◆SH4171◆新規分野で企業から信頼されている司法修習60期代のリーガルアドバイザーは誰か? 第2回 伊藤雅浩弁護士インタビュー 西田章(2022/10/21)

新規分野で企業から信頼されている司法修習60期代のリーガルアドバイザーは誰か?
第2回 伊藤雅浩弁護士インタビュー

シティライツ法律事務所
弁護士 伊 藤 雅 浩

聞き手 西 田   章

 

 法務省が公表した今年(令和4年)の司法試験の結果に対しては、予備試験合格者の高い合格率(97.5%)が注目を集めたが、法科大学院関係者においては、卒業生のうち、未修者の合格率(21.3%)が、既修者の合格率(47.7%)を大きく下回ることが問題視され、改善に向けた対応策が検討されている。

 この統計だけに着目すれば、「他学部出身者は弁護士を目指して法科大学院の未修者コースに入学することを慎重に考えた方がいいよ」とのアドバイスが広まりそうに思われる。ただ、分が悪い勝負であることが分かっていても、司法試験に挑戦してみたいという他学部出身者がいるならば、確率論でキャリアの再考を促すだけでなく、「既修者よりも合格が困難とされる司法試験を突破した先には、法学部出身者とは異なるバックグラウンドを活かして、新規分野で信頼される弁護士になることもできる」という成功モデルを示して挙げることで、その「分の悪い挑戦」を応援する方向での情報提供もあってよいはずである。

 受験生全体においては、未修者の合格率は、既修者の合格率を下回っているが、個別に見れば、司法試験の結果でも、優れた成績を収める未修者が存在する。未修コース修了生が初めて司法試験を受けた2007年において、卓越した成績を収めることでそれを実証して見せたのが、伊藤雅浩弁護士(シティライツ法律事務所パートナー)だった。

 情報工学専攻のコンサルタントが、なぜ、法科大学院の未修コースに進学したのか。他の未修者と同様に法律の学習の入口で躓くことはなかったのか。社会人出身の「年配者」であることは、法律事務所への就活に不利ではなかったのか。コンサルタントとしての経験は、弁護士としての専門性を確立するのに役立ったのか。法科大学院進学を決意した当時の状況から、ITを専門とする弁護士として認知された現在の業務におけるクライアントとのコミュニケーションのスタイルやアソシエイトの採用や育成の考え方についてまで、伊藤弁護士にざっくばらんにお話をお伺いすることができたので、以下、その結果を紹介させていただきたい(取材日:2022年9月15日。場所:シティライツ法律事務所会議室)。

 

第1部 司法試験合格者との飲み会企画とアソシエイトの採用選考基準

今年の司法試験の合格発表の日(9月6日)には、twitterで、受験生をご馳走とするとして、ダイレクトメッセージを募集されて話題になっていましたね。多数の応募があったのでしょうね。
初めてこういうことをやってみたのですが、それなりの数のご連絡をいただくことができました。そこで、今年の合格者何人ずつかをグルーピングして飲み会を設定しました。先日、第1弾の飲み会を終えたところです。
初めてこのような企画を開催された意図はどこにあったのでしょうか。事務所の採用選考を兼ねているわけではないのでしょうか。
事務所の採用とは関係ありません。私自身が、コロナ禍もあって、仕事を現状維持で満足してしまいかけているところ、新しいことに挑戦するのが億劫になっているところがありました。若い人達が、どういう志をもって弁護士業界に来ようとしているのか、どういうことに注目しているのかを知ることができたら、自分にとって良い刺激になるかも、という思いから企画しました。
参加者は、ロースクール卒もいれば、予備試験合格組もいる、という感じでしょうか。
混じっていると思うのですが、こちらからは経歴を求めていないので、合格者であることしか確認していません。
ロースクールの成績や予備試験の成績の提出を求めないならば、事務所の採用選考を兼ねていることもないですね。
今回の企画は、事務所の採用選考とは関係ありませんが、事務所でアソシエイトを採用する際にも、こちらから成績の提出を求めることもなければ、学歴を尋ねることもありません。どこのロースクールを卒業しているかも、司法試験に何回目で合格したのかも確認せずに採用を行っています。もっとも、まだ事務所に新人を採用して育てるだけの体制がないため、もともと新人は採用しておらず、経験弁護士しか採用したことはありませんが。
アソシエイトの採用では、学歴や成績で足切りをする、ということはないのですか。
どんなお仕事をされてきたのかは確認しますが、学歴は気にしません。毎年、そんなに大勢の応募があるわけでもありませんので、アソシエイトを採用したいという熱が高まった時に、twitter等で「誰かいませんか?」と問いかけて、数人からの連絡がある、という程度です。友達を探すのと同じ感覚です。
採用するかどうか、何を基準に判断されるのでしょうか。
仕事の適性があるかどうかでしょうね。「適性」と言ってしまうと、ちょっと違うかもしれませんが、うちの事務所で扱っている分野は限定的なので、うちで扱っている仕事をやりたいと思ってくれるかどうか。
知的財産の仕事が多いならば、大学での知的財産の科目の成績とか、司法試験の選択科目の成績とかも能力を測るための一つの指標になりうるかとも思いますが。
能力を測るのはなかなか難しいので、その分野にどういう興味を持っているのか、それにどのようなパッションを持っているのかを聞いています。知的財産といっても「特許訴訟をやりたい」と言われてしまうと、うちの事務所で専門的に扱っているわけではないので。もし、「ゲームが好き」と言われたら、そこのどういう法律問題に取り組んでいきたいかを尋ねていく、という感じです。パッションを持っている弁護士と一緒に仕事ができる方が楽しいですから。
学歴や司法試験の成績を見ない代わりに、筆記テストをするわけでもないのですか。
そういうやり方もあるのでしょうが、シティライツらしくはないと思っています。
とすれば、面接だけで決めるのでしょうか。
そうですね。3回くらいはお会いして、いろんな弁護士に会ってもらって、みんなから意見を聞いて決めています。2回、3回と会えば、付け焼き刃で志望動機を準備してきたような底が浅い応募かどうかはわかります。
応募者の興味は、パートナーの事件を手伝うことに対するものでしょうか。それとも、本人自身が将来、どのような分野で専門性を磨いていきたい、ということでしょうか。
採用されたアソシエイトは、当面、事務所の複数のパートナーから仕事をもらって、事件を手伝ってもらうことになります。パートナーが担当している事件が本人のやりたいことと重なっていて意欲的に仕事に取り組んでいくうちに、いずれはパートナーに昇進して、自分自身の看板を掲げて仕事を受けてくれるようになる、というのが一番いいと思っています。
いつまでもアソシエイトとして下請けしているだけでなく、ゆくゆくは自分を信頼してくれる依頼者を持てるようになることが弁護士業務の醍醐味のひとつでもありますよね。
ご本人がやりたいと思っている分野に役立つような事件を、私達パートナーが仕事として提供することができないんだったら、採用してもミスマッチになってしまうので。
今回、twitterで募集された飲み会企画には、シティライツへの就職を期待して応募してきた合格者もいるのではないでしょうか。
「新人を募集していますか?」と尋ねられることはありますが、残念ながら、今の自分のキャパシティ的に、新人を採用してしっかりと責任をもって面倒を見てあげることができないため、新人の入所はお断りしているのが現状です。
今回の企画に参加された合格者が、大手事務所でも、外資系事務所でも、中規模事務所でも、別の事務所に就職されて、数年間、弁護士経験を積まれた上で、改めてシティライツの中途採用に応募してくる、という将来シナリオもありそうですね。
それを期待して、飲み会では良い印象を残しておくように気を付けたいと思います(笑)。

 

第2部  SNSとプライベート

今回の司法試験合格者との企画もtwitterで募集されていましたが、伊藤先生のSNSでは、プライベートを豊かに過ごされている姿が発信されていますね。
SNS上では、「弁護士になっても儲からない」「仕事が辛いだけで面白くない」という意見をあまりにも多く目にします。でも、私は「いや、そんなことないだろう」「もっともっと楽しいしやりがいのある仕事だろ」と心の底から思っているので、敢えて、楽しいことを発信するように心がけています。
なるほど。伊藤先生のSNSを見て、「弁護士になっていい車に乗りたい!」という憧れを抱く学生が出て来そうですね。
名古屋にいる大学生はみんな車好きでした。私は、学生の頃から、ヨーロッパの車が好きで、車を乗り継いできて、やっと最近、好きな車を買っても許される立場になったかな、と思っています。
よくドライブをなされているのですか。
学生の頃は、意味なく、車で遠出していたのですが、そういう時間の使い方はできなくなってしまいますね。最近は、早朝に、ジョギングに行く感覚で、首都高をぐるっと回って、家族が起きる頃に家に戻ってくる、みたいなことを偶にする程度です。スピード狂ではないので、自分の判断能力を過信せず、事故や違反には気を付けながら。
スポーツカーがお好きなんですね。
はい、背の高い車は買ったことがないし、乗りたいとも思いません。今でも本当は2ドアのスポーツカーに乗りたいのですが、最近、手放して、今手元にあるのは、家族も乗れるタイプの車1台だけです。
駐車場の問題ですか。
乗る機会が少ない車のために駐車場を確保しておくのは東京では贅沢過ぎるので。他の事務所で仲の良い弁護士に、車好きの先生がいるのですが、彼は、箱根の別荘に何台も車を駐車させておいて、週末に別荘に行っては、その日の気分で乗りたい車に乗り換えて東京に戻ってくる、という生活をされているそうです。車好きの理想ですね。
伊藤先生は仕事をきっちりなされながらも、趣味をお持ちなのがカッコいいですね。
事務所のウェブサイトのプロフィールには「趣味はイタ車とジャズと将棋」と載っていますが、今でも、3つの趣味は変わりません。引退してからやりたいことがいっぱいある、というのはありがたいことですね。音楽は、もとはサックスを吹いていましたが、最近はピアノを練習しています。どれもレベルは低くて中途半端ですが、「それでもいいや」と思って続けています。
「将棋」に関しては、ご子息の匠さんの活躍が素晴らしいですね。
息子が生まれたのは、弁護士になる前のコンサルタント時代です。仕事が忙しくて家にも全然帰れない時期でしたが、学生になれば、少しは子供との時間も確保できるかと思って、法科大学院に進学しました。そして、司法試験を受けて、司法修習に行こうという時に、将棋を教えました。息子が5歳の時です。
伊藤先生が自ら教えられたのですか。
司法修習生の頃は、毎日、午後6時頃に帰宅できたので、息子と将棋を指していました。私自身が特に習ったことも、将棋部に入ったこともなかったので、すぐに教えることがなくなってしまいました。調べてみたら、近所にあるのが名門の将棋道場でした。自分も息子と一緒に強くなっていくつもりで道場に通わせたところ、息子だけがどんどん成長してしまって、1年も経たないうちに息子から相手にしてもらえなくなっていました。
子供の成長はうれしいことでもありますよね。
「将棋の才能は遺伝じゃない」ということがよくわかりました。息子が強くなっていくのに自分はすっかり置いていかれました(苦笑)。
匠くんが安定したサラリーマンではなく、プロフェッショナルの道を進まれることは応援されていたのですか。
親としては、プロなんて1ミリも考えていませんでしたので、小学校に入った息子が「プロ棋士になりたい」と言い出した頃から、ずっと不安でした。まず、「そもそもプロになれるのか?」という心配がありますが、仮にプロになれたとしても、AIがプロ棋士よりも強くなっていることが報道され始めた頃でしたので、「将棋業界自体がつまらなくなっちゃうんじゃないか? 先細りで未来のない業界ではないか?」ということも心配でした。
大学に行かせたいという思いもあったのですか。
でも、全然勉強しませんでしたね(笑)。そうこうしているうちに、息子もどんどん大きくなっていくので、もはや親が本人のやりたいことを止められる年齢ではなくなってしまいました。
業界的には、藤井聡太さんの活躍で盛り上がっていますね。
結果論として、プロになれて、まずは順調な滑り出しをすることができました。何十年に1人出るかどうかというレベルの天才である藤井さんに食らいついて行こうという位置で戦わせていただけるだけでも、ありがたいことだと思っています。
将棋業界も、ひとりのヒーローの出現でこれだけ盛り上がるのですから、弁護士業界もまだまだ人気が復活するチャンスはありますよね。
将棋は、今や完全に「AIの方が人間よりも強い」と知られている業界なのに、それにもかかわらず、プロになりたいという子供が増えているそうです。弁護士という職業に対しても、もっと面白そうと思って挑戦してくれる若者が増えてほしいです。
それで、SNSでもポジティブな発信を心がけておられるのですね。
最近の、殺伐としたtwitter空間には一定の距離を置くようにしています。
伊藤先生ご自身は、炎上したり、SNSで嫌な思いをされたことはないのでしょうか。
私は大したことを呟かないので、炎上したことはなく、「もうアカウントを消そう」とか「発信者情報開示をしてやろう」と思った経験もありません。
SNSを続けることに実務上のメリットもあるのでしょうか。
Twitterを続けていたおかげで、最新の情報を得られたり、新しく人と知り合うことができたりしたのはメリットだと思っています。
情報とは法律関係ですか。
はい、自分で法律雑誌を読んだり、裁判所のウェブサイトをチェックしたりもしていますが、twitterでフォローしている方から、政府の委員会や研究会でこういう報告書が出ましたとか、こういう事件の判決が出ました、と教えてもらえるのはとても助かります。同時にノイズが多いことも事実なので、トータルでは、くだらない記事に時間を奪われている方が勝ってしまっているのかもしれませんが(苦笑)。
人脈形成にも役に立つと思いますか。
いま、シティライツ法律事務所を一緒にやっている、水野と平林に出会ったのも、10年くらい前にtwitter経由でした。それ以外にも、この10年間、仕事でもプライベートでもtwitter経由でご縁をいただいています。

 

第3部  司法試験と就活

私は、現在、一橋大学法科大学院の教育課程連携協議会で、学外有識者の構成員を務めさせていただいていておりますが、今年の議論のテーマには、やはり未修者教育が選ばれていました。司法試験において、一橋大学のロースクールの卒業生が高い合格率を維持されているのは、伊藤先生が作られたティーチング・アシスタント(TA)制度がうまく機能しているからだ、という評判を聞きました。

続きはこちらから(フリー会員の方もご覧になれます)

過去のインタビューはこちらから

 

(いとう・まさひろ)

1996年名古屋大学大学院工学研究科情報工学専攻修士課程修了。アクセンチュア株式会社等において基幹系情報システムの企画、設計、開発、運用に従事。2007年一橋大学法科大学院修了。同年司法試験合格。2008年弁護士登録。シティライツ法律事務所パートナー。主に情報システム、インターネットビジネスに関わる契約、紛争や、ソフトウェア、ITビジネス関連の特許、著作権等の知的財産権に関する問題を取り扱っている。経済産業省「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」(2013年〜2020年)、独立行政法人情報処理推進機構・経済産業省「情報システム・モデル取引・契約書」第二版の改訂作業メンバー、ソフトウェア紛争解決センター仲裁人候補者(2014年〜現在)(一般財団法人ソフトウェア情報センター)。
著書:『新版システム開発紛争ハンドブック――発注から運用までの実務対応』(第一法規、2018)(共著)、「民法改正を踏まえた『情報システム・モデル取引・契約書』の見直しについて」NBL1174号(2020)ほか多数。

 

(にしだ・あきら)

✉ akira@nishida.me

1972年東京生まれ。1991年東京都立西高等学校卒業・早稲田大学法学部入学、1994年司法試験合格、1995年東京大学大学院法学政治学研究科修士課程(研究者養成コース)入学、1997年同修士課程修了・司法研修所入所(第51期)。
1999年長島・大野法律事務所(現在の長島・大野・常松法律事務所)入所、2002年経済産業省(経済産業政策局産業組織課 課長補佐)へ出向、2004年日本銀行(金融市場局・決済機構局 法務主幹)へ出向。
2006年長島・大野・常松法律事務所を退所し、西田法律事務所を設立、2007年有料職業紹介事業の許可を受け、西田法務研究所を設立。現在西田法律事務所・西田法務研究所代表。
著書:『新・弁護士の就職と転職――キャリアガイダンス72講』(商事法務、2020)、『弁護士の就職と転職』(商事法務、2007)




メールで情報をお届けします
(毎週火曜日・金曜日)