◆SH1455◆改正民法の「定型約款」に関する規律と諸論点(1) 渡邉雅之/井上真一郎/松崎嵩大(2017/10/25)

改正民法の「定型約款」に関する規律と諸論点(1)

弁護士法人三宅法律事務所

弁護士 渡 邉 雅 之
弁護士 井 上 真一郎
弁護士 松 崎 嵩 大

 

 「民法の一部を改正する法律」が平成29年5月26日に国会において成立し、同年6月2日に公布された(平成29年法律第44号)。同改正の中でも最も関心の高い論点の一つが新たに設けられた「定型約款」に関する規律である。

 「定型約款」に関する規律については、関心が高いにもかかわらず、そもそもどのような条項群が「定型約款」に該当するかも含め、必ずしも明確ではない論点が多いように思われる。そこで、本稿では、「定型約款」に関する規律について概観しつつ、解釈の問題となり得る諸論点について検討する。

 なお、本稿において、条文番号については、現行民法は「現行○条」、改正民法は「改正○条」と表記し、特に改正がされていない条文は「民法○条」と表記する。[1]

 

1 現行法における約款をめぐる問題

 現行民法には、約款に関する規定は存在しない。しかし、現代社会において、約款は、鉄道、バス、航空機等の運送約款、各種の保険約款等、市民生活にも関わる幅広い取引において利用されており、大量の取引を合理的、効率的に行うための手段として重要な意義を有している。

 すなわち、契約の種類・性質によっては、締結すべき契約の内容の詳細にまでわたって個々的に検討し、労力を費やして交渉することは効率が悪いため、あらかじめ約款の形でその細目を定めておき、これを多数の取引にそのまま取り入れることが、当事者双方にとって合理的かつ効率的である場合がある。

 他方、このような約款を用いた契約においては、約款の内容を相手方が十分に認識しないまま契約を締結することが少なくないことや、個別条項についての交渉がされないことなどから、相手方の利益が害される場合があるのではないかといった問題が指摘されている。すなわち、相手方は、極めて多数にわたることのある約款の条項について、その内容を理解し吟味するだけの注意を向けることが難しいため、個別の条項の意味を十分に認識しないまま契約を締結する事態が生じ得ること(いわゆる隠蔽効果といわれる問題)や、実質的な交渉が行われにくいことから、契約を締結するかしないかの選択が存在するのみになっている等の問題点があると指摘されている。

 そして、このような問題が生ずる約款を特徴付けている要素としては、個別の契約ごとの調整を予定せず、多数の取引に画一的に用いられる定型的な契約条項として用意されていることが指摘されている。すなわち、多数の取引に画一的に用いられる定型的な条項であるからこそ、大量の取引を合理的・効率的に行うことが可能となるのであり、特定の取引のみを例外扱いすることは交渉コストを増加させ、約款の有用性の否定につながると言われている。そのため、規律の対象とすべき約款について考える際には、多数の取引に画一的に用いられることを予定し、定型的な契約条項となっているものかどうかが、重要な要素になるといわれている。

続きはこちらから(フリー会員の方もご覧になれます)

バックナンバーはこちらから

 

(わたなべ・まさゆき)

渡邉雅之 (弁護士法人三宅法律事務所)

1995年東京大学法学部卒業。2001年弁護士登録(54期)。2016年公認不正検査士。成蹊大学法科大学院非常勤講師(金融商品取引法担当)、株式会社王将フードサービス社外取締役(平成26年6月~)、日特建設株式会社社外取締役(平成28年6月~)
【弁護士会関係役職】日本弁護士連合会民事介入暴力対策委員会委員、第二東京弁護士会民事介入暴力対策委員 ほか
【主な取扱業務】金融規制法・コンプライアンス業務、プロジェクト・ファイナンス、保険法、民暴・マネロン対策、M&A業務、倒産関係業務
【関連著書】『マイナンバー制度 法的リスク対策と特定個人情報取扱規程』(日本法令、2015年3月)、『改訂版 マイナンバー制度 法的リスク対策と特定個人情報取扱規程』(日本法令、2015年9月)

 

(いのうえ・しんいちろう)

井上真一郎 (弁護士法人三宅法律事務所)

2001年京都大学法学部卒業。2002年弁護士登録(55期)。
【主な取扱業務】会社法、金融取引法、信託法、その他民事・商事一般
【論文・著書】「無権限者による解約の有効性」保険事例研究会レポート第183号(2003)
「Q&A 資金決済法・改正割賦販売法-新しい決済サービスに関する法制の横断的開設」金融財政事情研究会(2010)(共著)
『日本版クラスアクション制度ってなに』(中央経済社、2012)(共著)

 

(まつざき・たかひろ)

松崎嵩大 (弁護士法人三宅法律事務所)

2004年慶應義塾大学法学部卒業。2007年弁護士登録(60期)。
【主な取扱業務】金融法,会社法,その他民事・商事一般

 

 <連絡先>

 弁護士法人三宅法律事務所 東京事務所

 電話 03-5288-1021 E-mail m-watanabe@miyake.gr.jp




メールで情報をお届けします
(毎週火曜日・金曜日)

サイト内検索