◆SHR002◆冒頭規定の意義―典型契約論―【2】 冒頭規定の意義―制裁と「合意による変更の可能性」―⑴ 浅場達也(2017/08/15)

冒頭規定の意義
―典型契約論―

1 冒頭規定の意義―制裁と「合意による変更の可能性」― (1)

みずほ証券 法務部

浅 場 達 也

 

 まず、若干の必要な語の定義をしておこう。

(1) 「制裁」と「リスク」

 はじめに、以下の検討で中心的な位置を占める「制裁」と「リスク」という語について簡単に説明しておこう。制裁、とりわけ法的制裁について包括的に検討した近時の論稿として、佐伯仁志教授の『制裁論』がある。その中で制裁の定義は、「社会規範の違反に対して、その行為を否認したり思いとどまらせる意図でもって行われる反作用であり、一定の価値、利益の剥奪ないし一定の反価値、不利益の賦課をその内容とするもの」とされている。これは、田中成明教授による「制裁」の定義をほぼ踏襲するものである。本稿でもこの定義を基本として検討を進めるが、佐伯教授の『制裁論』の検討対象が、主に法的制裁であるのに対し、本稿においては「制裁」の中に、民事上の「無効」を含める他、「経済的不利益」の賦課等の「何らかの不利益」を含めて広く考えている

 この「制裁」の定義に関連して、以下では、「リスク」という語を、「何らかの制裁が課される可能性」という意味で用いている。

リスク=何らかの制裁が課される可能性

 「リスク」という語は、やや抽象的な響きを持ち、他方で「制裁」という語は、懲役や罰金等の具体的なイメージを伴い得るが、本稿では、「何らかの制裁が課される可能性」と「リスク」を同義で用いている。例えば「何らかの制裁が課される可能性の回避・最小化」との表現は若干長いため、短縮化した「リスクの回避・最小化」に置き換えている

 「制裁」の内容の重いものとして、「懲役」「行政罰」「無効」等が考えられるが、これらの関係についてはどのように考えるか。それぞれ性質が異なり、比較困難とも考えられるが、一応、大小関係として概ね、懲役>行政罰>無効と考えておく。この点については、貸金業法・利息制限法等の検討において若干言及する。

(2) 「契約書」の「作成」

 民法の用語として、「契約」という語に、対として用いられる語は、「成立」或いは「締結」が多い。「契約の成立」は民法の款の名称にも使われており、「契約を締結する」も一般的に用いられている。しかし、「成立」と「締結」はどちらも、「時間的な幅を持つ作業」というニュアンスを持ちにくい用語であり、どちらかといえば「一定の時点」の事象を指すことが多いと思われる。これに対して、本稿では、「契約書を作成する」との表現を多く用いている。「作成」という語が、一定の時間や手間を要する作業というニュアンスを持ちやすいからである

 ただ、それだけでなく、「契約書を作成する」との表現は、契約法に対する本稿全体の姿勢に関連するがゆえに、極めて重要であると考えている。「契約書を実際に作成する」立場に身を置くことこそが、契約法の検討では、必要不可欠な基本と考えられるからである。後に契約法体系化・典型契約論について検討する際に、「契約書を実際に作成する」立場に身を置くことの重要性に言及することになるだろう。

ポイント(1) 基本的立場
実際に契約書を作成する立場に身を置くことが最も重要であるというのが、本稿の基本的立場である。

 契約書の作成に当たって、「リスク=何らかの制裁が課される可能性」という不利益が生ずるとき、契約書作成者は一定の行為を選択したり、また一定の行為を回避したりする。本稿では、契約に関するそうした行為の「選択」や「回避」を、「契約行動」と呼んでいる。(1Ⅳ1.(2) 「契約行動と契約規範」を参照。)

 契約書の作成に際して、そうした選択・回避を行うとき、それをどこまで適切に記述することができるか。そして、それらの基にある、契約に関する規律をどこまで的確に捉えることができるか。本稿の以下の検討においては、根底にそうした意識が横たわっている。これらについては、1の「Ⅳ 小括」及び2の「契約法体系化の試み」において、若干立ち入った検討を加える。

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 ※本稿中、意見にわたる部分については、執筆者の個人的な意見であり、執筆者の所属する組織の見解を示すものではない。

 

(あさば・たつや)

1958年12月生まれ。1983年東京大学法学部卒業後、同年日本興業銀行へ入行。1992年ミシガン大学ロースクールLLM、2001年から2008年にみずほ証券法務室長を務め、現在はみずほ証券法務部に勤務。

 



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