◆SH1839◆債権法改正後の民法の未来27 不実表示・相手方により生じた動機の錯誤(3) 上田 純(2018/05/16)

債権法改正後の民法の未来 27
不実表示・相手方により生じた動機の錯誤(3)

久保井総合法律事務所

弁護士 上 田   純

 

5 今後の参考になる議論

(一) 労働契約への適用

 労働契約の分野では、応募者のプライバシー、思想信条の自由等の人格権との調整が不可欠であること、使用者が応募者に求め得る情報についての判例・法律上の制限が乏しいこと、採用時の沈黙による詐欺等を理由に使用者が労働契約の取消しを主張するおそれがあることなどを挙げて、労働契約の応募者を適用対象とするかどうかについて慎重に検討すべきとの労働組合側委員・労働法学者らの意見があった。

 この懸念に対しては、労働者として雇用契約を締結しようとする者の人格権に関わるものとして労働契約を締結するかどうかを判断するに当たって考慮することが本来許されない事実は、「契約を締結するかどうかを判断するに当たって通常影響する事実」であるとか、これを考慮するのが「一般取引の通念に照らして正当と認められる」ということはできないとか、また、意思表示をするかどうかの判断に当たって考慮することが社会通念上不当であると考えられる事項については「通常人であってもその意思表示をしなかった」とは言えないとかを理由に、本提案による取消しは認められないとの考えが示されたが、なお、労働組合側委員・労働法学者・経済界側委員らからの慎重な意見が根強かった。

 この点、前述の解釈でもある程度対応可能と思われるが、前記懸念を払拭するためには、労働契約は適用除外である旨労働契約法等の特別法に明記することが考えられる。

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(うえだ・じゅん)

久保井総合法律事務所 パートナー弁護士 j-ueda@kuboi-law.gr.jp

金融、不動産、M&A、事業再生、債権回収、BtoC、相続、訴訟等を幅広く取り扱い、「金融機関の融資拒絶をめぐる法的諸問題」(金融法務事情1993号)、『多様化する事業再生』(共著・商事法務、2017年)、『コンメンタール消費者契約法〔第2版増補版〕』(共著・商事法務、2015年)等各分野の執筆や講演歴多数。

1992年千葉県立千葉高等学校卒業、1996年京都大学法学部卒業、1998年弁護士登録(大阪弁護士会)、2008年近畿大学法科大学院非常勤講師。現在、司法試験考査委員・予備試験考査委員(民法)、大阪弁護士会司法委員会副委員長・民法商法部会長、同民事訴訟法の運用に関する協議会副座長、金融法学会会員、日本民事訴訟法学会会員等。

久保井総合法律事務所 http://www.kuboi-law.gr.jp/

 




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