◆SH1869◆一流企業が真に信頼する法律事務所はどこか? ③中村・角田・松本法律事務所インタビュー 西田 章(2018/05/29)

一流企業が真に信頼する法律事務所はどこか?

③ 中村・角田・松本法律事務所インタビュー

中村・角田・松本法律事務所
弁護士 仁 科 秀 隆

(聞き手)西 田   章

 

 業界研究(法律事務所)のインタビューの第3弾として、中村・角田・松本法律事務所の仁科秀隆弁護士にお話をお伺いしました(2018年5月11日)。

 (仁科弁護士は、司法修習(55期)を修了した後、大手法律事務所に入所されて、日本銀行業務局と法務省民事局への出向を経たのちに、中村・角田・松本に移籍されて、同事務所のパートナーに昇格されています。略歴については、中村・角田・松本法律事務所のHPをご参照下さい。

 また、仁科弁護士については、本取材直後、スルガ銀行株式会社が「シェアハウス関連融資問題」に関して設置した「第三者委員会」の委員に選任されたことが公表されました。とても忙しい時期であるにも関わらず、仁科弁護士からの取材協力を得られたことで、スケジュール通りに本企画を実現することができました。)

 事務所の創始者である中村直人弁護士は、日本経済新聞が行なっている「企業が選ぶ弁護士ランキング」の「企業法務分野」で1位に輝き続けていること(2017年で6年連続)でも有名ですが、私自身としては、キャリア・コンサルティング業務に際して、大手の法律事務所でも高い評価を得ているアソシエイトから「中村・角田・松本に転職活動をして落ちた」という報告を幾度となく聞いているため、「中途採用の選考が最も厳しい事務所」だと認識していました。今回の取材を通じて、私は、

  1.   企業間紛争やコーポレートガバナンスを巡る課題について、問題の本質を突いた分析と解決策の提示をしているからこそ、大企業の経営層からの信頼が厚く、そのことが口コミで他社にも伝播して評判が高まっていること
  2.   M&Aのようなトランザクションや不祥事調査のような危機管理案件においても、中堅以下の弁護士を軸とする少数精鋭のチームにおいて、取締役会への議案上程時における議論をも見通した形で、依頼者ニーズに合致した迅速なリーガル・サービスの提供が実践されていること
  3.   人材育成という視点では、新人弁護士時代から、「アソシエイトだからこの程度で構わない」という甘えが許されず、一人前の弁護士として扱われて現場経験を積むことができるために、指導とレビューが行き届いた事務所よりも遥かに早く成長できること

を強く感じさせられました。

 以下、質疑の詳細を掲載致しましたので、どうぞご覧ください。

 

1.依頼者層

日系企業と外資系企業を比べると、依頼者の割合としては、日系企業のほうが多いのでしょうか。
はい、依頼者の90%以上は日系企業だと思います。
企業規模では、上場企業が中心になりますでしょうか。
そうですね、非上場企業ももちろん多いですが、数で言えば上場会社とそのグループ会社が中心です。
上場企業の依頼を受けていると、未上場のグループ会社にも仕事が広がっているのですね。
はい。上場会社の依頼先からM&Aを依頼されて、その買収先の未上場企業の顧問に就くこともあれば、大企業間の合弁会社の顧問を依頼されることもあります。
いずれも既存の依頼者からの紹介ですよね。いわゆる「一見さん」からのご相談も受けているのでしょうか。
事務所の代表連絡先に飛び込みのお問合せをいただくことも多く、それはありがたいことではあるのですが、既存の依頼者からのご相談で忙しくしていると、なかなかそこまで手が回らずに、お断りすることも少なくないのが実情です。
 もう少し人が増えてきたら、改善していきたいと思います。
既存の依頼者企業からしてみれば、自社の相談を優先してもらいたいので、新規の依頼者が増えないでほしいと願っているでしょうね(笑)。その人気の理由はどこにあるのでしょうか。代表の中村直人先生は、日経新聞の弁護士ランキングで1位を続けています。一般に、売れている弁護士には批判も多いのですが、中村先生については、批判もまったく聞こえてきません。
私の個人的な感想になってしまいますが、中村は、ビジネス寄りの考え方をする弁護士ではあると思います。依頼者企業の経営陣の方々は「どうすれば、こういう新しいことができるか」という相談にいらっしゃいます。それに対して、頭ごなしに否定的な意見を述べることはありません。それをできるようにすればどうすればいいか、できるようにする理屈やそのための解決策を考えてあげたい、という発想に立っているということは言えると思います。中村に限らず事務所の他のメンバーもそういう姿勢を大切にしています。
確かに、企業からは「弁護士に相談したら、それが無理な理由を延々と書かれた分厚いレポートを渡された」という不満を聞くこともありますよね。
案件により弁護士に求められるものも変わってくるとは思いますが、私共としては、大事なことを省くことなく、伝えるべきことの要点をついて話すよう心がけています。
なるほど。私が役所に出向していたときに、政治家の先生方や幹部に、5分、10分だけレクチャーの時間をもらって担当案件を説明させられたときに、オロオロしていました。忙しい会社役員についても、「詳しいことはいいから、要するに何が問題かだけを知りたい」というニーズが強いのでしょうね。
私も、金融機関からのファイナンス取引のご相談を受けることも多く、「想定されるリスクをすべて伝えておきたい」という弁護士側の気持ちはよくわかります。そこを何とか簡潔に説明する、でも、大事なことは落とさない、ということが、依頼者から求められているのでしょうね。
依頼者の業種・業態の傾向についてもお伺いさせて下さい。仁科先生は、法務省出向時代に、保険法や電子記録債権法をご担当されていたので、金融機関の依頼者は多いだろうと想像するのですが。
確かに、金融機関からのご相談は多いですね。メガバンクの関係では、系列の信託銀行をはじめとしてグループ会社の依頼者もたくさんあります。保険会社からも多数の相談をお受けしています。
投資会社、ファンドの依頼者も多いのでしょうか。
私もM&Aを担当しているので、プライベート・エクイティ・ファンドやベンチャー・キャピタルの仕事は多いですね。ただ、外資系の投資ファンドではなく、金融機関や総合商社の系列のファンドですね。
総合商社本体からもご依頼を受けているのでしょうか。
商社からのご相談もあります。大規模なディールというよりも、経営判断に迷うような場面でのご相談が多いです。
大企業は、法律事務所を使い分けていますよね。マンパワーが求められるような大規模なトランザクションや調査案件は大手事務所に依頼しながらも、対応を誤ったら、役員の経営責任が問われるような問題は、本当に信頼している弁護士に相談すると聞きます。中村・角田・松本にもトラブル案件の相談が来るのではないでしょうか。
企業全体を揺るがすような不祥事や役員を巻き込む内紛等でのご相談をいただくことは、結構多い方ではないかと思います。
先日、島田法律事務所にインタビューした際に、金融機関からの相談には、倒産懸念がある取引先への救済融資に関する善管注意義務違反が問われる場面で意見書を求められることもあるとお伺いしました。融資しないで大企業を倒産させてしまうことに伴うリスクが高ければ、なんとかして融資することを正当化できる方向で検討することもある、とお伺いして、「これは大手事務所にはできない仕事だろうな」と思いました(笑)。
似たようなご相談はうちにも来ています。ファイナンスの細かい契約書を見てもらいたい、というのではなく、どういう点に注意して案件を進めるべきかをアドバイスさせていただいています。意見書まで求められることもありますが、むしろ、実質的なアドバイスが期待されているように思います。
中村・角田・松本は、株主代表訴訟の被告側代理人の経験が豊富なので、その経験に基づくアドバイスを期待されているのでしょうね。
 業種的には、金融機関以外に、事業会社では、インフラ系や製造業に強い印象があります。
そうですね。製造業は、重厚長大産業が多いですね。
IT企業の相談も受けているのでしょうか。
ソフトウエア関連は最近、特に増えています。ソフトウエア訴訟、システム開発訴訟もお受けしています。
中村・角田・松本が訴訟に強い、というのは認識していましたが、システム開発訴訟は、理系的素養がある弁護士が活躍する分野かと思っていました。
システム開発訴訟は、関連するものを証拠で出そうとすれば、際限なく証拠の範囲が広がり続けてしまいます。どうやって、エッセンスだけを取り出すような主張・立証活動をするかに注意して訴訟を進めています。
先ほどもお伺いしたように、複雑な問題の要点がどこにあるか、大事なポイントを落とさずに、簡潔に説明する、というお家芸的な技術は、システム開発訴訟でも生かされているのですね。
もともと人数が多くない事務所で事件を受けているので、ポイントを絞らなければ、仕事が回らないだけかもしれません(笑)。
依頼者層について、もう一点、お聞きしたいのは、「個人依頼者」についてです。個人からのご相談を受けることもあるのでしょうか。
受けないわけではありませんが、飛び込みのご相談を受ける余力がないこととの関係で、やはり、既存の依頼者からの紹介に限られてしまっています。依頼者企業の経営者の関連では、刑事事件のご相談に乗ることもあります。

2.業務分野

次に、「業務分野」についてお尋ねしたいと思います。訴訟関連では、類型的には、株主代表訴訟が起きると、依頼が来ることが多いのでしょうか。
そうですね、代表訴訟の被告取締役側は数多く担当しています。
訴訟全般について、件数では、みなさん、何件ぐらいをご担当されているのでしょうか。
弁護士毎に区区ですが、手持ちで20件ぐらいの訴訟を抱えている弁護士もいます。私自身は、M&A等のトランザクションを扱うことも多いですが、それでも、常時、7~8件は訴訟を抱えています。
それでは、法廷に行かない時期はないですね。
そうですね、週に1回は期日に出廷しています。
先ほども、システム開発訴訟等もあるという話をお伺いしましたが、代表訴訟のようなものに限らず、大企業と大企業が対立する類型の訴訟も多いのでしょうか。
はい、とても多いです。
訴訟に強い、という評価は、どのような点から導かれているのでしょうか。
中村が著書で記しているところでもありますが、エッセンスを切り出す、勝負所を見付ける、というのは特に大事にしています。
別に「負けない」というわけではないですよね。弁護士の間では、「中村・角田・松本はすごい。なぜなら、負けた依頼者でも、事務所に対する信頼を失っていない」というコメントを聞きます。
もちろん、負けた事件もあります。全勝なんていうことはありません。勝てる事件だけお受けしているわけでもありませんので。
依頼者からの好評価の理由として「サプライズがない」と聞いたこともあります。
それは、そうかもしれません。ご相談を受けた時に、はったりを利かせる、ということがありません。ダメなときは、ダメ、と伝えます。ダメで、負けそうだからといって、受任しないわけではありません。というのも、訴訟というのは、会社経営の一要素に過ぎません。訴訟は大事ですが、それに負けたからといって、すべてがお終いというわけではないので、訴訟は訴訟で続けておきながらも、取締役会の運営をどうするか、株主総会に何を提案するか、あるいは市場にどういうメッセージを発信するか等の広い視野で、お客さまにどのような対応策があるかを考えて助言しています。
先ほど、「一見さんよりも、継続的な依頼者を大事にする」というお話がありましたが、よく知っている企業が依頼者であるからこそ、そこまで包括的な支援ができるのかもしれませんね。
確かに、継続的なお客さんのお仕事が多く、単発でお受けしている仕事は割合的にはそれほど多くないかもしれません。ご紹介から仕事を受けても、そのまま継続されることが多いです。
単発で、巨額な事件や膨大なタイムチャージを稼げそうな依頼が来ても、受任には慎重なのでしょうか。
慎重ということはないのですが、事務所が小規模ですから、膨大なタイムチャージにはそもそもならないです(笑)。
中村・角田・松本といえば、日本の株主総会指導のノウハウのすべてが詰まっている事務所という印象があるのですが、件数的には何社ぐらいの指導をされているのでしょうか。
正確な数をお示しするのは難しいです。というのも、株主総会へのお手伝いも関与の仕方は様々ですので。例えば、総会当日に立会までするならば、体はひとつしかないので、6月下旬に立ち会えるのは、せいぜい一人当たり6~7社ぐらいではないでしょうか。
 もちろん、招集通知や想定問答をチェックさせていただくような形での関与となるともっとぐっと数が増えますが、それでも、数としては、100社に満たないのではないでしょうか。
地域的には、東京の企業に限られているのでしょうか。地方企業のご依頼も受けるのですか。
地方企業も、もちろんあります。私自身も、福岡にも、札幌にも、名古屋にも行っています。
なぜ、株主総会指導で頼りにされるようになったのでしょうか。
歴史的には、総会屋が活発だった頃からお付き合いのある依頼者の相談を受けながら経験を積んできた、ということはあると思います。今でも、例年と比べて荒れる総会になりそうだからという理由でご依頼を受けることも多いです。
 また、最近は、訴訟やM&Aの依頼を受けた企業から、「今後は株主総会についても見てもらいたい」というご依頼を受けることもあります。
企業が中村・角田・松本に総会指導を依頼したくなるのは、どのような点を頼りにされているのでしょうか。
他の事務所と比べたことがないので想像になってしまいますが、荒れる総会で修羅場を割と多く経験しているという点は大きいと思います。あとは、株主総会は、経営に関わる問題が出てくるので、弁護士としても、社長に直接に物申す、という場面が多くなります。そこで、「持ち帰って調べてきます」というわけにはいかないので、その場その場で判断して、端的に意見を伝えることが求められますが、そういった局面に慣れているというのもあるかもしれません。
大人数チームでばかり仕事をしていると、「自分でその場で判断して意見を述べる」という経験は積みにくいですよね。
私も、大手事務所出身ですが、少なくとも当時は、ジュニア・アソシエイト時代から、ひとりで会議に出席させてもらうこともありました。ドキュメンテーションは、先輩にレビューしてもらうことで精度を上げることができますが、ひとりで現場で対処する経験を積むことも大事ですね。
今は、社外役員も増えてきたので、社外役員からしても、中村・角田・松本に総会指導を任せていたら、安心ですよね。
そういえば、社外役員を務められている弁護士の先生が、株主総会のリハーサルに出席されて、当事務所がアドバイスさせていただいている様子を見てくださった後で、他社の総会対応に当事務所を推薦してくださる、ということもありました。
人気がある社外役員は、複数社を兼務されているので、法律事務所の指導方法を比較することもできるので、どこが優れているのかがよくわかるのでしょうね。
 ところで、中村・角田・松本では、株主総会指導に留まらずに、コーポレートガバナンス全般について、たくさんのご著書を執筆されていますが、これらのご相談も増えているのでしょうね。
取締役会の運営やコーポレートガバナンス関連でのご相談はとても増えています。この種の仕事は、コーポレートガバナンスコード対応が典型ですが、「法律的な唯一絶対の正解」があるわけではないところに難しさがあります。そのため、「いかに経営陣に対して説得力あるアドバイスができるか」の勝負になっています。
大手の法律事務所でも、コーポレートガバナンスに関する文献を積極的に出版されているので、事務所としてのノウハウは蓄積されているのだと思います。でも、打合せの場で自らの見解を即答できるだけの弁護士の数は限られるだろうな、と想像しています。
確かに、私共には、現実に多数の相談が寄せられていて、どの弁護士も相当の数の対応をしていますので、依頼者との打合せで「他社さんは、どうですか?」と尋ねられた時に、若い弁護士でも、自らの経験に照らしてすぐにコメントができる、という特色はあるかもしれません。
具体的にはどのようなご依頼が増えているのでしょうか。取締役会の実効性評価のサポート等でしょうか。
実効性評価もご相談いただいていますが、特に増えているのは、取締役会の運営に関してです。今までは、社内取締役中心だったので取り上げられることがなかった論点が顕在化しています。社外取締役から様々な注文がなされるようになってきたことを受けて、議事運営や議事録の作成方法がわからない、という質問が増えています。
なるほど、そういう場面では、株主総会の指導で培ってきたノウハウが生かされているのかもしれませんね。
仰る通りです。株主総会は、数多くの判例や学説の蓄積があり、議事運営にも精緻な理論が構築されてきましたが、取締役会はそれほどでもなく、これはシャンシャンで終わっている先が多かったからでしょう。それが、社外取締役が導入されて、議案に反対を告げられたり、棄権すると言われることも現実的なシナリオとして想定しなければならなくなって、事務局としては、それにどのように対応して議事を運営すべきかを真剣に考えるようになりました。
取締役会の議事運営への助言は、裏方に徹しておられるのでしょうか。それとも、取締役会そのものにご出席されることもあるのでしょうか。
両方あります。事前に事務局にアドバイスするに留まる場合もありますが、M&A等の大事な案件の決議に際して、取締役会に出席して意見を述べさせていただくこともあります。
会社の経営権を巡る紛争が生じた場合には、法廷よりも、取締役会が主戦場になることがありますよね。
大企業の内紛は新聞報道がなされることもありますが、社長の解任が問題とされるような事案でのご相談も頻繁に受けています。
どこの事務所も、会社法の条文をなぞるような形式的な助言はできるでしょうが、相手方から確実に法的な対抗手段が講じられることが予想されるような場面で、リスクがあっても、これで行くべきだ、という実効性がある助言をできる先は、中村・角田・松本以外には、ほとんどないでしょうね。
私共は、取締役会のルールをぎちぎちと詰めて考えた上で助言はしているつもりです。これまでに、長年、株主総会の議事運営等に関与させていただいた経験から、ギリギリの場面でどういう風に議事を仕切るべきか、という点でのノウハウはあると思います。
そのノウハウを、商事法務等から出版して開示していただけると、とてもありがたいです(笑)。
そうですね、そういったことも考えています。書籍や論文の執筆は、自分達にとっても頭の整理になりますので。
書籍では、仁科先生が執筆された『M&Aにおける第三者委員会の理論と実務』(商事法務、2015年)は、私も非公開化取引の第三者委員を務めさせていただく際はいつも参照しています。M&Aは、売り手側だけでなく、買い手側のアドバイザーも多いのでしょうか。
ありがとうございます。はい、買い手側のアドバイザーも担当させてもらっています。
ディールの規模的には、どのぐらいの案件が多いのでしょうか。上場企業を対象とするものも多いのでしょうか。
さすがに、1000億円を超えるような超大型案件はマンパワー的に難しくて受けていません。数十億円~数百億円規模のものが多いと思います。対象会社は上場企業もあれば非上場企業もあります。
M&Aは、件数、頻度的にはどの程度受けていらっしゃるのでしょうか。常に複数の案件を抱えているような状態でしょうか。
私自身は、M&Aは、常に5件ぐらいは動いている案件を抱えています。
作業スコープとしては、契約書関連だけでしょうか。デュージェリジェンス(DD)から受けられるのですか。DDを受けられるほどの人手がなさそうに思えるのですが。
DDも、もちろんお受けしています。ただ、フルスコープのDDをして、別紙を入れると何百頁にもなるような分厚いDDレポートを作るという案件は比較的少ない気がします。それよりもクライアントの経営陣又はご担当者がDDレポートを読んだ時に、対象会社のエッセンスがわかるように努めています。
訴訟業務でのノウハウは、M&Aでも生かされているのですね。
DDレポートだけでなく、契約書でも、わかりやすいものを作ろうとしています。相手方から提出される契約書案を見ると、分厚くてノウハウが詰まっていると感じさせられることもありますが、「この一般条項は本件では必要なのか?」と疑問を感じさせられることもあります。
 たとえば、株式譲渡契約書を例にとれば、40~50頁の分量にはなるでしょうが、当該案件に必要な条項だけを抜き出していけば、一部の大型案件やスキームが特殊な案件を除くと、100頁を超えるような大部にはならないことのほうが多いと思います。
買収後のポスト・マージャー・インテグレーションの支援も行っておられるのでしょうか。
はい、M&Aをご依頼されて、そのまま継続的にお手伝いをさせていただくことが多いです。
それにしても、訴訟もあり、株主総会指導もあり、文献の執筆もセミナー講師も受けている、という中で、M&Aも多数の案件が同時に動かしている、となると、これだけの弁護士数でどうやって回しているのか、とても不思議です。
何とか回しているというのが正直なところです。M&Aは、松本と私が中心に受けてきましたが、もう少し人員を拡充したいという思いはあります。しかし、一人一人が自立した弁護士であることをモットーとする事務所なので、「労働力を確保するためにアソシエイトを採用する」という発想がありません。
M&Aも、スポットでご相談を受けることもあるのでしょうか。
そうですね、お付き合いのあるM&A仲介会社から「この案件のこの部分だけ教えてもらえませんか」というご相談も多いです。従来の顧問弁護士の先生が代理人を務めていらっしゃる会社で、その先生にご経験がない問題が出てきた場合に、ノウハウを補完してもらいたいという事情のようです。そういうスポットでのご相談は、日常的に寄せられています。
M&Aは、報酬形態としては、タイムチャージでお受けされているのでしょうか。
はい、M&Aはタイムチャージでお受けすることが多いです。
ディールだけでなく、不祥事発覚に伴う調査案件や危機管理案件にも、著名事件に関与されていますよね。
公表されているものもいくつかありますが、非公表で調査を進める事案もありますので、数としては多くあります。
不祥事の類型としては、どのようなものが多いのでしょうか。
会計不正もあるし、インサイダー取引に関する調査案件も多いですね。また、金融機関の業法違反に関する調査も割と多いです。
大掛かりな調査は、マンパワーも必要かと思いますが、他の案件との兼ね合い等では大変ではないでしょうか。
ええ。とても大変です(苦笑)。ただ、全部を当事務所だけで担当しているわけではありません。調査の範囲を拡大していくときは、我々は、調査の方針の決定や調査結果を踏まえた判断を行う司令塔側の参謀に回らせていただいて、具体的な調査業務は、マンパワーのある事務所にお任せすることもあります。あとはフォレンジック調査を他の業者にお願いして、我々はそこから浮かび上がってきた問題点の分析になるべく集中する等の工夫をしています。
大規模なM&Aでも、大きな不祥事でも、最終的には、取締役会に上程されて、その処理を巡って取締役の経営判断の問題になるために、中村・角田・松本に助言が求められるわけですね。
株主総会の議事運営、取締役会の議事運営、また、取締役の経営責任が問われる訴訟等の問題を扱っていると、すべてそこに案件が集約してくるのは確かですね。そのために、取締役による経営判断のポイントとなるエッセンスを見極めた助言が求められると思っています。
仁科先生は、法務省民事局出向時代に、保険法や電子記録債権法の立案をご担当されていましたが、それら業界のレギュレーションに絡むご相談も多いのでしょうか。
立案担当をした法律はそうですし、それ以外にも、金融機関の依頼者が多いので、銀行法、信託業法に関するご質問を受けることも多いです。こうした規制業種については、認可申請等の関係で監督官庁へのご説明に同行させていただくこともあります。
金融機関の依頼者が多いといっても、さすがに、ファイナンス取引までは受ける余裕はないですよね。
買収ファイナンスのように、金融取引でも会社法絡みのものは、相当数をお受けしています。ただ、いわゆる不動産や債権の証券化・流動化のような案件は、余り手が回らないのが実情です。
訴訟やトランザクションとは別に、顧問業務的なお仕事も多いのでしょうか。
はい、契約書のレビューや法律相談は日常的にお受けしています。法律意見書の作成も多いです。
中村・角田・松本はレスポンスが早いことでも有名ですよね。
回答はできる限り早くするように心がけてはいますので、それをご評価いただけているのだとしたら、ありがたいことです。
事務所によっては、「アソシエイトが回答案を作成しても、パートナーにレビューしてもらうのに時間がかかってしまう」とか「パートナーの機嫌が悪い時はレビューに回すのを控える」なんていうことを聞くこともありますね。
他の事務所のことはわかりませんが、我々は、基本的に「自分でやる」という姿勢で仕事に取り組ませていただいています。

3.仕事の進め方

「仕事は自分でやる」といっても、仕事の進め方としては、「アソシエイトの仕事をパートナーがレビューしてから依頼者に回答する」という方式は変わらないですよね。
そもそも論で恐縮ですが、我々の事務所には、「パートナー」と「アソシエイト」を峻別して仕事をする意識がありません。
 「パートナー」は、「事務所の収益の分配を受ける存在」であり、「アソシエイト」は、「給料を受け取る存在」である、という違いあるだけです。仕事の面では、いずれも一弁護士である、ということが徹底されています。
アソシエイトが、自分の考えだけで依頼者に回答したり、期日にひとりで出廷することもあるのですか。
アソシエイトでも、自分が主任を務めている事件については、そういう気持ちで取り組んでもらいたいと思います。依頼者にとってみれば、アソシエイトであっても、ひとりの弁護士なので、弁護士としての働きを期待しているのではないでしょうか。
 「パートナーか? アソシエイトか?」というのは事務所内の立場の問題に過ぎないので、各弁護士に対する評価は、依頼者に決めてもらいたいと思っています。
そうなると、「指導を受けさせてもらたい」「研修を受けさせてほしい」というかまってほしいタイプや、「所内評価において自分が同期の中でトップ●%に入りたい」という偏差値好きの若手には向かない事務所かもしれませんね(笑)。
そういう面はあるかもしれません。合う人には合うと思いますし、実戦での経験を積むのが一番伸びると思っているのですが・・・。採用の際もその辺りをきちんと伝えることが肝要だと思っていますが、どこまで実現できているかは心許ないところです。
案件のチーム編成の質問に戻りたいのですが、案件自体は2名、3名、4名と複数で担当することはあるのですよね。ただ、パートナーとアソシエイトをセットにする、という発想があるわけではないのですか。
はい、ケースバイケースで組んでいます。そこでは、パートナーかアソシエイトかではなく、各人の能力、専門性やアベイラビリティを考慮して決めています。
パートナーに来た仕事を、アソシエイトを入れて対応する、という組み合わせに限らないのですか。
ご指摘のようなケースもあれば、私に来た仕事で、他のパートナー(ネーミングパートナー含む)の知見を借りたければ、そのパートナーを引き込むこともあります。アソシエイトに来た仕事でパートナーが相談に乗ることももちろんありますし、組み合わせは自由です。
依頼者からの質問への回答や準備書面の起案は、まずはアソシエイトがファーストドラフトするのですよね。
そういう決まりもありません。時間がある人がやっています。私がファーストドラフトすることもあります。
失礼ですが、仁科先生の年次ならば、大手事務所ならば、アソシエイトを何人も使って仕事をされているパートナーも多いですよね。
年次が上がったら、もう起案を卒業したい、というタイプの弁護士はうちには向いていないと思います。うちは、油断していると、中村をはじめとするネーミングパートナーがどんどん先に起案してしまうので、のんびりしていられません(笑)。
忙しいパートナーは、パートナーとしての仕事に専従して、リサーチやファーストドラフトはアソシエイトに任せたほうが効率がいい、とは考えないのでしょうか。
パートナーだから、アソシエイトだから、という役割分担はありません。その案件に詳しい弁護士が最終的に確認することは必要ですが、誰が最初に書くとか、所内的な決め事はありません。要するに、できるだけ早く、できるだけ正確な成果物を依頼者に渡すためには、チーム内ではどういう順番で作業を進めるのがよいか、ということしか考えていません。
それでは、シニアな弁護士が起案した準備書面を、ジュニアな弁護士がレビューしてケチをつける、ということもありうるのですか。
いっぱいあります。よりよい策があるならそれを使うに超したことはないので。パートナーの言うことが正しい、ということはありません。
お話をお伺いしていると、オン・ザ・ジョブ・トレーニング(OJT)で厳しい訓練ができそうですが、座学的な教育・研修方法もあるのでしょうか。書籍の執筆にアソシエイトも関与されているので、これが教育になっているのでしょうか。
そうですね、文献や論文を執筆することが、弁護士にとって良い勉強の機会にもなっていると思います。商事法務様から執筆の機会をいただけていることもありがたいです。
執筆には、OJTとは異なる教育効果があるのでしょうか。
OJTのいいところは、実際に問題となっている具体的なつぶつぶの論点を細かく調べていくことで詳しくなって行くことができる点です。パッチワーク的というか、帰納法的な考え方の基礎が出来上がります。  他方、文献や論文の執筆は、まず、大きなテーマが与えられて、それに対して、自分で目次を考えて、その目次に沿った形でリサーチをして中身を埋めていきます。いわば、演繹的な考え方の訓練になります。その両方が組み合わさることで、理解が深まっていると思います。
なるほど。それでは、専門性はどのように磨いていくことになるのでしょうか。まず、会社法は必須科目、と思っておいたほうがいいですよね。
別に入所時点で会社法に詳しい必要はありませんが、事務所の仕事では、毎日、必ず会社法には触れることになりますね。会社法に触れない日はありません。
会社法以外の専門科目はどのように身に付けていくのでしょうか。金商法も必須科目かと思いますが、それ以外に、事務所から「この法分野をやっておけ」といった指導はあるのでしょうか。それとも本人の自主性に委ねているのでしょうか。
金商法もほとんど毎日触れていますね。ただ、それ以外に、何を専門にするかは、完全に本人次第ですね。「これをやれ」とは所内の誰からもまったく言われることはありません。
本人が「これを専門にしていきたいので、この案件にも入れてください」と希望すれば、協力はしてもらえるのですか。
案件のチームを組む際に、手を挙げてくれたら、それはもちろん尊重することになるでしょうね。

4.英語案件

次に、「英語案件」についてお尋ねします。英語案件の割合はどの程度でしょうか。
英語案件の割合は少ないですね。我々の大きな課題だと認識しています。
国内案件で膨大な数の相談を受けていますので、これで英語も同程度に受けておられたら、どうしようかと思いました(笑)。英語案件の種類としては、日系企業のアウトバウンドが主でしょうか。最初のお話では、外国企業の依頼者の割合は少ないとのことでしたが。
英語案件としては、日系企業の海外案件のご相談は、最近、特に増えてきました。正直、もう少しマンパワーがあるといいな、とは感じます。
 外国企業のインバウンドは、松本が中心的に担当しており、他の弁護士はそれほど関与していません。
英語案件をまったく担当しないパートナーもいらっしゃるのでしょうか。
はい、英語案件を扱っていないパートナーもいます。それだけに、若い世代には、どんどん留学にも行ってもらいたいという期待はあります。
留学については、何年目から行くことができる、というような制度はあるのでしょうか。
何年目から、というようなルールはありません。行きたければ、2年目などの早い時点で留学しても構わないと思っています。
そこは事務所の希望ではなく、本人の希望で決まるのですか。
はい、すべて本人の希望です。
行くのは勝手だけど、経済的な補助はしない、ということなのでしょうか。
いえいえ、そんなことはありません。留学中でも一定額の給与はお支払いしますので、生活に支障はないと思います。
次に、「出向」についてお尋ねしたいと思います。企業法務系の事務所では、依頼者企業先にアソシエイトを出向させる例もありますが、そういう制度はあるのでしょうか。
いまのところ、出向に行った者はいません。別に「行くな」と言っているわけではなく、行きたい弁護士がいれば、出向してくれるのもよいと思います。
仁科先生は、日本銀行と法務省に出向されていますが、そうした官庁への出向についてはどう思われますか。
これも本人次第ですね。行け、と命じることもありません。
最近の若手弁護士の間には、「官庁に出向すれば、専門性が身に付く」と楽観視している方も見受けられますが、その点はどうお考えですか。
一番の目標は、依頼者から望まれるような弁護士になることです。留学したり、出向したり、そういう経験が依頼者に対してより良いサービスをすることに役立つと思ったならば、行けば良いと思います。
 ただ、依頼者のために積むべき経験はそれに限らないので、他のことをやっていても、依頼者のために貢献できることがあると考えるならば、敢えて、留学や出向を強制することもありません。少なくとも、「事務所的にどう」とか「所内のパートナーのためにこうしなければ」ということを考えていただく必要はまったくありません。
一種の放置プレイですね(笑)。若い世代には「冷たい」という印象を与えてしまうかもしれませんね。
そうかもしれませんが、自由、自己決定権、それが、弁護士という仕事の大きな特徴だと思っています。時代の流れに逆行してミスマッチが生じている、と言われてしまったら、それまでですが(笑)。
仁科先生が行かれたように、法務省の民事局に出向したい、という若手が現れたら賛成しますか。
本人に意欲があれば、応援してあげたいです。

5.採用方針

では、次に「採用方針」にテーマを移らせてください。
 お話を伺っていると、アソシエイトを採用する意欲はあるように窺われるのですが、新人には、毎年、採用していただくチャンスはあるのでしょうか。

 

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(にしだ・あきら)

✉ akira@nishida.me

1972年東京生まれ。1991年東京都立西高等学校卒業・早稲田大学法学部入学、1994年司法試験合格、1995年東京大学大学院法学政治学研究科修士課程(研究者養成コース)入学、1997年同修士課程修了・司法研修所入所(第51期)。

1999年長島・大野法律事務所(現在の長島・大野・常松法律事務所)入所、2002年経済産業省(経済産業政策局産業組織課 課長補佐)へ出向、2004年日本銀行(金融市場局・決済機構局 法務主幹)へ出向。

2006年長島・大野・常松法律事務所を退所し、西田法律事務所を設立、2007年有料職業紹介事業の許可を受け、西田法務研究所を設立。現在西田法律事務所・西田法務研究所代表。

著書:『弁護士の就職と転職』(商事法務、2007)

 

 




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