◆SH0853◆日本企業のための国際仲裁対策(第10回) 関戸 麦(2016/10/27)

日本企業のための国際仲裁対策(第10回)

森・濱田松本法律事務所

弁護士(日本及びニューヨーク州)

関 戸   麦

第10回 国際仲裁手続の序盤における留意点(4)-被申立人の最初の対応

1. 概要

 被申立人(Respondent)が、仲裁申立書を受領した後の対応は、基本的には次の4通りである。

 第1は、仲裁手続の管轄を争わずに、本案(申立人の請求権の有無)という中身の点で争うことである。この場合、被申立人は答弁書(Answer)を提出する。これが、最もオーソドックスな対応である。

 第2は、仲裁手続の管轄を争うことである。争い方としては、仲裁人の選任前に仲裁機関の判断を求める方法と、仲裁人に判断を求める方法の二通りがある。

 第3は、和解協議を行うために、仲裁手続の停止(stay)を求めることである。但し、この停止をするためには、申立人の同意を得る必要がある。すなわち、申立人が進行を臨む場合には、停止はせずに、仲裁手続が進行する。もっとも、仲裁手続が進行する中でも、並行して、申立人と被申立人が和解のための協議をすることは何ら妨げられない。

 第4は、仲裁手続では応答せず、その後の、裁判所における強制執行の段階で争うというものである。但し、この第3の対応は、仲裁手続では欠席のまま敗訴するということである。仲裁手続で敗訴した上で、強制執行を免れられるのは極めて限定的な場合であるから、この第4の対応は極めてリスクが高く、一般的ではない。

 従来は、被申立人の対応は、基本的に以上の4通りであったが、2016年8月に施行されたSIAC(シンガポール国際仲裁センター)の新規則では、請求の早期却下(early dismissal)の制度が加えられた(29項)。これは、米国民事訴訟における訴え却下の申立て(motion to dismiss)に相当するものである。

 以上の基本的な対応に加え、追加的なものとして、以下の3点の対応方法がある。

 第1は、反対請求(counterclaim)の申立てである。これは、訴訟における反訴に相当するもので、被申立人が申立人に対して、請求をするというものである。

 第2は、迅速手続ないし簡易手続(expedited procedure)の申立てである。これは、仲裁手続を、通常よりも簡易迅速な手続で進めることを求めるというものである。

 第3は、担保提供の申立て(security for cost)である。これは、被申立人が勝訴した場合を念頭に、申立人に対して、仲裁手続に関して被申立人が支出した弁護士費用その他の費用の負担を請求する場合に備え、申立人に担保(金銭)の提供を求める申立てである。この申立てが認められると、申立人は所定の担保(金銭)を提供しない限り仲裁手続が進められないこととなる。また、仮に申立人が所定の担保(金銭)を提供できなければ、そこで仲裁手続は終了となり、被申立人としては最高の決着となる。

 以上の対応方法につき、以下、順に解説する。

続きはこちらから

バックナンバーはこちらから

 

(せきど・むぎ)

森・濱田松本法律事務所パートナー弁護士。訴訟、仲裁等の紛争解決の分野において、Chambers、Legal 500等の受賞歴多数。『日本企業のための米国民事訴訟対策』(商事法務、2010年)等、国際的な紛争解決に関する執筆、講演歴多数。
1996年東京大学法学部卒業、 1998年弁護士登録(第二東京弁護士会)、森綜合法律事務所(現在森・濱田松本法律事務所)入所、2004年シカゴ大学ロースクール(LL.M)卒業、 ヒューストン市Fulbright & Jaworski法律事務所にて執務、2005年ニュ-ヨーク州弁護士登録、2007年東京地方裁判所民事訴訟の運営に関する懇談会委員、2009年日本弁護士連合会民事裁判手続に関する委員会委員(現在副委員長)、2012年第二東京弁護士会司法制度調査会訴訟法部会部会長等。