◆SH4123◆新規分野で企業から信頼されている司法修習60期代のリーガルアドバイザーは誰か? 第1回 皆川克正弁護士インタビュー 西田章(2022/09/06)

新規分野で企業から信頼されている司法修習60期代のリーガルアドバイザーは誰か?
第1回 皆川克正弁護士インタビュー

Kollectパートナーズ法律事務所
弁護士 皆 川 克 正

聞き手 西 田   章

 

新規分野で企業から信頼されている司法修習60期代のリーガルアドバイザーは誰か?

 今年も間もなく司法試験の合格発表が行われます。既に内定先が決まっている合格者は、実務修習地の希望を考えるなど司法修習の準備が最大の関心事になっていきそうですが、これから就活を始める合格者の中には、「企業法務系弁護士になりたいのに就活に出遅れてしまった」「大手の法律事務所はもう採用活動を終えてしまっている」という後悔を感じている方もいるでしょう。でも、これからでも良い事務所と巡り合うチャンスはあるはずです。大手でなくとも、中小の事務所でも、新興の事務所でも、優れた企業法務系弁護士が活躍しています。より大胆に表現すれば、「大手ではないが故に、早期に独り立ちして、新規の分野でクライアント企業からの信頼を勝ち取るチャンスに恵まれる」という側面すら存在すると言えると思います。

 では、中小の事務所、新興の事務所への就職を考えた時に、どこから手を付けたらよいでしょうか。どこが企業から信頼されている事務所なのか。弁護士仲間からも尊敬されるような弁護士が活躍している事務所はどこにあるのか。大手事務所に比べると、情報が圧倒的に不足しています。2018年5月に連載した「一流企業が真に信頼する法律事務所はどこか?」も、それを改善するための取組みでしたが、情報がもっと提供されれば、司法試験合格者にとって、目指すべきロールモデルとなる弁護士がいる新しい事務所と巡り会う可能性を広げていくこともできるでしょう。

 ロールモデルを何年くらい上の先輩に求めてみるのが適切なのか。それには諸説がありますが、私は、「10年先輩説」をひとつの指標に置いています(これには、私が、1995年4月に大学院修士課程に進学した際に、民事訴訟法の高橋宏志東京大学名誉教授よりお伺いした話が影響を及ぼしています。高橋教授が、20年以上歳の離れた助手1年目と修士1年生に対して語った「最先端の議論を学びたければ、10年先輩である、松下淳一さんや山本和彦さん(当時助教授)の世代から学びなさい」という言葉が頭に残っているからです。)。

 そこで、本シリーズでは、(「一流企業が真に信頼する法律事務所はどこか?」(2018年5月)において、既に評判を確立していた中堅事務所の司法修習50期代の採用担当パートナーを対象としてインタビューを行ったのとは異なり)司法修習60期代を中心に、新規の分野に関するリーガルアドバイザーとして、クライアント企業からの信頼を獲得されている弁護士を厳選して、お話をお伺いしていきたいと思います。実務で活躍されている新進気鋭の弁護士たちが、どのようなスタンスで弁護士業務に取り組み、どのような理念に基づいて事務所経営に参画しているのかについての物語が、今年の司法試験合格者を含め、司法修習70期代のキャリア選択の参考になることを期待しています。

 

2022年9月6日

西田 章

 

 

第1回 皆川克正弁護士インタビュー

 今年の6月16日に、東京地方裁判所において、韓国料理・焼肉KollaBoを運営する株式会社韓流村が、株式会社カカクコムに対して、同社が運営するレストラン検索・予約サイト「食べログ」においてアルゴリズムの変更により来店者数の減少により生じた損害の賠償を求める請求が一部認められる判決が言い渡されました。被告(カカクコム)は、同判決が不当であるとして、その是正を求めるために控訴しています。

 この訴訟(「食べログ」訴訟)の原告(韓流村)の主任代理人を務める皆川克正弁護士は、社会人経験を持ってロースクールに進学した1期生(司法修習新60期)で、今年1月にKollectパートナーズ法律事務所を創設したファウンディングパートナーの一人です。このように社会的に注目を集める第一審判決を導くに至った、ロースクール1期生である皆川弁護士のキャリアについて深掘りしてお聞きしてみたいと願い、インタビュー取材を申し込んだところ、皆川弁護士からは「『食べログ』訴訟の判決については、閲覧制限が申し立てられており、その範囲が審議されている途中であるため、判決内容についてのコメントは控えさせていただきたい」との条件の下に取材に応じていただくことができました。本稿では、そのインタビューの内容を、「第1 『食べログ』訴訟の手続面について」、「第2 皆川弁護士の経歴について」、「第3 Kollectパートナーズ法律事務所の設立と求める人材」の項目に分けて、以下、紹介させていただきます(取材日:2022年7月6日。場所:Kollectパートナーズ法律事務所会議室)。

 

第1 「食べログ」訴訟の手続面について

お忙しいところ、インタビューに応じていただきまして、どうもありがとうございます。本音を申し上げると、「食べログ」訴訟に関しては、判決の詳細をお聞きしたいところではあるのですが、本日は、訴訟については、手続的な点についてだけ簡単に確認させてください。
ご配慮ありがとうございます。
商事法務ポータルでは、東京地裁・高裁の開廷情報を掲載しています。2020年9月22日に東京地裁の民事44部で、「『食べログ』によるチェーン店差別に関する損害賠償請求」という事件名の期日が記載されています。このような事件名を付した意図はどこにあったのでしょうか。
世の中に広くこの問題を知ってもらいたいという気持ちでこのような事件名を付しています。第1回期日の後には記者会見も行いました。
不勉強で恐縮ですが、当時は、この訴訟のことを存じ上げませんでした。
それも仕方ないと思います。実は、第1回期日の日に、有名芸能事務所に所属していたタレントの交通事故があったために、本件訴訟の記者会見を報道していただく予定のニュース番組が急遽、タレントの事故に差し替えられてしまったりして、当時のメディアでの扱われ方は小さなものでした。
今回の判決については、テレビのニュース番組でも全国紙でも取り上げられていました。ところで、東京地方裁判所は、「食べログ」運営会社側への損害賠償請求を一部認めたものの、アルゴリズムの差止請求を棄却したと報じられています。「食べログ被害者の会」のHPに掲載されている訴状では、損害賠償のみが請求されており、差止請求は記載されていません。差止請求は、後から請求を追加された、ということなのでしょうか。この点と、先生が判決後の記者会見で「韓流村の主張がほぼ全面的に認められた」というコメントとの関係を教えていただけないでしょうか。
ご指摘のとおり、当初の請求では、損害賠償のみを求めて、訴訟は民事の通常部に係属しました。これは、原告の訴訟提起に伴う経済的負担を抑えるため、具体的に言えば、印紙代を安く抑えるために選んだ手法でした。しかし、通常部において、数回の期日を重ねていくうちに、原告側としては「通常部では、普段から、契約法理に基づく判断に慣れているが故に、原告が本件で問題提起している独禁法上の論点を十分に審理していただくことが難しいかもしれない」という不安が芽生えてきました。そのため、依頼者と相談の上で、独禁法上の差止請求を追加致しました。
差止請求を追加したのは、差止請求そのものを認容してもらうためだけでなく、裁判所に「本件は独禁法上の論点が主たる争点である事件であること」を認識してもらうことに主たる目的があったわけですね。それが故に、判決後の記者会見でも「ほぼ全面的に認められた」というご発言があったわけですね。
もちろん、原告としては、差止請求を認めてもらいたいと考えておりますので、第一審の判決に100%満足しているわけではありません。だからこそ、原告側からも第一審判決には控訴しています。ただ、差止請求を追加したことにより、本件は、通常部から商事部に移送されて、独禁法に詳しい裁判長の訴訟指揮の下で審理していただくことができました。そして、独禁法79条(差止請求に関する訴えについての委員会への通知等)に基づいて、本件に関して、公正取引委員会の意見を出してもらうこともできました。
そこまで狙って差止請求を行われたのでしょうか。
はい、そこを狙って差止請求を行いました。ただ、独禁法79条は「裁判所は、前項の訴えが提起されたときは、公正取引委員会に対し、当該事件に関するこの法律の適用その他の必要な事項について、意見を求めることができる。」と規定しているだけなので、裁判所が意見を求めてくれるかどうかは不確実なところがありました。そのため、実際に裁判所が公取委に意見を求めてくれた時には、当職らの意図していた通りの展開だったので、ホッとしました。
ロジックについては、被告側と意見が分かれるところだと思いますが、原告側にとって、本件第一審における立証上の課題は何だったのでしょうか。
やはり、過去におけるチェーン店の評点の推移をどう収集して証拠化するか、という点ですね。
それは、原告のチェーン店の評点が、2019年5月21日頃に下がったことですか。
いえ、原告のチェーン店の評点の推移は、原告であるKollaBoを運営する韓流村の社長が問題意識を持っていたので、すべて保管してくれていました。原告の請求は「原告だけでなく、チェーン店一般をターゲットにしたディスカウントが行われた。」という仮説に基づくものです。その仮説を立証するためには、原告以外の他の飲食店チェーン店についても、2019年5月21日頃に、評点が下がっていることを証拠に基づいて明らかにする必要がありました。
それをどのように克服されたのでしょうか。
「Internet Archive」というウェブサイトの「Wayback Machine」というサービスを利用しました。非営利団体「インターネットアーカイブ」が、インターネット上のウェブページをアーカイブしているので、このサービスを使えば、現在は閲覧不能の過去のサイトでも、アーカイブされた過去の日時におけるウェブページの表示を確認することができます。
Internet Archiveのサービスを利用して取得した情報にも信用性が認められているのでしょうか。
はい、知財高裁を含めて複数の裁判例で、Internet Archiveは信用性あるものとして認められています(例えば、知財高裁令和1・10・24等)。
先生は知財にも詳しいのですね。
クライアントから知財についての相談もよく受けていますが、今回の訴訟の証拠化については、桃尾・松尾・難波法律事務所のアイディアと尽力が大きく貢献してくれました。
松尾剛行先生とそのチームですね。技術にお詳しいため、商事法務ポータルでも「リーガルテックと弁護士法72条」の連載をご執筆いただいています。本件は、皆川先生のクライアントから受任した事件について、桃尾・松尾・難波法律事務所にもお声がけして代理人チームを組まれたのでしょうか。
そうです。松尾弁護士と外部の研究会で知り合ったのはもう10年近く前のことになりますが、その後、共同して訴訟を受任したことが何件もあります。今回も、私が、韓流村の社長からご相談をいただいて「これは提訴を検討する価値があるのではないか」と代理人の受任を検討し始めた時に、「桃尾・松尾・難波法律事務所の知見も借りたい」と願って声をかけたところ、快く引き受けてくれました。
両先生には「独禁法の専門家」というイメージを抱いておりませんでしたので、今回の訴訟代理人を先生方が務められておられると知って、少し驚きました。
私自身、弁護士業務では、独禁法に関しては、予防法務的に、契約書のレビューに際して条項の修正等をアドバイスすることがメインで、訴訟代理人を務めたことはありませんでした。
今回は、勝てる見込みがあって訴訟代理人を受任されたのでしょうか。

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(みながわ・かつまさ)

1996年早稲田大学法学部卒業、1998年同大学院法学研究科修士課程修了後、三菱商事株式会社に入社。法務部にて国内外の新規事業投資案件、M&A案件、コンプライアンス関連業務に従事。2006年成蹊大学法科大学院(社会人コース・特別奨学生)修了後、2007年弁護士登録(第一東京弁護士会)。
英国系法律事務所勤務等を経て、2010年に東京都渋谷区恵比寿で皆川恵比寿法律事務所を開業。2022年1月に東京都渋谷区代々木でKollectパートナーズ法律事務所を共同設立。現在、株式会社大塚商会及び株式会社ユビキタスAIの社外監査役。中央職業能力開発協会主催「ビジネス・キャリア検定試験(取引法務)」試験委員。

 

(にしだ・あきら)

✉ akira@nishida.me

1972年東京生まれ。1991年東京都立西高等学校卒業・早稲田大学法学部入学、1994年司法試験合格、1995年東京大学大学院法学政治学研究科修士課程(研究者養成コース)入学、1997年同修士課程修了・司法研修所入所(第51期)。
1999年長島・大野法律事務所(現在の長島・大野・常松法律事務所)入所、2002年経済産業省(経済産業政策局産業組織課 課長補佐)へ出向、2004年日本銀行(金融市場局・決済機構局 法務主幹)へ出向。
2006年長島・大野・常松法律事務所を退所し、西田法律事務所を設立、2007年有料職業紹介事業の許可を受け、西田法務研究所を設立。現在西田法律事務所・西田法務研究所代表。
著書:『新・弁護士の就職と転職――キャリアガイダンス72講』(商事法務、2020)、『弁護士の就職と転職』(商事法務、2007)




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