&Aや独禁法などの他のジャンルのノウハウと掛け合わさり、大企業からベンチャー企業までの幅広いニーズに応えている
  2.   争訟案件における深い経験に基づく「見立て」を、依頼者に対して適時かつ丁寧に報告することを通じて、依頼者の企業経営に関する予測可能性を与えることが、多数の優良企業との継続的な信頼関係を築き上げている
  3.   採用面では、優秀なだけでなく、誠実で議論好きな弁護士だけを集めることにより、「売上至上主義」の罠に嵌ることなく、若手は、難しいながらも弁護士冥利に尽きる案件を任せられて、経験豊富な同僚弁護士の知見を「合議」を通じて吸収しながら成長できる環境にある

という構造を理解することができました。

 以下、質疑の詳細を掲載致しましたので、どうぞご覧ください。

 

1.依頼者層

商事法務のNBL2017年12月1日号(1111号)における故古曳正夫先生を偲ぶ特集では、末吉亙先生が「古曳先生の教え」を寄稿されていました。旧森綜合の遺伝子を受け継ぐ事務所だと理解しているのですが、依頼者層としては、日本企業が多いのでしょうか。
そうですね、継続的な関係があるクライアントは、日本企業が中心になります。
外国企業・外資系企業からの依頼もあるのでしょうか。
外国の法律事務所からの紹介で、外国企業からも案件を受けていますが、通常の仕事の割合としては、日本企業のお手伝いをしていることが多いですね。
企業規模としては、大企業中心と理解してもよいでしょうか。
統計を取っているわけではありませんが、上場企業やそのグループ会社など規模の大きい会社が比較的に多いと思います。
 ただ、所属する弁護士の中には、スタートアップの相談も積極的に受けている者もいます。
業種的には、金融機関と事業会社でいえば、どちらが多いでしょうか。
金融機関からもご依頼をいただいていますが、数でいえば、事業会社のほうが多いですね。
ファンドの仕事もあるのでしょうか。日本企業と対峙するようなアクティビスト・ファンド等を代理することもあるのでしょうか。
プライベート・エクイティ・ファンドの仕事をさせていただくことはありますが、日本企業に敵対的な行動を起こしているアクティビスト・ファンドとはまだご縁がありません。
末吉先生をはじめとして、一流の知財弁護士がいるために、日本企業の知財部からの信頼が厚いですよね。
日本企業の知財部から案件の機会をいただいて、よい成果を出させていただいています。
依頼者層に業種的な偏りはあるのでしょうか。
私自身は知財を扱っていませんが、横で見ていても、特に偏りはないと思います。ただ、あたらしい分野には積極的に取り組んでいるため、最近では、ゲームやIT分野で特許事件が起きることも増えているため、そうした事件でも引き合いをいただいています。
ゲームの著作権が争われた事件で、潮見坂が大手事務所を相手に知財高裁で勝利して、最高裁でもその判断が維持されたことが2013年に報道されていました。企業は、こうした裁判実績を評価しているのでしょうね。
知財の訴訟事件は、通常事件とは異なって、原則として全件が公表されます。業界の方は、裁判所のHPを通じて最新の裁判動向を確認はされているのだと思います。
一般の事件が仮に判例集に掲載されても、会社の方は、判例時報や判例タイムスまではチェックされないですよね。
通常のご相談は、顧問契約やそれに準じるような継続的な関係の中からご連絡をいただいています。その他に、他の法律事務所からもご紹介をいただくことが少なくありません。
産業界だけでなく弁護士業界内でも評価が高いですよね。
商事法務から出版させていただいた単行本がきっかけになって、ご紹介をいただくこともありますので、商事法務には感謝しています(笑)。
企業内では、知財部と法務部が連携している場合もあれば、外部弁護士選びは別々に行なっている場合もあると思います。知財案件の依頼者と、ジェネラルコーポレートの依頼者は重なることもあれば、別のこともあるのでしょうか。
はい。最近は、重要なコンテンツ等の知財を保有している企業を買収対象とするM&Aのご相談をいただくこともあるので、知財のノウハウと、M&Aのノウハウを掛け算で用いたサービスを提供する場面も増えています。
個人の依頼者からの相談も受けているのでしょうか。
個人依頼者の数は多くはないですね。ただ、会社の経営権をめぐる争いなどで、役員である個人を依頼者とする場面には遭遇します。株主代表訴訟の被告も、個人といえば、個人ですよね。
個人依頼者からの受任を禁止している、ということではないのですか。
いえいえ、止めることはありません。実際、知人からの相談を受けている弁護士はいます。事務所が、所属する弁護士にそういった制約を課すことはありません。

2.業務分野

仕事の内容としては、顧問契約を重視されているのでしょうか。
顧問契約を締結しているかどうかに限らず、継続的なお付き合いの中でご依頼を続けていただいている企業がたくさんあります。
株主総会対策の仕事も多いのでしょうか。
私も含めて株主総会の事務局へのアドバイスを担っている弁護士もいます。割合的には、所属弁護士の半分ぐらいです。
契約書のレビュー等のジェネラルコーポレートは、日常的に受けられているのでしょうか。
はい。それに加えて、同時並行で、訴訟やM&Aのようなトランザクションも受けている、というイメージです。
それでは、訴訟業務についてお尋ねしたいと思います。『会社訴訟ハンドブック』(商事法務、2017年)のご執筆も担当されていますが、やはり、会社訴訟が多いのでしょうか。
数でいえば、企業間の契約を巡る紛争のほうが多いですね。継続的契約の解消が問題となる事件だったり、システム開発だったり、瑕疵担保責任が問題になったり、表明保証違反が問題となったり、という民商法を基礎とする事件です。訴訟に至るケースもあれば、裁判に至る前の交渉も代理しています。
東京地裁の商事部ばかりではなく、通常部の事件も多いのですね。
内紛絡みの紛争は、仮処分等もあるので、ひとつの事件をお受けすると、複数の手続が係属するので件数を数えにくいところがあります。
 一旦、事件を受けると、深く案件に関与することになりますが、恒常的にそればかりを受けているわけではありません。
アクティビストのように、日本企業への敵対的な活動をする当事者は代理されないのですよね。
あらかじめそういう方針を定めることはありません。依頼者の側にきちんとした言い分があるならば、攻め側と守り側を区別する必要はないと思います。
潮見坂事務所については、業界内でも「訴訟に強い」というイメージがあると思います。何か秘訣があるのでしょうか。
強いかどうかをコメントできる立場にはありませんが、事務所として注意していることを申し上げると、丁寧に訴訟遂行をする、丁寧に裁判官への説明を尽くす、という点は特に意識して取り組んでいます。
類型的な事件を数多く受ける、というよりも、ひとつひとつ個性があり、重たい事件を受けることが多いのでしょうか。
そうですね、類型的に処理できるような事件はありません。
そこが、金融機関の債権回収業務との違いかもしれませんね。
事件の規模は様々ですが、手間がかかる、準備に時間を要する事件が割合的には多いですね。一件ずつ、手仕事をしている感じです。効率は悪いかもしれません(笑)。
訴訟の報酬体系をお聞きしたいのですが、タイムチャージではなく、着手金・報酬金形式で受任することが多いのでしょうか。
必ずしもそうではありません。タイムチャージで受けている事件もあります。案件のサイズ、予想される手間等によっても様々ですが、当事務所側で決めるというよりも、クライアントからの希望を優先して、それに合わせるようにしています。
企業からは「大手事務所に依頼したら、証人尋問まで進んだら、タイムチャージが膨大になるという理由で和解を勧められた」と怒っている人がいました。
私共は、訴訟を受ける前に、クライアントとは予算の目線をすり合わせています。見通しが外れて予算が大幅に超えてしまったら、こちらの見通しが甘かった責任なので、そこは当初予算の範囲で対応させていただく、ということもあります。杓子定規にタイムチャージを適用するわけではありません。
 逆に、クライアントが、成果に満足してくださって、報酬の増額を申し出ていただけることもあります。
依頼者との間で「貸し借り」ができるような継続的な関係を築けるのはいいですね。もう一度、先ほどの質問に戻らせていただくと、「強さの秘訣」は、どこにあるのでしょうか。訴訟の見立てでしょうか。戦略の立て方でしょうか。準備書面の起案力でしょうか。証人尋問の鋭さでしょうか。
先輩弁護士から教えていただいたことですが、準備書面の切れ味とか、反対尋問の見た目の鋭さといった何か一つの目立つ事柄によって裁判の結論が左右されることは基本的にはないと思っています。
訴訟弁護士の中には、証人尋問中に、傍聴席にいる依頼者を意識して、異議を述べるような方もいらっしゃるようですが。
尋問技術は勿論重要ですが、企業間紛争のように、書証が大量にある事件では、証人尋問の結果だけで結果が変わることは考えにくいです。ましてや、常時、何百件も事件を抱えている裁判官は、尋問中の弁護士によるパフォーマンスを一々覚えてはいないのではないでしょうか。
 地味なことしか言えずに申し訳ありませんが、むしろ、裁判官を説得するために求められるのは、基本に忠実に、認否をきちんとして、争いのない事実を丹念に拾い上げていくこと、裁判所にきちんと書証による立証の意味を伝え切ることではないでしょうか。
先生方は、法廷で、傍聴席へのパフォーマンスはなされないのですね。
傍聴席へのパフォーマンスをする能力をそもそも持ち合わせていませんが(笑)、そのようなパフォーマンス以外にもクライアント・リレーションシップにはいろんなやり方があると思います。
 私は、訴訟は、経営を支える場面のひとつに過ぎないと考えています。訴訟の見通しがわからないことが、経営を不透明にしてしまうことは問題だと思います。訴訟では、依頼者にとって最良の結果を実現することが最も大切であることは勿論ですが、それと並んで、結論の不透明さ(予測可能性の低さ)をできるだけ抑えるということも大切であると思います。そのためには、弁護士が行う訴訟活動の趣旨・目的を丁寧に依頼者に説明することが大切なことの1つであると思います。  訴訟活動に関する依頼者への説明としては、「なぜ、こういう書面を書いているのか」「次の期日ではこういう風に対応する予定である。なぜなら、こういう理由があるから」とか、そういった報告を都度都度、行っています。  いま、我々の見立てでは、こっちのほうに行っているとか、行っていないとか、この辺がうまくいっていない、とか、そういうことを、期日の事前と事後に伝えるコミュニケーションをとることが一番大事だと思っています。
いわゆる「お客さんにサプライズを与えない」ということですね。
仰る通りです。厳しいと思われる事件は、どこか厳しいのかを最初からちゃんとお伝えします。見立てが外れることがないわけではありませんが、最善を尽くしてそれをお伝えする、そして、期日が進むごとに、それに軌道修正をかけていく。そういうコミュニケーションを大事にしています。難しい事件ほど、蜜に報告していくことが求められます。
企業が「ある事務所に、事件の勝訴可能性を尋ねたら、50:50と言われたがそれじゃ何もわからない」という愚痴をこぼしていたと聞いたことがあります。
大事なのは、勝訴可能性を数字で示すことそれ自体ではないと思います。
 「事件の構造はこうなっていて、こちらの手持ちの証拠と、向こうが持っていそうな証拠を勘案すれば、ここが争点になるだろう」「そこでは、理屈はどちらに分があるのか」「ここはちょっと弱いけど、こういう証拠があれば、挽回できる」という風に、どこかなぜ弱いのか、強いのか、という認識を共有することが先決だと思います。その上で、「結果、何割ぐらいは勝てる可能性がある」とご説明すれば、「勝ちを狙って徹底的に争うべき案件なのか。それとも、和解で終わらせるべき案件なのか」といったことを理解してもらうことができるようになります。  企業の法務部のリテラシーは急速に上がっているので、そういう見立てを理屈立ててご説明すれば、ほとんどの方はわかってくださいます。
最近では、依頼者企業の法務部に社内弁護士も増えていますよね。
ビジネスパーソンでも、基本的な法律の理屈をきちんとお伝えしたら、わかってもらえないということはまずありません。裁判所はこういう理屈で考えるでしょう、とご説明したら、理解していただけます。見立てを理屈立てて説明してもらいたい、というニーズは強いと思います。
大手の事務所には、訴訟で分厚い準備書面を出してくる代理人がいらっしゃいますが、これについてはどう思われますか。
別に大手だから、という話ではないと思います。要は、「裁判所が興味関心を持っている論点は何か。それを裁判所が消化可能な分量で説明する」ということだと思います。
 裁判所は、要件事実が認められるかどうかを調べます。なので、要件事実につながる、又は、こちらの主張に引き寄せるためには何が必要なのかを順番に考えていけば、主張すべきことは絞り込まれてくる、という発想で起案しています。そして、期日が進む毎に、「我々の主張が届いていないのはどこか」を都度都度探りながら、次に押していかないといけないポイントを絞っていきます。
裁判官も何百頁もの準備書面を読んでいる余裕はないですよね。
難しい事件のときは、裁判所も記録を丁寧に読み込むことになると思います。合議事件になれば、認否の整理の仕方、主張の整理も丁寧になると思います。
 ただ、分量が多いこと自体が悪いわけではありません。例えば、M&Aのバリュエーションを文字で正確に説明しようとすると、文字数は相当な量にかさばってしまいます。要は、「結局、それで何が言いたいの?」という部分を伝えること。それが大事です。
なるほど。ところで、2007年に設立した末吉綜合法律事務所は、2009年に、潮見坂綜合法律事務所へと名称を変更しています。これは、知財事務所から、綜合事務所への発展を意味しているのでしょうか。
そういう面もありますが、それに加えて、事務所を継続的・永続的な組織に発展させたい、という思いを示したものでもあります。中堅・若手には「お前らも事務所の一員なんだぞ」と発破をかけられた思いです。
綜合事務所ではありますが、やはり、知財は、最も強い主要業務分野のひとつだと思います。知財系事務所の中には、所内に弁理士を抱えたり、特定の特許事務所と提携する先もありますが、そういうことはされていないのでしょうか。
所属弁護士には、外部で信頼できる弁理士の先生方との交流があり、こちらからご紹介させていただくこともあれば、弁理士の先生方から案件のご紹介を受けることもあります。しかし、特定の弁理士との提携関係はありません。
所属弁護士の全員が知財に携わるわけではないですよね。
人数的には、知財を扱わずに、ジェネラルコーポレート、会社法、M&Aを主に扱う弁護士のほうが多いです。
M&Aの相談はやはり増えているのでしょうか。
M&Aは、足許では増えています。ありがたいことですが、みんな訴訟とM&Aを両方とも担当しているので、大変な面はありますね。
ディールの山場と、訴訟の準備書面の提出期限が重なったら、主任はパンクしてしまいそうですね。
仕事の重なりはチームで対応しています。訴訟も、誰かひとりだけしか案件を理解していないわけではないので、そこは、仕事の手の空き具合で、「今回の準備書面はぼくが起案するよ」というようなやりとりもしています。
M&Aは、買い手側のアドバイザーを受けることも、売り手側のアドバイザーも受けることも、案件としては、両方あるのでしょうか。
はい。買い手側を担当することもあれば、売り手側を担当することもあります。非公開化取引の第三者委員を引き受けることもあります。
ディール規模はどのぐらいの大きさのものが多いのでしょうか。
感覚的には、数十億円から数百億円規模のディールが多い印象です。千億円を超える超大型案件はマンパワー的に難しいかもしれません。
上場会社をターゲットとする案件もあるのでしょうか。全体で何件ぐらいの数があるでしょうか。
はい、上場会社の買収案件もあります。M&Aは常に複数件が動いています。件数は数えるのが難しいですが、年間数十件はコンスタントに受けています。
アソシエイトの数が少なくてDDを受けられない、ということはないですか。
DDも受けています。DDを若手弁護士に任せきるのではなく、経験ある弁護士がハンズオンで関与しています。
電話帳みたいに分厚いDDレポートを作る時間はあるのでしょうか。
そうですね、分厚いレポートを作るのは、うちの事務所が得意とするところではありません。マンパワーの問題もありますが、うちのクライアント自身が、そういう作業を我々には求めて来ません。「見立て」を聞きに来ていると理解しています。
M&Aにおける「見立て」ですか。
クライアントは「弁護士から見て、どういうところがポイントになりそうか」を尋ねて来ます。そのポイントについての共通理解をもって、DDをやりながら、それを軌道修正していきます。そして「ここはもっと掘り下げますね」ということを都度お伝えしていきます。そういうコミュニケーションを続けた結果であれば、DDレポートも簡潔なものになってきます。
分厚い別紙を添付して、保有不動産や契約関係をエクセルシートに穴埋めする必要はないのですね。
レポートを出すまで何を報告するのかわからない、ということではなく、進捗がある都度、密なコミュニケーションをとった上で、レポートにはクライアントが求めるポイントを記載する、という問題点絞り込み方を基本にしています。
 ただ、クライアントによっては、幅広くやってもらいたい、というニーズを受けることもあるので、そこはケースバイケースで対応しています。
商事法務ポータルでは、渡邊肇先生が「社外取締役になる前に読む話」をご連載いただいています。潮見坂綜合では、所属弁護士自身が社外取締役に就任することを奨励されているのでしょうか。
奨励しているということもありませんが、やりたいならば、どうぞ、ということです。我々は、他の弁護士に対して「あれをしろ」「これをするな」ということは言いません。やるのもやらないのも、各自の自由です。やる以上は責任をもってやりましょう、というのが、事務所の基本的なコンセプトです。
それが、「サラリーマンにはなりたくない」が故に弁護士になった者にとっての最大の職業上の魅力ですよね。
他人に「あれをしろ」と言ってやらせても、そんなことではパフォーマンスは上がりません。やらされる仕事はよくない。逆に、やりたいことがあるならば、どうぞご自由に、事務所のほかのメンバーがそれを応援するという発想です。
労働法の相談も増えているのでしょうか。内容的には、企業側の規定類の策定とか予防法務的なアドバイスになるのでしょうか。
佐藤久文弁護士は、労働に力を入れて取り組んでいます。基本は使用者側ですが、予防法務的なご相談に限らず、訴訟も審判も受けていますし、労働組合対応のご依頼があれば、それもお受けします。

3.仕事の進め方

次に、「仕事の進め方」についてお尋ねします。一つの案件は、弁護士何人で担当するのでしょうか。
訴訟を念頭に置けば、弁護士2名又は3名で担当することが多いです。稀に4~5名で担当する事件もあります。
弁護士ひとりで訴訟代理人を受ける、ということもあるのでしょうか。
基本的にはありません。「合議」ができなくなってしまいますので。
相応の年次の弁護士であれば、他の弁護士のサポートを求めないことも多いと思いますが。
ひとりだと「見立て」が独善的になってしまう危険があります。これは経験を積んだからといって解消されるわけではありません。当事務所では、複数の弁護士で担当することを基本としています。
なるほど。それでは、小さい事件でも、パートナーとアソシエイトがペアになるということでしょうか。
私共には、「パートナーが上で、アソシエイトが下」という発想はありません。案件を進めるところをイメージして、「誰に主任をやってもらうのがよいか」「この事件の合議には、あの弁護士の知恵を借りたいな」という発想でメンバーを決めます。
固定的な組み合わせではなく、その都度、組み合わせを考えるのでしょうか。
その都度です。誰かのところに依頼の電話が来たら、誰が対応するのがベストかを考えます。私のところに来た相談が知財関連ならば、末吉や高橋に任せて、自分は外れることもあります。
一般的に、「案件は、最初に電話を受けた弁護士のものであり、経理上も売上げが立つ」と考えていました。
クライアントの利益を考えてメンバーを決めています。私が最初に相談を受けたら、もちろん交通整理ぐらいはしますが、議論の質を高める貢献ができないならば、合議に参加する意味がありません。関与する弁護士が増えたら、スケジュール調整も難しくなります。門外漢が合議に参加するのは有害無益です。
すべての案件に「主任」が決まるのでしょうか。これは、案件を通じて交代することはないのでしょうか。
はい、どの案件にも主任がいて、交代はしません。
以前に、「森綜合では新人弁護士が主任を務めて前線に立たされる」と聞いたことがあります。
それが教育の面では一番美しいと思いますが、現実には、適材適所で判断しています。クライアントの要望もあれば、案件の難しさやスピード感も考慮して決めています。
 今も、私が主任を務めている案件もあります。
「主任」というのは、「連絡担当」みたいな役割でしょうか。準備書面に複数名の弁護士名が並ぶ場合に、付記することがあると思いますが。
単に、書記官からの事務連絡を受ける存在ではなく、裁判所対応を行うのが主任です。期日で依頼者を代理して話すのも主任です。その前提として、案件全体の進行を管理して、今後に準備することを考えて、「次にこういう会議をしましょう」と関係者をリードするのも主任です。要するに、案件を主体的にリードするのが主任です。
名実ともに案件を仕切る経験を与えることが若手を成長させる秘訣なのですね。
若い人に主任を任せて、ストレッチをかけて伸びていってほしいと思います。ただ、案件のサイズとか相性もあるので、本人の能力や経験で処理できる範囲を超えた案件を無理に任せることはありません。
他の事務所では、連絡担当のアソシエイトに連絡しても「パートナーの許可がなければ、内容に関するコメントできません」と回答される例もあると聞きますが。
アソシエイトだから答えられない、ということはありません。合理的な時間内に良い結論を出すことを目指すべきです。ただ、合議が必要な場合に、即答できずに、「責任を持ったコメントをするため、中で合議してから回答させてください」と伝えることは、私にもあります。
事務所によっては、「証人尋問はパートナーの仕事であり、アソシエイトにはやらせない」という先もあると聞きますが、この点はいかがでしょうか。
証人が1人、2人程度の事件ならば、主任が一通りの準備をして、合議をして進めます。証人の数が増えてきて、ひとりで準備できる分量を超えたら、分担はします。ただ、最も重要性が高い証人を担当するのが主任であることは変わりません。
ひとりの証人への尋問をテーマ毎に複数の弁護士で分担することもあるのでしょうか。
それは無理ですよ(笑)。主尋問と反対尋問を分けることはありえますが、「この証人に対する尋問を誰が責任をもって仕上げるのか」は、はっきりさせなければなりません。
「合議」というのは、どのように開催されているのでしょうか。日程調整をして会議室を予約して、という形でしょうか。
短時間で終わるものであれば、すぐにその場の立ち話で済ませることもありますし、「これは腰を落ち着けて議論しよう」というときには、会議室を確保して合議室として使って、1時間、2時間議論することもあります。
複数名の弁護士の打合せというと、つい、「パートナーがアソシエイトに指示を出す」という光景を思い浮かべてしまうのですが。
合議は、主任から「こういう風に考えている」「なぜならこうだから」という説明があり、それを他のメンバーが「この証拠との関係はどうなっているのか」という風に違う角度から意見をぶつけて叩く、という作業を繰り返し続けていきます。
準備書面の起案も、主任がファーストドラフトをするのですね。
はい。ただ、若い先生の場合は、合議の頻度を上げるように心がけています。つまり、準備書面を書く前に、まず「どういう構成で何を言いたいのか?」をA4一枚でまとめてみてもらうことを先行させることもあります。本当は、できるだけ自由に起案してもらいたいのですが、限られた時間内で成果を出すために、刻む形で合議をして、先輩弁護士の真似をしてもらうことが必要なこともあります。
阿南先生ぐらいの方が主任になれば、あまり突っ込まれることはなくなるのでしょうね。
そんなことはありませんよ。今でも、「どうなってるんですか?」「なぜそうなるのですか?」と突っ込まれてあたふたすることもしょっちゅうです。
後輩から指摘されて腹が立つことはないのですか。
そのために合議に参加してもらっているので当たり前です。私も若い頃に、合議に参加して「なぜ黙ってるんだ」と叱られたことがあります。意見がないことのほうが問題です。色々な角度でお互いの意見とその根拠をぶつけ合うことによって、見立てや書面の精度が上がってきます。
なるほど、先ほどの「無駄なメンバーをチームに入れない」という話につながってくるのですね。
若手の先生には、「研修所で習った訴訟の知識をそのまま実践してください」とお願いしています。実務で聞きかじったようなことをやってもらっても意味がありません。
「研修所で習った知識」とは、どんなことでしょうか。
訴訟物は何ですか。要件事実は何ですか。相手方はそれをちゃんと主張していますか。それをきちんと確認してください。証拠については、立証命題をちゃんと言ってください。そんな感じで、研修所で習ったことを聞いていくだけです。
訴訟では、「そもそもこの事案の本質とは」というようなくだりの演説が始まる準備書面もありますよね。
「事案の本質」なんていう仰々しい言葉を殊更に使う必要はありません。要件事実を認定するためには、歴史的事実を追うために時系列が必要になります。そうすれば、なぜこんな風に訴訟が起きたのかというのは自ずと伝わるはずです。
合議は、いつのタイミングで行なっているのでしょうか。
準備書面の作成過程で何度か合議をするほかにも、期日に行く前にも合議しますし、戻ってきた後にも「今日の裁判所の発言はどうだった」と感想を言い合いながら、次に向けた準備をします。期日は、月に一回、裁判所と直接に会ってその頭の中を探るためにまたとない機会です。自分たちの見立てに軌道修正の必要がないかどうかも確認しなければなりません。
依頼者にも期日の都度に報告されるのですか。
期日の報告書を作成して依頼者に提出します。その報告書には、必要に応じて期日のやり取りの分析や今後の準備事項などを書いておきます。事案によっては、説明の会議をすることもありますが、電話報告で済ませることもあります。その期日の重みに合わせて使い分けています。
依頼者も、現在進行形で状況を把握できるのですね。
今回の期日に何をしにいくのか、結果、今日の期日はどうだったのか。そこは私共とクライアントとの間の理解を共通にしてもらえるように務めています。
依頼者側でも準備すべき事項がありますよね。
はい、クライアントの側も「次はこういう証拠を集めればいいんだ」とか、次の準備をすることができます。証拠は、我々が会社に乗り込んで手を突っ込んで調べて手に入れるものではありませんので、クライアントにも共通の理解を持っていただくことが大事です。
ところで、チーム編成の話に戻りたいと思うのですが、1年生は、決まった先輩と仕事をするわけではなく、案件に応じて、色々な弁護士と仕事ができるのですね。
はい、組み合わせとか、その時にどんな依頼が来るかにもよりますが、結果的に、数年も経てば、全弁護士と仕事をすることになります。特定のパートナーとだけ仕事をするのが良いこととは思っていません。弁護士を40年続けることを考えれば、若いうちは、幅広いジャンルの経験を積んで、足腰をしっかり鍛えておいてもらいたいです。
1年生のうちから、専門化することは求めていない、と理解してもよいですか。
本人がそれを望むならば、別に止めませんが、事務所として、早期の専門化を求めることはありません。
 我々が依頼される事件は「ある分野の知識だけ持っていたら、うまく片付けられる」というほど単純なものではありません。まわり道でも、いろんな事件の組み合わせ、様々なジャンルをこなしておいたほうが長い目で見れば、役に立つと思います。
教育方針としては、座学ではなく、オン・ザ・ジョブ・トレーニング(OJT)の中で自然に成長してもらう、ということでしょうか。
OJTと呼べるほどかっこいいものではないかもしれませんが、合議中に、「リサーチが足りないな」と気付けば、そのまま図書室まで移動して、「こういう本を読んでみたらどうか?」という風に具体的なアドバイスを与えることもあります。
弁護士として幅広い経験を積むべきであっても、企業法務の世界では、専門性がなければ生き残れない、という面もあると思います。専門分野選びは、事務所から指導があるのでしょうか。それとも本人の希望でしょうか。
本人次第です。自分の人生を楽しく自分で切り拓く、というのが基本的発想です。それがあって初めて、「それではどんな応援ができるだろうか?」を考えるのが事務所の存在意義だと思っています。
具体的にどんな場面で相談がなされるのでしょうか。
事務所会議で議論することもあれば、単なる立ち話でそういう話をすることもあれば、飲みに行った時に、我々から若手に「最近、どんな分野に興味があるの?」と話しかけて「じゃあ、こういうことをやってみたらどう?」という会話もしています。
 ただ、根底には、本人に「これをやってみたい」「これが好きだ」という意欲がなければ、うまくいくものではないと思います。
事務所会議、というのは、どの程度の頻度で行われているのでしょうか。アソシエイトも参加するのですか。
月に1回は開催しています。弁護士全員が参加しています。
 アソシエイト抜きでパートナーだけで集まるのは、「事務所の会計決算」の話をするときだけです。これでいいですね、という承認をもらうタイミングです。
アソシエイトを評価する会議はないのでしょうか。
確かに、アソシエイトの仕事振りなどについて話をする場面では、特別利害関係人である本人たちには席を外してもらいますね。ただ、話をするといっても、点数を付けるということではなく、「最近、彼はどうなの?」「仕事振りはどう?」という確認をしています。

4.英語案件

次に、「英語案件」についてお尋ねしたいと思います。英語案件を扱うことが必須なわけではなく、国内案件に特化した弁護士もいると理解してもよいでしょうか。
はい、英語は必須ではありません。私も、国内案件を主に担当しています。ただ、今の若い弁護士には、英語にも取り組んでもらいたいと期待はしています。
英語案件は、日本企業からの海外対応のご相談と、外国企業からのご相談の両方があるのでしょうか。
お付き合いのある日本企業から、米国での訴訟対応とか米国当局への対応の支援を求められていることがありますし、海外のローファームからの紹介で、外国企業の日本法に関するリーガルサービスの提供を求められることもあります。
アソシエイトが留学を希望した場合には、留学制度や海外研修制度もあるのでしょうか。
留学を希望するアソシエイトにはぜひ行ってもらいたいと思います。
留学に出るためには、事務所で一定年数の勤務を終えてから、というような要件があるのでしょうか。
いえ、特に定まったものはありません。本人の希望を受けて検討します。留学を有意義なものにしてもらうために、「留学先で何を勉強したいのか」とか「日本法の実務経験が乏しいままに行っていいのか」という質問を投げかけることはありますが、本人の希望を頭ごなしに否定することはありません。
アソシエイトのキャリアに関する「合議」みたいですね(笑)。
「英語が上達すればよい」というほど簡単な話ではないので、留学経験者からも話を聞いて、どのタイミングで何をするのがいいのかを主体的に考えてもらいたいと思います。
留学費用についての経済的援助もあるのでしょうか。
はい、学費や生活費、渡航費は援助します。飢え死にしたら困りますので(笑)。
留学2年目の研修先の事務所探しはどうでしょうか。
本人の希望に適う先があれば、事務所の所属弁護士の人脈を使って紹介してあげたいと思っています。

5.出向

次に「出向」についてお尋ねしたいと思います。若手弁護士を、企業や官庁に出向させることはあるのでしょうか。
今のところ、実績はありません。というのも、手を挙げて希望する人がいなかったので。それは、クライアント先への出向も、官庁への出向も同じです。
この点でも、本人の自主性を尊重されているのですね。
はい。ぜひ行ってこい、と推奨することもありませんし、やめろ、と止めることもありません。「突き放されている」という風に受け止められてしまうと、若い人には受けが悪いかもしれませんが(笑)。
 もし、希望が出てきたら、「行って何をしたいの?」と理由を聞くことになるのでしょうね。「出向したから、キャリアが安泰」ということはまったくないので、同じ事務所の仲間である以上、出向するならば、その経験を活かしてもらいたいと思います。
若い世代には「出向したら専門性が身に付けられる」と根拠なく楽観している人も多いですよね。
私自身は出向経験がありませんが、「弁護士道って、出向など何かあることをすればショートカットで先に進める、というような簡単なものではない」と感じさせられます。何かの法分野を極めたいならば、それなりの努力を継続することも必要だと思いますし、事件・案件を解決する能力を身につけるためには、事件・案件に真剣に向き合った経験の積み重ねも必要だと思います。
 官庁に行くことにも意義があると思いますが、プライベートプラクティスを続けることで得られる技量も軽視してほしくはありません。どちらかが一方的に優位なわけではないので、本人が主体的に目的意識や意欲を持って取り組むことが必要だと思います。

6.採用方針

それでは、「採用方針」についてお尋ねしていきたいと思います。毎年、新卒採用を行なっているのか、その採用枠を教えていただけないでしょうか。

 

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(にしだ・あきら)

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1972年東京生まれ。1991年東京都立西高等学校卒業・早稲田大学法学部入学、1994年司法試験合格、1995年東京大学大学院法学政治学研究科修士課程(研究者養成コース)入学、1997年同修士課程修了・司法研修所入所(第51期)。

1999年長島・大野法律事務所(現在の長島・大野・常松法律事務所)入所、2002年経済産業省(経済産業政策局産業組織課 課長補佐)へ出向、2004年日本銀行(金融市場局・決済機構局 法務主幹)へ出向。

2006年長島・大野・常松法律事務所を退所し、西田法律事務所を設立、2007年有料職業紹介事業の許可を受け、西田法務研究所を設立。現在西田法律事務所・西田法務研究所代表。

著書:『弁護士の就職と転職』(商事法務、2007)

 

 




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