◆SH3603◆国際契約法務の要点――FIDICを題材として 第8回 第1章・幹となる権利義務(1)――工事等の内容その6 大本俊彦/関戸 麦/高橋茜莉(2021/04/28)

国際契約法務の要点――FIDICを題材として

第8回 第1章・幹となる権利義務(1)――工事等の内容その6

京都大学特命教授 大 本 俊 彦

森・濱田松本法律事務所     
弁護士 関 戸   麦

弁護士 高 橋 茜 莉

 

第8回 第1章・幹となる権利義務(1)――工事等の内容その6

6 完全合意条項

 a. 概要

 完全合意条項は、英語ではEntire Agreement Clauseと呼ばれ、国際的な契約でしばしば見られるものである。様々なバリエーションがあるが、共通項としては、契約当事者間の法律関係を明確化し、無用な紛争を回避することが目的であることと、そのために、当該法律関係を契約書においてできる限り定め、その内容確定のために、契約書以外の書類や事実関係はできる限り参照しないようにすることを企図していることが指摘できる。

 このように合理的な目的のある条項であり、有益なことが多いと考えられるが、以下のとおり、法的な効果が複数あるため、どの効果を求めるかを明確に意識しながら、完全合意条項を定めるべきである。

 

 b. 事前の合意に基づく契約条項の修正ないし変更を排除すること

 これは、事前の合意を理由として、契約書の文言に反する解釈を許さないという定めである。たとえば、契約書の作成前に別途異なる合意内容で書面を作成しており、その書面が正しく、契約書の内容が誤りであると主張しても、その主張は排除されることになる。

 契約書の文言に安定性を持たせる観点から、基本的に望ましい定めといえるものの、この定めがないとしても、契約書の文言は、特に企業間取引においては、基本的に尊重される。したがって、実際にこの定めが意味を持つ場面は、必ずしも多くないと考えられる。

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(おおもと・としひこ)

国立大学法人京都大学経営管理大学院 特命教授
昭和49年(1974年)京都大学工学研究科土木工学専攻(修士課程)を修了後、大成建設(株)に入社。主に国際工事を担当し、工事管理を経て契約管理・紛争解決にかかわる。昭和64年~平成3年(1989年~1991年)、ロンドン大学で「建設法と仲裁」の修士課程を修める。その後英国仲裁人協会より公認仲裁士(フェロー:FCIArb)の資格を得る。平成12年(2000年)、大成建設を退社し、「大本俊彦 建設プロジェクト・コンサルタント」を開業。平成14年(2002年)、京都大学博士(工学)を取得。平成18年4月(2006年4月)、京都大学経営管理大学院教授となる。FIDIC プレジデント・リストに掲載されているアジアで唯一のディスピュート・ボード(DB)アジュディケーターとして数々のプロジェクトのDBメンバーを務めている。また、英国土木学会(ICE)のフェロー・メンバーでもある。そのほか様々な国際仲裁センターの仲裁人パネリストとして仲裁人を務め、シンガポール調停センター、京都国際調停センターの調停人パネリストである。

 

(せきど・むぎ)

森・濱田松本法律事務所パートナー弁護士
訴訟、仲裁等の紛争解決の分野において、Chambers、Legal 500等の受賞歴多数。『わかりやすい国際仲裁の実務』(商事法務、2019年)、「パネルディスカッション 争点整理は、口頭議論で活性化するか」(判例タイムズNo.1453、2018年)、『わかりやすい米国民事訴訟の実務』(商事法務、2018年)等、国内外の紛争解決に関する執筆、講演歴多数。
1996年東京大学法学部卒業、 1998年弁護士登録(第二東京弁護士会)、森綜合法律事務所(現在森・濱田松本法律事務所)入所、2004年シカゴ大学ロースクール(LL.M)卒業、 ヒューストン市Fulbright & Jaworski法律事務所にて執務、2005年ニュ-ヨーク州弁護士登録、2007年東京地方裁判所民事訴訟の運営に関する懇談会委員(~2019年)、2020年一般社団法人日本国際紛争解決センター アドバイザリーボード委員(~現在)、2021年日本商事仲裁協会・Japan Commercial Arbitration Journal 編集委員会委員(~現在)等。

 

(たかはし・せり)

森・濱田松本法律事務所外国弁護士
国際仲裁をはじめとした国際紛争解決を専門とする。大手外資系法律事務所の東京、ドバイ及び香港オフィスでの勤務経験を有し、建設紛争、合弁事業に関する紛争等、様々な分野における国際商事仲裁や専門家による紛争解決手続などに携わってきた。2020年より、森・濱田松本法律事務所の国際紛争解決チームに属し、シンガポールオフィスにおいて勤務中。
2008年東京大学法学部卒業、2010年東京大学法科大学院卒業、2011年弁護士登録(第二東京弁護士会)、2017年コロンビア大学ロースクール(LL.M)卒業、2018年ニューヨーク州弁護士登録。