◆SH1712◆弁護士の就職と転職Q&A Q38「依頼者が重視するのは、事務所名か? 担当弁護士名か?」 西田 章(2018/03/19)

弁護士の就職と転職Q&A

Q38「依頼者が重視するのは、事務所名か? 担当弁護士名か?」

西田法律事務所・西田法務研究所代表

弁護士 西 田   章

 

 弁護士という職業は、伝統的には、「サラリーマンになりたくない」という進路選択の帰結のひとつでした。だからこそ「自分の名前で仕事をする」「自分を信じてくれた依頼者に尽くす」という要素が必須だと思われていました。訴訟では、勝っても負けても、判決文に「訴訟代理人」として名前が載るのは、弁護士個人名です。法律事務所は送達場所にしか過ぎません。しかし、上場企業間の取引を支える企業法務の世界では、弁護士選択に際して、所属する法律事務所のブランドを考慮する比重が高くなってきています。 

 

1  問題の所在 

 日本の経済力が毎年伸びている時代であれば、自分の能力に自信がある学生にとっては、官僚となるか、大企業に就職すればやりがいがある仕事が約束されていました。それにも関わらず、司法試験に足踏みさせられながらも、弁護士になろうとするキャリア選択には、通説・判例を盲信しない、反骨心のようなものの存在が伺われていました。訴訟弁護士が目指す着地点も、「経済合理性がある落とし所」よりも、「正義の実現」(少なくとも不正義を看過できない)という姿勢を示すところにありました。書類作成の訓練を積むことよりも、「依頼者の代弁者」としての闘争心に溢れていることが信頼の根源にありました。

 ただ、クロスボーダー取引の広がり(日本企業の海外進出だけでなく、欧米系企業による国内進出)は、欧米流契約慣行の国内取引への輸入にもつながりました。ここでは、「ビジネスサイドのニーズに応えてスムースに取引を進めるために、類似案件の豊富な経験を有しているかどうか」が弁護士選択の重要な基準となっています。例えば、M&Aで友好的な公開買付けを行う場合のプレスリリースにおいても、そこで「リーガルアドバイザー」として記載されるのは、法律事務所名のみであり、担当弁護士の氏名は見当たりません。社会的な期待としては、法律事務所に所属している弁護士のM&A案件のノウハウは、すべて事務所単位で蓄積されて、所属弁護士にとって利用可能な状態になっている、と言うこともできそうです。

 この傾向がさらに他分野にも広がっていくとすれば、企業法務分野での信頼要素として「個」の要素は薄まっていき、キャリアの成否は「著名事務所に入ること」と「所属事務所でチームプレーに徹すること」で決まるのでしょうか。

 

2 対応指針

 企業が外部弁護士を選ぶのは、組織的な決定事項のひとつです。そこでは、依頼者側のキーパーソンが「この先生に依頼したい」という強い意思を持って提案してくれて、それに関連部署からの異議がなければ、その提案が実現します。そのため、①キーパーソンから「個人として強い信頼を受けること」が大前提として存在し、それに加えて、②「所属事務所に対する一定の安心感」も求められます。「所属事務所に対する一定の安心感」を測る指標としては、過去の取引実績が最も重視されますが、その他にも、同種案件の取扱実績、所属弁護士数やチェンバース等の弁護士ランキングに掲載されていることなどが参照されがちです。

 定型案件や少額事件の委託先事務所選びでは、利便性(費用の安さを含む)だけで決まることもありますが、前例がない新規案件又は大型・重要な紛争案件の舵取りを「顔の見えない弁護士」に任せることはできません。ここでは「依頼者側のキーパーソンが誰を信頼するか?」という個人ベースの信頼が最も重要な判断要素となります。 

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(にしだ・あきら)

✉ akira@nishida.me

1972年東京生まれ。1991年東京都立西高等学校卒業・早稲田大学法学部入学、1994年司法試験合格、1995年東京大学大学院法学政治学研究科修士課程(研究者養成コース)入学、1997年同修士課程修了・司法研修所入所(第51期)。

1999年長島・大野法律事務所(現在の長島・大野・常松法律事務所)入所、2002年経済産業省(経済産業政策局産業組織課 課長補佐)へ出向、2004年日本銀行(金融市場局・決済機構局 法務主幹)へ出向。

2006年長島・大野・常松法律事務所を退所し、西田法律事務所を設立、2007年有料職業紹介事業の許可を受け、西田法務研究所を設立。現在西田法律事務所・西田法務研究所代表。

著書:『弁護士の就職と転職』(商事法務、2007)

 

 




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