◆SH0873◆日本企業のための国際仲裁対策(第12回) 関戸 麦(2016/11/10)

日本企業のための国際仲裁対策(第12回)

森・濱田松本法律事務所

弁護士(日本及びニューヨーク州)

関 戸   麦

第12回 国際仲裁手続の序盤における留意点(6)-被申立人の最初の対応その3

4. 管轄の有無に関する典型的な論点

(1) 仲裁合意の成否

 仲裁手続における管轄の根拠は仲裁合意であるため、管轄の有無について典型的に問題となるのは、まず仲裁合意の成否である。

 仲裁合意の成否は、法的合意の成否ないし契約の成否の問題であり、基本的には当事者の意思の合致があったか否かの問題である。但し、仲裁合意の成立のためには、追加の要件として「書面性」の要件を満たす必要がある。

 ニューヨーク条約(外国仲裁判断の承認及び執行に関する条約)は、仲裁合意につき「書面による合意を承認するものとする」と定めている(2条1項)。また、日本の仲裁法も、「仲裁合意は、当事者の全部が署名した文書、当事者が交換した書簡又は電報(ファクシミリ装置その他の隔地者間の通信手段で文字による通信内容の記録が受信者に提供されるものを用いて送信されたものを含む。)その他の書面によってしなければならない」と定めている(13条2項)。

 但し、この書面性の要件は、必ずしも厳格に求められている訳ではない。当事者の全部が署名をすることは必須ではなく、日本の仲裁法においても、上記のとおり、ファックス送信によって書面性の要件は満たしうる。さらに、日本の仲裁法は、電磁的記録によっても書面性の要件を満たしうるとしている(13条4項)。

 加えて、日本の仲裁法は、仲裁合意を直接定めずに、書面で引用する場合にも書面性の要件を満たしうると定めている(13条3項)。例えば、仲裁合意を含む約款を、契約内容として書面で引用する場合である。さらに、一方の当事者が提出した主張書面に仲裁合意の内容の記載があり、これに対して他方の当事者が提出した主張書面にこれを争う旨の記載がないときも、書面性の要件を満たすと定められている(13条5項)。すなわち、書面性の要件は、争いが生じた後になってから、事後的に満たすことも可能である。

 その上、書面性の要件は、一方当事者がその書面作成に一切関与していなくても満たしうる。英国法の判例ではあるが、Parker v. South Eastern Railway Co. [1877] LR2 CPD 416の判示の下では、例えば、商品の売買において、買主が仲裁合意が記載された注文書を売主に送付し、売主がこの仲裁合意に特段異論を唱えず、注文に応じて商品を引き渡した場合には、書面性の要件を満たす仲裁合意が成立し、書面(注文書)の作成に関与していない売主もこれに拘束される。

 以上のとおり、書面性の要件は、様々な形で満たしうる。

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(せきど・むぎ)

森・濱田松本法律事務所パートナー弁護士。訴訟、仲裁等の紛争解決の分野において、Chambers、Legal 500等の受賞歴多数。『日本企業のための米国民事訴訟対策』(商事法務、2010年)等、国際的な紛争解決に関する執筆、講演歴多数。
1996年東京大学法学部卒業、 1998年弁護士登録(第二東京弁護士会)、森綜合法律事務所(現在森・濱田松本法律事務所)入所、2004年シカゴ大学ロースクール(LL.M)卒業、 ヒューストン市Fulbright & Jaworski法律事務所にて執務、2005年ニュ-ヨーク州弁護士登録、2007年東京地方裁判所民事訴訟の運営に関する懇談会委員、2009年日本弁護士連合会民事裁判手続に関する委員会委員(現在副委員長)、2012年第二東京弁護士会司法制度調査会訴訟法部会部会長等。

 

 




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