◆SH4185◆法務省、民事判決情報データベース化検討会の第1回会議を開催――設置の趣旨と今後の取組み 鈴木智弘(2022/11/04)

法務省、民事判決情報データベース化検討会の第1回会議を開催

――設置の趣旨と今後の取組み――

岩田合同法律事務所

弁護士 鈴 木 智 弘

 

1 民事判決情報データベース化検討会設置の趣旨

 法務省は、2022年10月14日、民事判決情報データベース化検討会(以下「DB化検討会」という。)の第1回会議を開催した。DB化検討会は、民事判決情報という紛争当事者のみならず国民や社会全体で共有すべき公共財ともいうべき重要な資産を集約し、データベース化することに向けて、各界の有識者を集めて法制度化を見据えた課題の検討を進めることを目的として設置された。

 公益財団法人日弁連法務研究財団による2021年3月25日付「民事判決情報のオープンデータ化に向けた取りまとめ」(以下「財団取りまとめ」という。)では、民事判決情報をデータベース化した上で広く国民や社会の用に供することの意義について、①司法の国民に対する透明性を向上させ、②国民に対して行動規範・紛争解決指針を示すとともに、③紛争解決手続に関するAIの開発等の研究を推進するための基盤ともなり得るということが指摘されている。また、民事判決情報がビッグデータとして活用されることで、革新的なシステムの開発の契機となること等も期待されている。

 実務の現状について、財団取りまとめでは、民事判決情報は、裁判所のホームページ、判例雑誌や判例データベース等の様々な機関や媒体によってその一部が公開されているものの、公開されている民事判決情報は、現在、全国各地の裁判所において言い渡されている年間約20万件もの民事判決のうち、先例性のあるものや重要性の高いもの等に限られており、その利活用の場面も、法曹関係者等による先例調査や研究者による研究等に限られているとの指摘がなされており、民事判決情報が広く国民や社会での利活用がなされているとは言い難い状況にある。

 

2 DB化検討会で検討すべき事項

 民事判決情報のデータベース化にあたって検討すべき事項の例としては、以下の項目が挙げられている(DB化検討会第1回会議資料2参照)。今後、法制度化に向けて、DB化検討会においてこうした点が議論されることになる。

  1. ① 民事判決情報のデータベース化のニーズ・意義
  2. ② 適正な利活用に向けたデータベースの在り方
  3. ③ 制度整備の在り方(法整備の必要性)
  4. ④ 適切な仮名処理の在り方
  5. ⑤ 個人情報保護法制との関係
  6. ⑥ 情報管理機関の適格性
  7. ⑦ 利活用に関する規律の在り方
  8. ⑧ 情報管理機関を一元化することの是非
  9. ⑨ 民事判決情報の提供に係る不法行為責任について

 この中で、「④適切な仮名処理の在り方」では「法人の名称を仮名化すべきか」という問題が検討事項の例として挙げられているが、仮に法人の名称は仮名化されないという方向性になった場合には、民事判決情報の公開を通じた法人のレピュテーション低下のリスクは大きくなることから、法人が当事者となる訴訟では和解での解決がより好まれるという傾向になる可能性もある(なお、後述する改正民事訴訟法の下では、利害関係を有しない第三者は、口頭弁論期日において成立した和解に係るものを除き、和解調書を閲覧することができなくなる。)。

 

3 仮名化処理のスキーム

 現在、公開されている民事判決情報のほとんどにおいて訴訟関係人のプライバシー保護の観点から仮名化処理が行われているが、この仮名化の範囲や程度は一様ではなく、また、それぞれの機関においてコストを掛けて仮名化が行われており、社会全体でみると非効率的な運用がなされている。

 そこで、財団取りまとめでは、一定の機関が、民事判決情報の管理機関となって、裁判所から民事判決情報の提供を受け、効率的に一定の仮名化処理を施し、これをデータベース化して保管管理した上で、利活用機関に対して、オンデマンドに有償(効率化を前提とした仮名化処理費用相当額)で提供するというスキームが提案された。

 

(財団取りまとめ別図から引用)

 

4 民事訴訟手続のIT化

 民事判決情報のデータベース化は、民事訴訟手続のIT化の議論とも相まって、その利活用が注目される。

 2022年5月18日、民事訴訟手続のIT化を実現するための「民事訴訟法の一部を改正する法律」(以下「改正民事訴訟法」という。)が成立したが、これにより訴訟記録が電子化されることになった。現行の民事訴訟法の下では、訴訟当事者が作成する訴状や準備書面等や裁判所が作成する判決書等はすべて紙で作成され、裁判所で保管されていたが、改正民事訴訟法の下では、訴訟記録の電子化に係る手続が整備され、裁判書類は電子化されたファイルの形で保管されることになった。判決書についても電子判決書として電磁的記録をもって作成されることとなった。

 これにより、紙の書類を電子化するという作業が基本的には不要となるためデータベース化に親和的になり、より効率的にデータベース化を図ることができるようになる。

 

5 最後に

 今後、民事訴訟手続のIT化とともに民事判決情報のデータベース化が進めば、IT化による効率的な訴訟の運営とともに、データベース化による民事判決情報という公共財の有効かつ効率的な公開・活用が期待できる。訴訟関係人の権利保護には十分な配慮が必要ではあるものの、法曹実務家はもちろんのこと、民事裁判情報へのアクセスの道が拡大することは広く国民や社会にとって有益なことであり、コロナ禍を経てさらに加速したIT化・オンライン化の流れにふさわしい利便性の高いデータベースの登場を待ちたい。

以 上

 


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(すずき・ともひろ)

岩田合同法律事務所アソシエイト。2013年慶應義塾大学法学部卒業。2015年弁護士登録。

岩田合同法律事務所 http://www.iwatagodo.com/

<事務所概要>
1902年、故岩田宙造弁護士(後に司法大臣、貴族院議員、日本弁護士連合会会長等を歴任)により創立。爾来、一貫して企業法務の分野を歩んできた、我が国において最も歴史ある法律事務所の一つ。設立当初より、政府系銀行、都市銀行、地方銀行、信託銀行、地域金融機関、保険会社、金融商品取引業者、商社、電力会社、重電機メーカー、素材メーカー、印刷、製紙、不動産、建設、食品会社等、我が国の代表的な企業等の法律顧問として、多数の企業法務案件に関与している。

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