◆SH3981◆国際契約法務の要点――FIDICを題材として 第53回 第11章・紛争の予防及び解決(2)――当事者による相手方当事者への請求(2) 大本俊彦/関戸 麦/高橋茜莉(2022/04/21)

国際契約法務の要点――FIDICを題材として

第53回 第11章・紛争の予防及び解決(2)――当事者による相手方当事者への請求(2)

京都大学特命教授 大 本 俊 彦

森・濱田松本法律事務所     
弁護士 関 戸   麦

弁護士 高 橋 茜 莉

 

第53回 第11章・紛争の予防及び解決(2)――当事者による相手方当事者への請求(2)

4 金銭的請求・時間的請求を行うための手続

⑴ 概要

 20.2項の請求手続は、複数の段階に分かれ、それぞれに期間制限や派生手続が設定されているなど、非常に複雑な仕組みとなっている。大きな流れとしては、①請求通知の送付、②これに対する回答の送付、③詳細な請求書面の提出、④Engineer(Silver BookではEmployer’s Representative)による合意形成または決定と進むことが想定されており、かつ、これらの手順を全て終えるには5ヵ月以上かかる可能性も想定されている。個々の手順に関するFIDICの定めは、要約すれば次のとおりである。

⑵ 請求通知(20.2.1項)

 自らに請求権があると主張する当事者(以下、「請求当事者」)は、Engineer(Silver Bookでは相手方当事者)に対し、請求の根拠となる事象を認識した(または認識すべきであった)後、可能な限り速やかに、かつ遅くとも28日以内に、当該事象を記載した通知を送付しなければならない。

 この請求通知が28日の期限内に送付されなかった場合には、当該請求はできなくなり、相手方当事者は請求の根拠として主張された事象に関し、なんらの責任も負わないこととなる。これは、請求に関する期間制限の定めであり、いわゆる「time-bar条項」と呼ばれるものの一つである。後述のとおり、20.2項には、他にも複数のtime-bar条項が存在する。

⑶ 請求通知への回答(20.2.2項)

 請求通知を受けたEngineer(Silver Bookでは相手方当事者)は、当該通知が28日の期限内に送付されていない(すなわち請求はtime-barにかかる)と考えた場合には、通知の受領後14日以内に、理由を付して、その旨を請求当事者に通知する必要がある。

 14日の期限内にtime-barの通知がなかった場合には、請求通知は有効とみなされる。したがって、仮に客観的に見れば28日の期限が過ぎていた場合でも、Engineerまたは当事者が何らかの理由で14日以内にtime-barの通知を出さなければ、請求が復活すると解釈する余地がある。

 Red BookとYellow Bookにおいては、Engineerが14日以内にtime-barの通知を出さなかった場合に、異議を唱える機会が相手方当事者に与えられている。すなわち、有効とみなされた請求通知に異議のある相手方当事者は、Engineerに対し、通知をもって、異議の内容を説明することとされている。この異議は、のちにEngineerが請求についての合意形成または決定を行う段階で、合わせて検討される。Silver Bookでは、time-barの通知を出す主体は相手方当事者であり、出さなかった場合の帰結(=請求通知のみなし有効)も相手方当事者が甘受してしかるべきであるため、このような異議を唱える機会は与えられていない。

 一方、14日の期限内にtime-barの通知が出された場合で、請求当事者がこれに異議があるとき、または期限に遅れたことを正当化する事由があると考えたときは、のちに提出する詳細な請求書面において、自らのポジションを詳しく説明する必要がある。

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(おおもと・としひこ)

国立大学法人京都大学経営管理大学院 特命教授
昭和49年(1974年)京都大学工学研究科土木工学専攻(修士課程)を修了後、大成建設(株)に入社。主に国際工事を担当し、工事管理を経て契約管理・紛争解決にかかわる。昭和64年~平成3年(1989年~1991年)、ロンドン大学で「建設法と仲裁」の修士課程を修める。その後英国仲裁人協会より公認仲裁士(フェロー:FCIArb)の資格を得る。平成12年(2000年)、大成建設を退社し、「大本俊彦 建設プロジェクト・コンサルタント」を開業。平成14年(2002年)、京都大学博士(工学)を取得。平成18年4月(2006年4月)、京都大学経営管理大学院教授となる。FIDIC プレジデント・リストに掲載されているアジアで唯一のディスピュート・ボード(DB)アジュディケーターとして数々のプロジェクトのDBメンバーを務めている。また、英国土木学会(ICE)のフェロー・メンバーでもある。そのほか様々な国際仲裁センターの仲裁人パネリストとして仲裁人を務め、シンガポール調停センター、京都国際調停センターの調停人パネリストである。

 

(せきど・むぎ)

森・濱田松本法律事務所パートナー弁護士
訴訟、仲裁等の紛争解決の分野において、Chambers、Legal 500等の受賞歴多数。『わかりやすい国際仲裁の実務』(商事法務、2019年)、「パネルディスカッション 争点整理は、口頭議論で活性化するか」(判例タイムズNo.1453、2018年)、『わかりやすい米国民事訴訟の実務』(商事法務、2018年)等、国内外の紛争解決に関する執筆、講演歴多数。
1996年東京大学法学部卒業、 1998年弁護士登録(第二東京弁護士会)、森綜合法律事務所(現在森・濱田松本法律事務所)入所、2004年シカゴ大学ロースクール(LL.M)卒業、 ヒューストン市Fulbright & Jaworski法律事務所にて執務、2005年ニュ-ヨーク州弁護士登録、2007年東京地方裁判所民事訴訟の運営に関する懇談会委員(~2019年)、2020年一般社団法人日本国際紛争解決センター アドバイザリーボード委員(~現在)、2021年日本商事仲裁協会・Japan Commercial Arbitration Journal 編集委員会委員(~現在)等。

 

(たかはし・せり)

森・濱田松本法律事務所外国弁護士
国際仲裁をはじめとした国際紛争解決を専門とする。大手外資系法律事務所の東京、ドバイ及び香港オフィスでの勤務経験を有し、建設紛争、合弁事業に関する紛争等、様々な分野における国際商事仲裁や専門家による紛争解決手続などに携わってきた。2020年より、森・濱田松本法律事務所の国際紛争解決チームに属し、シンガポールオフィスにおいて勤務中。
2008年東京大学法学部卒業、2010年東京大学法科大学院卒業、2011年弁護士登録(第二東京弁護士会)、2017年コロンビア大学ロースクール(LL.M)卒業、2018年ニューヨーク州弁護士登録。

 




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