◆SH1789◆わが国におけるヘッジファンド・アクティビズムに対する法的対応と課題(1) 山田剛志/井上健(2018/04/23)

わが国におけるヘッジファンド・アクティビズムに対する法的対応と課題(1)

成城大学法学部
教授 山 田 剛 志

バークレイズ証券株式会社
金融法人部長・マネジング・ディレクター 井 上   健

 

1. 問題の所在

 近年いわゆる「物言う投資家」であるアクティビスト・ファンドの活動が、海外だけでなく、わが国でも活発になっている。本家であるアメリカにおいては、ここ数年、アクティビスト案件の件数は増加し、案件も大型化する傾向にある[1]。大手企業を相手に派手な経営改革キャンペーンや株主総会における議決権争奪戦を仕掛けることも少なくなく、資本市場での主要プレイヤーとしての存在感を増している。2017年一年間を見ても、著名アクティビスト・ファンドによる大手企業を対象とする案件は引き続き堅調であり、トライアン・ファンド・マネジメントによるプロクター・ギャンブル(P&G)に対する議決権争奪戦、パーシング・スクウェアによるオートマティック・データ・プロセシング(ADP)に対する議決権争奪戦、エリオット・マネジメントによるアコーニックへの取締役の派遣、ジャナによるホールフード・マーケットへの身売り圧力など、資本市場のみならず一般世間からも注目度の高い話題に事欠かない。アクティビスト・ファンドはいわゆるヘッジファンドの一形態であることが多いが、以下本稿では、ヘッジファンドのうち、アクティビストとして活動をするファンドを、アクティビスト・ファンドと定義する。

 また、最近では、著名なアメリカ籍のアクティビスト・ファンドが欧州における活動を活発化しており、ネスレ(スイス)、ダノン(フランス)、アクゾ・ノベル(オランダ)といったヨーロッパの有名一流企業がアメリカ籍のアクティビスト・ファンドの標的になっている。

 一方、日本においては、欧米に比べてアクティビスト・ファンドによる案件はまだ少ないものの、コーポレートガバナンス・コードやスチュワードシップ・コードの導入により株主との「建設的な対話」が重視されるようになり、さらに、外国人株主の増加や株式持ち合いの解消等の資本市場の構造変化と相まって、アクティビスト・ファンドが活動しやすい環境になりつつある。2017年の著名な案件を見ても、レノ(旧村上ファンド関係者による投資ファンド)による黒田電気に対する取締役選任を巡る議決権争奪戦、パナソニックによるパナホームの完全子会社化についてオアシス・マネジメント(香港)による統合比率見直しの意見表明、KKRによる株式公開買付けについてエリオット・マネジメント(米国)による反対の意見表明など、アクティビスト・ファンドによる日本における活動は従前に増して活発になってきている。

 しかしながら、これまでわが国では、アクティビスト・ファンドの定義、性質、その投資手法などについて正確に理解されているとはいえない。さらにその動向及び対応については、あまり理解が進んでいない。

 本稿では、わが国ではいまだ正確に理解されているとはいえないアクティビスト・ファンドの最近の動向について整理するとともに、アクティビスト・ファンドの標的になる企業がどのような対応をとるべきかについて、主にアメリカ法を参照しながら、実務面及び法律面からの検討を行い、わが国における対応策とその法的課題について示唆したい。

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(やまだ・つよし)

博士(法学)。一橋大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得後、新潟大学法学部助教授、実務法学研究科准教授を経て、2009年より成城大学法学部教授。2004年より弁護士登録(現在は東京弁護士会に所属)。株式会社トップカルチャー社外監査役、日本瓦斯株式会社社外監査役を務める。
「デリバティブ取引と法人顧客への説明義務および適合性原則――東京高判平成26年3月20日を中心に」判例タイムズ1438号(2017)、「証券会社の破綻処理と証券会社取締役の注意義務」金融・商事判例1483号(2016)ほか業績多数。

 

(いのうえ・たけし)

東京大学法学部卒、ペンシルベニア大学ウォートン・スクールにて経営学修士号(MBA)取得。大蔵省(現 財務省)、モルガンスタンレー証券、シティグループ証券等を経て、2016年10月よりバークレイズ証券に勤務。バークレイズ証券では、投資銀行部門 金融法人部長・マネージングディレクターとして、銀行、保険、ノンバンク、PEファンド等のM&Aや資金調達案件を担当。
サードポイント(米)からの敵対的提案に対するソニーの買収防衛、外国人株主らによる敵対的提案に対するオリンパスの防衛などの案件を担当し、クロスボーダーの企業買収、国内産業再編、企業再生、敵対的買収防衛案件など、複雑で難易度の高い案件について豊富なアドバイス経験・実績を有する。

 




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