◆SH1865◆一流企業が真に信頼する法律事務所はどこか? ②桃尾・松尾・難波法律事務所インタビュー 西田 章(2018/05/28)

一流企業が真に信頼する法律事務所はどこか?

② 桃尾・松尾・難波法律事務所インタビュー

桃尾・松尾・難波法律事務所
弁護士 大 江 耕 治

(聞き手)西 田   章

 

 業界研究(法律事務所)のインタビューの第2弾として、桃尾・松尾・難波法律事務所の大江耕治弁護士にお話をお伺いしてきました(2018年5月9日)。

 

(大江弁護士は、司法修習(54期)を修了した後、桃尾・松尾・難波に入所されて、米国ロースクール留学とローファーム研修に出られて、帰国後は、経済産業省(通商政策局通商機構部)出向を経て、事務所に復帰してパートナーに昇進されて、弁理士登録もなされています。略歴については、桃尾・松尾・難波のHPをご参照下さい。)

 

 私が桃尾・松尾・難波について耳にしてきた評判は、「東京地裁民事8部が大規模事件で更生管財人を依頼する事務所である」とか「総合商社が本当に困ったときに相談する事務所である」とか「欧米のファッションブランドが信頼している事務所である」と様々であり、ひとつの中規模事務所を表したものとは思えないほど多方面に展開されたものでした。今回の取材を通じて、私は、桃尾・松尾・難波について、

  1.   カリスマ的魅力を持つネーミング・パートナーが築いた総合事務所としての基盤の下に、それに続く弁護士達が、それぞれの卓越した能力を活かして、現在も、訴訟、国際仲裁、独禁法、M&A、IT関連等の幅広い分野で国内外の最先端の実務を切り拓いて進化し続けていること
  2.   外国企業から日本法のリーガルサービスで最も信頼されている事務所のひとつであると同時に、グローバルに活動する日本企業から、海外リーガル・リスク管理の司令塔的な役割も任されるなど、渉外業務にも長けていること
  3.  「相思相愛」と思える選りすぐりの人材だけを採用し、全弁護士の顔の見える規模を維持してきているが故に、アソシエイト一人一人の自主性を尊重し、長期的な視点でのキャリア形成のサポートを実現できていること

という状況を理解することができました。

 以下、質疑の詳細を掲載致しましたので、どうぞご覧ください。

 

1.依頼者層

「桃尾・松尾・難波」というと、日本企業へのアドバイスをしているイメージと、外国企業の代理人というイメージが併存しています。実際、日本企業も、外国企業も、依頼者としては両方とも多いのでしょうか。
はい、日本企業からも、外国企業からもご依頼をいただいています。
大企業を代理している印象なのですが、企業規模的には大きな企業の代理を中心にされているのでしょうか。
必ずしもそういうわけではありません。確かに割合的には大企業の依頼者のほうが多いかもしれませんが、ベンチャー企業からのご依頼も受けていますし、中小企業、個人の依頼者もおられます。
個人もですか? それは意外でした。渉外事務所は、ポリシーとして個人依頼者を取らない主義かと誤解していました。
自分たちを頼りに相談してきた人に対して「うちは個人依頼者の相談を受けません」とは言えません。当事務所はそういうことを言いたくない弁護士が集まっているように思います。基本的な思考として「依頼されたら、可能な限りなんでも自分で受けたい」と考える人が多いんでしょうね。見ず知らずの人からご依頼いただくよりも、個人的な伝手でご依頼いただくことが多いですが。
業種的には、製造業の依頼者が多いのでしょうか。
そうですね、創設以来、メーカーの依頼者は多いと思います。
総合商社もありますよね。日本を代表する総合商社の法務部長経験者から「マンパワーが要る仕事は大手事務所に外注しているが、本当に困ったときには、うちは桃尾・松尾・難波に相談する」と聞いたことがあります。
そういう風に仰っていただけるのはうれしいですね。
ミーハー的な視点では、欧米の高級ブランドを扱っていらっしゃるのには「カッコイイなぁ」と感じてしまいます。
海外のファッションブランドからは、模倣品対策等の日本におけるブランドの保護活動についてご依頼いただいています。ただ、対象は高級ブランド品に限らず、ファストファッションも、スポーツブランドも、日用品も、ブランド管理は幅広くお手伝いさせていただいています。
先ほど、ベンチャー企業も依頼者にいると仰っていましたが、ベンチャーも、知財絡みなのでしょうか。
様々な種類のベンチャー企業から依頼を受けているので、必ずしも知財絡みが多いというわけではありません。ベンチャー企業のジェネラル・コーポレートやベンチャーファイナンスについても多くご依頼いただいています。知財絡みということであれば、バイオベンチャーからの依頼は多いですね。当事務所は、伝統的に製薬会社のお仕事を受けていたので、薬事関係では強みがあると思っています。当事務所のクライアントに勤めておられた方が転職されたり、又は、自ら起業されたりして、また新しい会社でご依頼いただくということがあります。
それだけ桃尾・松尾・難波のサービスのクオリティに満足されている、ということですね。
依頼者が、知り合いの会社を紹介してくれてクライアントが広がることもありますし、他事務所の弁護士からご紹介を受けることも多いですね。

2.業務分野

次に、業務分野についてお伺いしていきたいと思います。つい、桃尾先生が更生管財人を務められた長崎屋(2000年)やハウステンボス(2003年)が頭に浮かんでしまうのですが、倒産・事業再生が業務の中心というわけではないのですよね。
そういった大型案件のイメージが強いのか、当事務所を倒産・事業再生のブティックファームと誤解されて新卒採用に応募してくださる方も結構多くいらっしゃいます。過去の大型会社更生事件では、当事務所の多数の弁護士が管財人団に入って活動していましたが、最近は、大型の会社更生事件はそもそも世の中的にありませんし、当事務所の弁護士がそのような事件で管財人として携わる機会はあまりありません。それでも、私を含め複数の弁護士が裁判所からコンスタントに破産管財人に選任されていますし、破産や民事再生の申立ても代理しています。また、債権者側からであれば、日常的に債権回収・債権管理の視点からのご相談をいただいています。
なるほど、管財人側の経験が豊富な事務所だからこそ、債権者も実務的なアドバイスを期待できるのでしょうね。 ところで、桃尾・松尾・難波は、会社法関連で、『Q&A 株主総会の実務』(商事法務、2012年)、『コーポレートガバナンスからみる会社法〔第2版〕』(商事法務、2015年)、『コンパクト解説会社法4・会社法の議事録作成実務――株主総会・取締役会・監査役会・各委員会』(商事法務、2016年)なども出版されていて、「会社法に強い」というイメージがあります。
会社法は、ほぼ全ての弁護士が取り組んでいるので、他事務所に負けないノウハウがあると思っています。
紛争解決の分野では、会社法関連に限らない「強み」があると思いますが、その中でも、案件の種類に特徴はあるのでしょうか。
企業が当事者となる幅広い分野での訴訟事件を代理させていただいていることは当事務所の特徴の一つといえるかもしれません。債権回収や建物明渡請求訴訟といった「一般的」な紛争の代理をさせていただくことももちろん多くありますが、それらのみならず、株主代表訴訟、株主総会決議取消訴訟、システム開発紛争、職務発明やその他特許権に関する紛争等、多様な案件で代理人を務めています。当事務所としては、クライアントが本当に困ったときに頼りにされる事務所でありたいと考えており、複雑な事案や困難な訴訟において当事務所を代理人として選んでいただいていることはとても嬉しく思います。
国際仲裁の分野では、内藤順也先生のお名前をよく耳にします。これは、内藤先生が個人的に仲裁人をされているのでしょうか。
内藤が仲裁人を務めることもありますし、事務所として、国際仲裁事件で代理人を務めることもあります。両方ですね。
シンガポールが仲裁地の事件でしょうか。東京でも事件はあるのですか。
シンガポールをはじめとして、ロンドン、ニューヨーク、チューリヒ等、仲裁地は色々です。もちろん、東京、大阪の事件もあります。
日本企業の代理人ですか。
代理人業務では、日本企業が依頼者の場合が多いかもしれませんが、外国企業の代理人となる場合もあります。
国際的な紛争といえば、海外の競争当局が、自動車部品、電子部品、海運、航空貨物といった分野で国際カルテルを摘発していました。この分野でも、向先生がご活躍されていますよね。
そうですね、新聞報道されるような大型な事件にも多く関与していたと思います。
海外の競争当局も絡む案件では、海外のローファームとも連携した仕事がなされるのでしょうか。
はい、各国のローファームと連携しながら仕事をしています。当事務所は、Interlawという国際的なローファームのネットワークに入っているので、各国のInterlawのメンバーファームと連携することもあります。
海外独禁当局との関わりでは、カルテルだけでなく、M&Aでも、企業結合の事前届出も担当されているのでしょうか。
クロスボーダーのM&Aも多数依頼をいただくので、海外当局への届出もご相談いただいています。
クロスボーダーのM&A案件としては、地域的には、最近は、アジアが多いのでしょうか。
はい。アジアは日本企業の関心が高いので、そのような傾向にあります。具体的には、直近でも、マレーシア、ベトナム、タイ、インド、中国、インドネシア、シンガポール等の国々におけるM&A案件を担当しております。また、クロスボーダーのM&A案件は、アジアには限られません。例えば、最近でも、難波が中心となり、スペインや英国のM&A案件を取扱いました。
日本企業のアウトバウンドを担当すると、海外ローファームの指示を受けた下働きでなく、むしろ、こちらから、海外のローファームに指示を出すイメージでしょうか。
そうですね、依頼者が日本企業の場合には、当事務所が、案件管理のコントロールタワーである依頼者の経営企画部等と一緒になって、世界各国のローファームに指示を出していくことになります。
向先生は、ご執筆も多いですよね。案件でお忙しいのにすごいと思います。
向は、独占禁止法分野の実務関連の執筆のほか、日本の独占禁止法にアトーニー・クライアント・プリヴィレッジ(依頼者と弁護士の間の秘匿特権)を導入すべきかどうかといった論点を含め、立法論的な議論に参加したり、執筆で意見を述べたりしているようです。また、事務所の内外の他の弁護士との共著での出版に参加することもあります(『独占禁止法と損害賠償・差止請求』(中央経済社、2018年))。
出版と言えば、若い先生も積極的に情報発信されていますよね。松尾剛行先生は、『最新判例にみるインターネット上のプライバシー・個人情報保護の理論と実務』(勁草書房、2017年)とか『士業のための改正個人情報保護法の法律相談』(学陽書房、2017年)などご執筆なされていますが、アソシエイトの先生が単著をこれだけ出されるのも珍しいと思っていました。
 松尾剛行は、精力的に執筆活動をしています。パートナーは管理していません(笑)。IT関係は、もともと事務所に依頼者が多かったところ、技術やシステムに詳しい松尾が、うまくはまった印象です。
確かに、IT系は、年配の弁護士よりも、若手のほうがずっと詳しいですよね。IT分野では、中谷先生は、日本IBMご出身の社会人経験がある弁護士なのですね。
はい、中谷も、難波や松尾剛行と共に、『裁判例から考えるシステム開発紛争の法律実務』(商事法務、2017年)を執筆しています。彼らは、実際にシステム開発紛争の裁判を一緒に担当しており、その際に、過去の裁判例をすべて精査していたので、そのリサーチ結果も活用されています。
その紛争解決のノウハウは、契約書作成の予防法務のアドバイスにも役立ちますよね。
システムやソフトウェア関連は、国内外を問わずに、大きな企業も依頼者に多いので、実際にも、契約書作成やレビューの仕事も多いですね。そのような仕事においては、担当する弁護士自身が日常的に訴訟案件に携わっているため、経験に基づく、実際に紛争になった場合を見越したアドバイスができると思います。
大江先生ご自身は、弁理士登録もなされていますが、特許関係の訴訟も担当されているのでしょうか。
はい、今も何件か担当しています。私だけではなく、他の多くの弁護士も特許関係の訴訟に携わっています。
「文系弁護士」には、商標や著作権は理解できても、理系的な思考がないと明細書を読むのは難しいのかと思っていました。
件数でいえば、商標とか、著作権とか、いわゆる「文系知財」のほうが多いかもしれません。事務所には、純粋な弁理士や、理系出身の弁護士は現在のところいません。
案件で弁理士と連携されることはありますか。
特許の侵害訴訟では弁理士に入ってもらって一緒に仕事をすることも多いです。ただ、理系の知識がなくて苦労することはありますが、結局のところは、法律問題なので、弁理士がいなければ対応できない、というものでもないと思います。現に、職務発明対価請求の事件等は、弁護士だけで対応しています。技術的な側面では悪戦苦闘することもありますが、裁判官も文系が多いですし、技術ではなく法律のプロフェッショナル同士、弁護士のほうが裁判官に説得力がある書面を起案できる、という側面もあると思います。
特定の外部の弁理士や特許事務所で、継続的な提携関係はないのでしょうか。
特定の提携先があるわけではありません。案件毎に、各パートナーが親しい弁理士に相談してケースバイケースで対応しています。
文系知財については、先ほども、ファッション、ブランド関係の依頼者が多いとお伺いしましたが、商標の仕事が多いのでしょうか。
ファッション、ブランド関係では、商標や不正競争防止法の案件が多いですが、ソフトウェア会社から、プログラム・ソフトウエアに関する不正コピー対策など著作権に関する案件も多数受けています。これらの分野については、訴訟活動も含めて、不正対策活動全般を担当しています。最近では、パロディ商標に関する訴訟等で代理人を務めることも多くあります。
業種的には、薬事関連も強い、という印象がありますが、仕事も多いのでしょうか。
薬事は、臨床試験や治験、製造販売承認、薬価などの特有の仕組みがありそれらに関して法令、通達、ガイドライン、業界団体の自主規制などの複雑なルールがあって、専門性が求められる分野です。当事務所では、国内外の製薬会社や医療機器メーカーの依頼者が多数いたこともあり、ノウハウが蓄積されています。また、以前は製薬会社が自前で新薬を開発するというのがメインでしたが、最近では、ベンチャー企業やスタートアップ企業との提携や、大学との共同研究も盛んになっているので、そのお手伝いをしたりもしています。
ベンチャー側での関与もあるのでしょうか。
多くのバイオベンチャーから仕事を受けています。そのようなベンチャーについては、薬事絡みだけではなく、法務全般について仕事をしています。ベンチャーを作るところから、最終的にEXITするところまでお手伝いをすることもあります。上場に至った会社もあれば、事業を売却して終わるケースもあります。

3.仕事の進め方

それでは、次に、「仕事の進め方」についてお尋ねしたいと思います。 事務所によっては、「所内に仕事をしてみたいパートナーがいるのに、苦手なパートナーに囲われちゃっている」という不満を抱えているアソシエイトもいます。桃尾・松尾・難波では、いろいろなパートナーと仕事をするチャンスはありますか。
いろんなパートナーと仕事ができることは間違いありません。
 仕事をお願いするときも、「前回はこのアソシエイトと仕事をしたから、今度はこっちとしよう」ということを考えています。1年生に対しては、特にそうです。今年は、新人が2名入りましたが、先日も、「この間、彼にこういう案件を頼んだから、同じような案件が来たので、次はこちらに」と考えてお願いしたことがありました。
では、全アソシエイトと仕事をしているのですか。
シニア・アソシエイトになると、段々に専門化してきて、何人かのパートナーとの仕事が増える、ということはあると思いますが、ジュニアのうちは、全パートナーと仕事をしています。私もそうですし、他のパートナーもそうしています。
内藤先生と岩波先生は、司法研修所の教官(民事弁護)を務めておられますよね。かつて、内藤先生のクラスだった司法修習生から、内藤先生はとても人気があった、という話を聞きました。
 教官は多大な時間を割かれる業務だと思いますが、弁護士業務が忙しい中に、それだけの負担を引き受けられる、というのは、教えることが好きなのだなぁ、と想像しました。
そうですね、教えるのが好きというのはあるのかもしれません。端から見て感じることとしては、教官を務めたが故に、修習生や若い弁護士がどういう点でわからなくなってしまったり、躓きがちなのかをよく理解しているように思います。
そういう教官ノウハウは、事務所内の指導にも生かされているのですね。 ところで、パートナーとアソシエイトの組み合わせは、毎回変わるとお伺いしましたが、パートナーとアソシエイトの2名体制が最小チームなのでしょうか。
チーム編成は、ケースバイケースです。最小形態は、ひとりですね。パートナーひとりで済ませることもあれば、アソシエイトがほぼひとりで回すこともあります。
クライアントがアソシエイトに連絡してきて、アソシエイトが回答する、ということですか。
そうですね、3年目ぐらいになれば、アソシエイトでも、直接に依頼者から相談が来て、自分で考えて、直接に依頼者に返答していることもあります。
 私自身、留学前でも、訴訟事件で、パートナーも訴訟代理人に入っていましたが、実質的にひとりで判断して処理させてもらった事件があります。
なるほど。パートナーがいて、その下に、シニア・アソシエイトがいて、さらにその下にジュニア・アソシエイトが入るような形態だと、ジュニアは、なかなか独り立ちできないですよね。
上の弁護士が後でレビューしてくれると思っていたら、どうしても甘えが出てしまうのではないかと思います。うちの事務所では、意識的に、若い人を、外に、クライアントの前に出していくことを心がけています。1年目からどんどんクライアントと直接にやりとりさせています。クライアントがどういうことを求めているか、そのニーズに応えるにはどうすればいいか、というのを実地で経験を積んで学んでもらっています。
 クライアントも「アソシエイトだけど、彼・彼女は信頼できる」と思ってくれたら、契約書のレビューといった案件を直接にアソシエイトに依頼するようになることもあります。
そういえば、「大手事務所でアソシエイトの質の低下がはじまったのは、大型案件ばかりになり、ジェネラル・コーポレートが減ったからだ」と分析している人がいるのを思い出しました。
うちにまだジェネラル・コーポレートの相談が多いのは幸運なことかもしれませんね。 弁護士は究極的には個人事業主です。自分のクライアントを自分の責任で仕事をする、ということを目指してもらいたいと思います。もちろん、すぐにできるわけではないので、パートナーがサポートをしますが、気持ちとしては、「早く自分ひとりで出来るようになりたい!」という意欲を持っている人がうちに向いていると思います。
大型案件になると、3名、4名とチームに参加する弁護士も増えていくのでしょうか。
大きな案件では、アソシエイトが複数入ることもありますし、ジュニア・パートナーが追加で入ることもあります。時間の限られた内部調査や国際仲裁事件では、5名、6名ということもあります。案件が来た都度、チームを決めるので、色々な組み合わせがあります。
顧問先には、担当アソシエイトが決まっていないのでしょうか。
必ずしも決まっていません。もちろん、クライアントが、前回担当したアソシエイトを気に入ったというような場合には、それを敢えて変える必要はないので、そのクライアントの仕事はそのアソシエイトに多く頼むということはあります。私がジュニアの頃は、同じクライアントを担当することが多かったです。ただ、パートナーの数も増えてきたので、今は、いろんな組み合わせの事件があります。
パートナーは、アソシエイトに仕事を振る時に、アソシエイトの忙しさも考慮するのでしょうか。
アベイラビリティはかなり見ています。アソシエイトには、稼働時間をタイムシートに記録してもらっていますので、それを集計して、パートナーは、毎週、アソシエイトの稼働状況をチェックしています。「翌週、どんな案件を抱えているか」も書いてもらっているので、特定のアソシエイトがパンクすることがないように気をつけています。
週単位だとすると、確認する手間が大変ですよね。
パートナーの下には、アソシエイトの稼働時間等の一覧が、一週間に一回送られてきます。パートナーとしては、今週の稼働時間の予測が多過ぎるアソシエイトに対しては、新規のアサインは控えるようにしています。
色々なパートナーと仕事をするとなると、1年生に悩み事が生じた場合には、誰に相談すればいいのでしょうか。誰かメンターとなる先輩は定められているのでしょうか。
「指導担当弁護士」という制度があり、ジュニア・パートナー1名を新人のメンターとしています。そのパートナーの弁護士の案件を多く扱うというものではなく、個別案件とは別に「何か困ったことがあったら、相談できる先」として決めているものです。1年目だけの制度ですが、実際のところは、あまり活用はされていないようです。
活用されていないのは、関係が良好な証拠ですね(笑)。
ところで、1年生の執務スペースは、まさか個室ではないですよね。パートナーと同部屋ですか。
1年生の部屋は、1~2年上の先輩と同部屋にしています。アソシエイト同士です。先輩が働く姿を間近で見ることで、少しでも早く仕事の仕方を覚えてほしいと考えています。また、少し上の先輩のほうが、わからないことを聞きやすいということもあるかと思います。
次に「専門性」についてお尋ねしたいと思います。まずは、ジェネラリストとしてなんでもできるようになる、というのが目標になるでしょうか。
うちにも様々タイプの弁護士もいますが、少なくともアソシエイトについては、訴訟案件も含めて、幅広い分野の仕事をしてもらうことになります。そのため、最初から特定の分野に決めて、その分野のみやっていきたいという方にとっては、うちの事務所は向いていないかもしれません。
 パートナー毎にそれぞれ多く扱っている分野が異なるので、全パートナーと仕事をすれば、必然的に幅広い分野の案件に触れざるを得なくなります。逆に「取り扱うことができる分野の広さ」については、保証できます(笑)。
大江先生ご自身は、いつ知財を専門にすると決意なされたのですか。
知財が専門というわけではなく、他も多く取り扱っていますし、専門にすると今でも決意はしていません(笑)。私自身は、修習生のころは会社法をやりたいと思っていました。大学でも知財は履修していませんでしたので、知財関係の法律の条文なんてまったく読んだこともありませんでした。しかし、実際に事務所に入ってから、知財案件を担当する中で、「知財が面白い」と感じるようになりました。そして、海外研修先もたまたま知財に強い事務所に行くことになり、その後経済産業省に出向している間も知財の条約作りに携わることになりました。気付いたら、弁理士登録までしています。
何が向いているか、なんてやってみないとわからないですよね。
はい、仕事の巡り合わせですね。そこで「面白い」と思ったら、自分で勉強すればいいと思います。
 また、若手のうちにいろんな分野の案件に触れることで、様々な論点が絡み合うような複雑な法律問題に対処できるだけの弁護士としての足腰が鍛えられると思います。
事務所には、専門法分野のグループ制度はないのですか。
特定の分野のみを取り扱うようなグループ制度はありません。うちの事務所では、特定の得意分野を有するパートナーでも、他の法分野の案件も幅広く取り扱っています。
これまでの話をお伺いしていると、弁護士の教育は、やはり、オン・ザ・ジョブが基本だという印象を強めているのですが、そういう理解でいいでしょうか。
そうですね。OJTが基本です。我々自身が、先輩弁護士の背中を見て仕事をする、というスタイルで仕事を覚えてきました。それが、弁護士として一番育つのではないでしょうか。
とはいえ、新人に対する知識の補完という意味では、「座学」に意味がないわけではないと思いますが、その点はどうでしょうか。
所内でも、1ヵ月に1回、勉強会を開催しています。これは、新人に限らず、アソシエイト全員に向けたものです。テーマを決めて、毎月、誰かに報告させています。報告内容は、アソシエイトと話し合って決めています。アソシエイトだけでなく、ジュニア・パートナーが報告者に回ることもあります。
どのようなテーマが設定されているのでしょうか。
債権法改正や会社法改正はわかりやすい例ですが、システム開発紛争とか労務事件とか、実際の事件を担当したアソシエイトが報告することもあります。
英語学習はどうでしょうか。
基本的には個人個人が自分で学習することになります。ただ、うちには、アメリカ人の弁護士もいて、彼が英会話の研修をしてくれたこともあります。
留学準備には、外国人弁護士とのコミュニケーションを増やすのが学習法として効果的そうですね。
はい、実際に、留学前のアソシエイトが、希望して外国人弁護士との同室になって、しきりに話しかけていたこともあります。外国人弁護士から鬱陶しがられていたかもしれませんが(笑)、おかげで無事に留学して、今も海外研修中です。

4.渉外案件

渉外案件は、事務所全体の仕事の割合からいけば、何割ぐらいでしょうか。
国内案件のほうが多いですが、何らかの形で英語が絡む案件が、3割〜4割ぐらいあるイメージです。パートナーは、これよりも、もっと渉外案件の割合が多いかもしれません。
1年生から、3〜4割は英語案件だと、大変ではないですか。
留学前のジュニア・アソシエイトのうちは、もっと国内案件の割合が多いです。英語が絡む渉外案件は、せいぜい1~2割程度かもしれません。
渉外案件は、全弁護士が扱うことになりますか。国内案件専門の弁護士はいないでしょうか。
そうですね、渉外案件を全員が扱っています。国内案件だけを扱っている弁護士はいません。
渉外案件の種類には、日系企業のアウトバウンド、外国企業/外資系企業のインバウンドがあると思いますが。
両方です。アウトバウンドは、地域的には、最近はアジア進出が多いですが、欧州案件もあれば、北米案件も、南米案件もあります。グローバルなM&Aでは、全世界が関係してきます。
外国企業の依頼者は、どこの国が多いでしょうか。米国企業が多いですか。
米国企業も多いですが、欧州など他の国の企業も多くいます。また、所内に中国に留学した弁護士や、中国人弁護士がいるので、最近は、中国クライアントも増えています。中国企業が、日本企業の買収に名乗りを挙げるケースが増えているように思います。
クロスボーダー案件で、Interlawのネットワークを利用されるのですね。
Interlawは、ゆるやかなネットワークで、海外案件でこのネットワークを使わなければならないといった縛りはありません。実際、クロスボーダー案件でInterlaw以外のローファームと協働することは頻繁にあります。弁護士の留学2年目の研修事務所先も、Interlawのメンバー先に限らずに、仕事で付き合いのあるローファームで研修することが多いです。
 ただ、Interlawは小回りがきき、メンバーには良く知っている弁護士が多いので、仕事を頼みやすいという利点があります。そもそも、独立系ローファームの集まりなので、弁護士としての気質が似ている人が集まっているので、仲も良いです。毎年、世界大会と各リージョン、我々であればアジアパシフィックの大会があり、そこで各国のメンバーファームの弁護士と顔を合わせる機会があります。今は、難波がInterlawのアジアパシフィックのチェアを務めており、当事務所はInterlawの主要なメンバーとなっています。
次に、「留学制度」についてお尋ねします。アソシエイトは、原則として、全員、留学に行くのでしょうか。
はい、本人が嫌だと言わない限りは全員に行ってもらうことにしています。
留学は弁護士何年目で行くことになります。
4~5年目が多いです。本人の事情で「早く行きたい」とか「遅らせてもらいたい」ということもあります。例えば、配偶者と留学のタイミングを合わるような場合ですね。
留学先は、何か事務所側で指示を出すことはあるのでしょうか。
いえ、それはありません。留学先は本人が決めます。どの地域に行きたいか、どの学校に行きたいかは本人次第です。今年は、米国にひとり、英国にひとり留学する予定ですが、英国留学も本人の希望です。
2年目研修でイタリアに行かれている先生もいますよね。中谷先生と竹村先生は。
イタリアの事務所は、中谷が自分で見付けてきた研修先で、それから仲良くなりました。ファッション関連に強い事務所だったので、その分野に関心が高い竹村は、そこで研修させてもらいました。
留学に際して、事務所からの経済的支援はあるのでしょうか。
はい、生活費として、留学に行く時点の給与の7割、8割程度は支給しています。それとは別に、学費も全額事務所で出しますし、渡航費も出しています。
 また、留学準備でも、TOEFL受験のための英語学校の費用やTOEFLの受験費用も援助していますし、NY Bar受験のための予備校(バーブリ)の費用も事務所で負担しています。
それはとても手厚い補助ですね。

5.出向

最近は、社内弁護士の増加も受けて、若手の中には「一度は企業で働いてみたい」という希望を持つ人も増えています。こちらでは、アソシエイトが依頼者企業に出向することもあるのでしょうか。
クライアントに出向してもらうことは結構あります。1年目から出向してもらうこともあります。とはいえ、フルタイムで行くことは少ないですね。今、フルタイムで出向しているのは、ひとりだけです。多いのは、パートタイムで週に何日か時間を区切って、という形です。
出向先は、どういった業種の企業でしょうか。
業種は様々ですが、事業会社が多いですね。製薬会社もありますし、ファッションブランドもあります。外資系企業に行くこともあります。
外資系企業で英語でのコミュニケーション力が必要だと、ジュニアだと難しくないですか。
そうですね、そういう場合は、シニアなアソシエイトに行ってもらうのが通常です。ただ、英語の能力や意欲があれば、ジュニア・アソシエイトに行ってもらうこともあります。
出向は全員が行くのでしょうか。本人の希望で決まるのですか。
全員を出向に行かせる方針があるわけではありません。事務所に来た話に、その時点で適切と思われるアソシエイトに打診します。偶には、事務所の外から世界を見るのは、良い経験になると思っています。クライアントの「モノの考え方」とか「会社の中の人の動き」を知ることができるというメリットもあると思います。
出向には、営業的な意味合いもあるのでしょうか。
それを狙っているわけではありませんが、結果的に、クライアントから信頼を受ければ、出向していた本人に直接に仕事の連絡が来るということはあるようです。
大江先生は、経済産業省の通商経済政策局に出向なされていますが、官庁への出向にも積極的なのでしょうか。
官庁に行ったのは、私と、もうひとり、金融庁に行った森口がいます。私の場合はWTOの国際通商紛争に関心があって経産省に行きましたし、森口は金商法に興味があるということで本人の希望で金融庁に行きました。本人にそういう希望があれば、検討します。
大手事務所では、留学に代えて、出向に行くアソシエイトも見かけますが、その点はどうでしょうか。
当事務所では、留学と出向について二者択一のような捉え方はしていません。出向に行ったとしても、留学には行ってもらいたいです。私は留学後に出向しましたが、森口は、出向から戻ってきた後に留学に行きました。留学はマスト、と考えたもらったほうがいいかもしれません。

6.採用方針

それでは、次に「採用方針」についてお尋ねしたいと思います。新卒は毎年採用される方針でしょうか。人数の目安も教えてください。

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(にしだ・あきら)

✉ akira@nishida.me

1972年東京生まれ。1991年東京都立西高等学校卒業・早稲田大学法学部入学、1994年司法試験合格、1995年東京大学大学院法学政治学研究科修士課程(研究者養成コース)入学、1997年同修士課程修了・司法研修所入所(第51期)。

1999年長島・大野法律事務所(現在の長島・大野・常松法律事務所)入所、2002年経済産業省(経済産業政策局産業組織課 課長補佐)へ出向、2004年日本銀行(金融市場局・決済機構局 法務主幹)へ出向。

2006年長島・大野・常松法律事務所を退所し、西田法律事務所を設立、2007年有料職業紹介事業の許可を受け、西田法務研究所を設立。現在西田法律事務所・西田法務研究所代表。

著書:『弁護士の就職と転職』(商事法務、2007)

 

 




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