◆SHR005◆冒頭規定の意義―典型契約論―【5】 冒頭規定の意義―制裁と「合意による変更の可能性」―⑷ 浅場達也(2017/08/18)

冒頭規定の意義
―典型契約論―

1 冒頭規定の意義―制裁と「合意による変更の可能性」― (4)

みずほ証券 法務部

浅 場 達 也

 

Ⅳ 小括

1. 「はじめに―課題の設定―」の疑問点に対して

(1) 3つの疑問点

 これまでの検討を踏まえて、「はじめに―課題の設定―」で示した3つの疑問点に対し、どのような答えが考えられるかについて、検討してみよう。

ア 第1の疑問点
 まず、冒頭規定は強行規定と解されてこなかったが、その一方で冒頭規定を任意規定と位置付けることに違和感を表明する複数の最近の学説が存在することをどう考えるかという疑問点である。この疑問点は、冒頭規定が「強行規定か任意規定か」という既存の枠組みだけでは捉えられないことを強く示唆している。

 本稿においては、冒頭規定を通じて、契約書の中に多様な「リスク=何らかの制裁が課される可能性」が持ち込まれることを示した(「ポイント(4)」)。これを契約書作成者の立場からみると、そうした多様なリスクすべてを視野に入れるよう努めることが必要となる(「ポイント(5)」)。こうした多様なリスクは合意によって変更・排除することが難しいため、「強行規定か任意規定か」という枠組みとは別の、「当事者の合意による変更・排除が難しい規律」が冒頭規定を通じて作り出されることになる。そして、冒頭規定の要件に則らない場合、そのように作り出された「合意による変更・排除が難しい規律」の働きにより、契約書作成者に対して、何らかの不利益(=制裁)が課されることがある。

 「強行規定か任意規定か」という枠組みとは別に、「リスクの高低」という尺度を用いて検討することにより、冒頭規定が「任意法の秩序とは別の次元」(石川博康・前掲【1】[15] 「典型契約冒頭規定と要件事実論」『要件事実論と民法学との対話』(商事法務、2005)131頁を参照)に属することを示すことができるといえるだろう。

イ 第2の疑問点
 第2の疑問点は、無名契約を「どれかの典型契約に入れようと苦心する傾き」が、80年以上前の末川博博士から来栖三郎・星野英一博士に至るまで指摘されてきたことを、どう考えるかという点である。本稿においては、次の2点を指摘した。

 第1に、冒頭規定の定める要件を、合意によって変更・排除することが困難である場合があることが挙げられる。「ポイント(9)」で示したように、「冒頭規定の要件に則った」契約が、制裁を有する民法以外の法律(例えば出資法)の適用対象とする典型契約(消費貸借)に該当することを、合意によって変更・排除することは難しい。別の言葉でいえば、金銭に関し「冒頭規定(民法587条)の要件に則った」契約は、部分的にせよ、消費貸借たらざるを得ない(それを合意で変更・排除することは難しい)ということになる。

 特に、請負のようなやや抽象的な「一方が仕事の完成を約し、他方が結果に報酬を支払う」という要件の場合、様々な役務の提供契約(シナリオ作成契約や舞台出演契約)への該当可能性が高まることになり、部分的にせよこれらが請負であること(印紙税法上、これらが請負と扱われること)を合意で排除することは難しくなる。すなわち、広義の無名契約で、それが「仕事の完成」と「結果に報酬」という内容を持つ場合、印紙税法上の請負であることを排除することは(3倍の過怠税のリスクがあるため)困難となる。そして、これを契約書作成者の立場からみれば、(制裁を回避するために、)当該契約が「典型契約のどれかにあてはまるのではないか」との意識を常に持つ必要があることを意味している

 第2に、印紙税法の制裁の現在・過去について、「典型契約に入れようと苦心する傾き」という観点から、若干の検討を行った。特に過去(とりわけ明治32(1899)~昭和42(1967)年)の印紙税法においては、「包括網羅主義」が採用されており、この間、典型契約を含めすべての経済的証書は、印紙税法の定める課税文書のどれかにあてはめなければならなかった。(仮にこれに違反すると、科料・罰金という刑罰の対象となった。)その意味で、「入れようと苦心する傾き」という表現は正確ではなく、むしろ、無名契約を含めたすべての経済的証書は、印紙税法上の課税文書のどれかに無理にでもあてはめ、それぞれに応じた印紙を貼付する必要があったということができよう。今日では、「包括網羅主義」に代わって、「限定列挙主義」が採用されている。しかし、限定列挙主義の下においても、「この契約書は、印紙税法上の課税文書に該当するのではないか。該当しないと恣意的に判断して、後から過怠税を課されることはないだろうか」との疑問の下で、「典型契約のどれかにあてはまるのではないか」という意識が必要であることについては、(その程度が減少したとはいえ、)変わらないといえるだろう。

 以上の2点を踏まえたとき、次のようにいうことができよう。すなわち――

 無名契約を「どれかの典型契約に入れようと苦心する傾き」の背後には、「当事者の合意による変更・排除が難しい規律」が存在する。我々は、こうした「傾き」を否定的に捉えるのではなく、むしろ、「合意による変更・排除が難しい規律」が我々の行動を律していることを認めた上で、こうした「傾き」を含む契約行動を、的確な形で記述するよう努める必要があるということである。

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 ※本稿中、意見にわたる部分については、執筆者の個人的な意見であり、執筆者の所属する組織の見解を示すものではない。

 

(あさば・たつや)

1958年12月生まれ。1983年東京大学法学部卒業後、同年日本興業銀行へ入行。1992年ミシガン大学ロースクールLLM、2001年から2008年にみずほ証券法務室長を務め、現在はみずほ証券法務部に勤務。

 




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