◆SH3949◆契約の終了 第20回 使用貸借契約の諾成化と借用物受取前の貸主の解除権(下) 有賀恵美子(2022/03/23)

契約の終了
第20回 使用貸借契約の諾成化と借用物受取前の貸主の解除権(下)

明治大学法学部准教授

有 賀 恵美子

 

承前

Ⅳ 検討

1 要物契約が諾成化されたことに伴い新設された解除権と無償契約の多様性

 ⑴ 改正前民法では要物契約とされていた使用貸借と寄託について、改正法はこれらを諾成契約とし、無償であっても書面によれば有償契約と同等の法的拘束力を認める一方、書面によらない使用貸借と無償寄託については、目的物受取前の解除権を認めた。その理由は前述したとおり、使用貸借については、無償の合意は軽率に行われるものも少なくないとして贈与の550条を引き合いに出し、貸主保護の見地から軽率な使用貸借を予防し、貸主の意思の明確を期す必要があるからとしている。無償寄託の場合は、好意的契約[29]であることから、合意のみで受寄者に対して寄託物を引き受ける義務を負わせることは適当ではないとし、さらに使用貸借との整合性から同様の解除権を認めるに至ったとされている[30]

 このように、改正法は無償性という共通項に着目し、贈与に関する550条の規律を使用貸借については直接的に、無償寄託についても間接的に及ぼそうとしている。しかし、既に審議会でも共通理解となっていたが、市場における経済的取引という意味で広く共通性を有する有償契約とは異なり、無償契約について無償という共通項で括れる部分はそれほど多くはない。無償契約の拘束力の問題にしても、当事者の意思内容は様々でありうるのだから、その契約類型や背景を考慮することなしに無償というだけで一律にその拘束力を弱めようとすることは説得力を欠く。本稿で検討している目的物受取前の解除権も、いったん有効に成立した契約からの解放がどのような場合に認められるかという意味で無償契約の拘束力に属する問題である。したがって、その解除権が認められる範囲を考察するにあたっては、贈与に関する550条を無償契約一般に通用する典型的な規律と捉えてその内容や解釈論を他の無償契約に当然に及ぼしていくのではなく、当該契約の背景と当事者意思の内容を精査したうえで決することが必要である。

 ⑵ それでは、使用貸借契約が締結される背景と当事者意思とはどのようなものであるのか。改正法が使用貸借を諾成契約に改めたのは、使用貸借が今日では親族間などの情義的な関係で用いられるだけでなく、ビジネスでも多用されていることを重視してのことであった。つまり、改正前民法下では使用貸借のモデルケースとして情義型が想定されていたのに対し、改正法はビジネス型を重視していると言える。情義型の使用貸借の場合には解除の余地を広く残す方向が望まれるのに対し、ビジネス型の場合にはできるだけ自由な解除を制限したいという要求が強いものと考えられる。それにもかかわらず、これらをまとめて贈与の550条に倣い「軽率な使用貸借の予防」のために解除権を認めたと説明することには無理があろう。すなわち、前述した贈与契約における類型に照らして言えば、情義型の使用貸借は、①徳義上の合意か、②自然債務の発生にとどまる場合が多いのに対し、ビジネス型の使用貸借は、③完全な契約として法的拘束力を認めるべき場合がほとんどなのではないか。

 もっとも、実際に紛争が多いのは、従来から使用貸借の典型例と考えられてきた情義的な人的関係に基づく不動産使用貸借である[31]。このことから、森山見解は、法制審議会における議論について、使用貸借としては特殊な取引的な事例をもって要物性の不合理さを説明したものであるとして、その不十分さを指摘している[32]。それにもかかわらず、使用貸借契約の諾成化が是認され得るのは、諾成化と併せて593条の2で貸主の解除権が新たに認められたからである。この解除権が認められる範囲は、同条にいう「書面」性の判断に左右されるところ、情義型の使用貸借とビジネス型の使用貸借とでは、後述するようにその判断に差を設けることが考えられてもよいのではないだろうか。

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