◆SH3538◆国際契約法務の要点――FIDICを題材として 第2回 序章(2)――検討の視座 大本俊彦/関戸 麦/高橋茜莉(2021/03/18)

国際契約法務の要点――FIDICを題材として

第2回 序章(2)――検討の視座

京都大学特命教授 大 本 俊 彦

森・濱田松本法律事務所     
弁護士 関 戸   麦

弁護士 高 橋 茜 莉

 

第2回 序章(2)――検討の視座

1 実体規定と手続規定

 前回述べたとおり、法的な思考の枠組みは、それ程多くはない重要な視点から成り立っている。その一つが、「実体」規定と、「手続」規定とを区分するという視点である。例えば、日本の法律において、民法は「実体」規定を中心としており、民事訴訟法は「手続」規定を中心としている。

 ここでいう「実体」規定というのは、当事者の権利義務関係を定めるものであり、訴訟や仲裁における請求は、この「実体」規定を根拠として提起される。たとえば、金銭を貸せば、貸主は借主に対して、金銭を返すことを求める債権(権利)を有することになり、裏を返せば、借主は貸し主に対して、金銭を返す債務(義務)を負うことになる。貸金返還請求訴訟は、貸主が、この債権に基づき請求するものである。

 これに対して、「手続」規定とは、当事者の権利義務関係を実現するための手続について定めるものである。その代表例が訴訟手続について定める、上記の民事訴訟法の規定である。

 両者の規定は、機能が異なるため、これを区別する視点は有益である。

 契約においては一般に、「実体」規定が定められることの方が多いものの、複雑な契約になると「手続」規定が増える傾向にあるというのが、筆者らの認識である。FIDICにおいては、「手続」規定がかなり多く定められており、これらと、「実体」規定とを区別することが、有益である。

 ただし、FIDICには、この区分が容易ではない規定も含まれている。法律には、「会社法」のように、組織のあり方を定めるものがあるが、FIDICにも、建設工事をどのような体制で進めるかを定める規定がある。「The Employer」「The Engineer」「The Contractor」の章は、このような体制に関する規定を多く含むものである。

 

2 権利義務関係の整理

 本連載は、「実体」規定から始めるが、そこでは、権利と、これに対応する義務が定められている。何が問題になる権利ないし義務であるかを意識することは、当たり前のことではあるが、法務に携わる上で重要である。

 また、権利義務は、誰と誰との間の権利義務であるか、換言すれば、その主体を明確にする必要がある。契約によって定められる権利義務であれば、通常は契約当事者間の権利義務である。ただし、建設・インフラ工事契約であれば、多数の関係者のもとで、多数の契約が交わされることになる。その結果、権利義務関係が多数の関係者間において複雑に成立することになり、権利義務関係を整理する上で、その主体を明確にすることは重要である。

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(おおもと・としひこ)

国立大学法人京都大学経営管理大学院 特命教授
昭和49年(1974年)京都大学工学研究科土木工学専攻(修士課程)を修了後、大成建設(株)に入社。主に国際工事を担当し、工事管理を経て契約管理・紛争解決にかかわる。昭和64年~平成3年(1989年~1991年)、ロンドン大学で「建設法と仲裁」の修士課程を修める。その後英国仲裁人協会より公認仲裁士(フェロー:FCIArb)の資格を得る。平成12年(2000年)、大成建設を退社し、「大本俊彦 建設プロジェクト・コンサルタント」を開業。平成14年(2002年)、京都大学博士(工学)を取得。平成18年4月(2006年4月)、京都大学経営管理大学院教授となる。FIDIC プレジデント・リストに掲載されているアジアで唯一のディスピュート・ボード(DB)アジュディケーターとして数々のプロジェクトのDBメンバーを務めている。また、英国土木学会(ICE)のフェロー・メンバーでもある。そのほか様々な国際仲裁センターの仲裁人パネリストとして仲裁人を務め、シンガポール調停センター、京都国際調停センターの調停人パネリストである。

 

(せきど・むぎ)

森・濱田松本法律事務所パートナー弁護士
訴訟、仲裁等の紛争解決の分野において、Chambers、Legal 500等の受賞歴多数。『わかりやすい国際仲裁の実務』(商事法務、2019年)、「パネルディスカッション 争点整理は、口頭議論で活性化するか」(判例タイムズNo.1453、2018年)、『わかりやすい米国民事訴訟の実務』(商事法務、2018年)等、国内外の紛争解決に関する執筆、講演歴多数。
1996年東京大学法学部卒業、 1998年弁護士登録(第二東京弁護士会)、森綜合法律事務所(現在森・濱田松本法律事務所)入所、2004年シカゴ大学ロースクール(LL.M)卒業、 ヒューストン市Fulbright & Jaworski法律事務所にて執務、2005年ニュ-ヨーク州弁護士登録、2007年東京地方裁判所民事訴訟の運営に関する懇談会委員(~2019年)、2020年一般社団法人日本国際紛争解決センター アドバイザリーボード委員(~現在)、2021年日本商事仲裁協会・Japan Commercial Arbitration Journal 編集委員会委員(~現在)等。

 

(たかはし・せり)

森・濱田松本法律事務所外国弁護士
国際仲裁をはじめとした国際紛争解決を専門とする。大手外資系法律事務所の東京、ドバイ及び香港オフィスでの勤務経験を有し、建設紛争、合弁事業に関する紛争等、様々な分野における国際商事仲裁や専門家による紛争解決手続などに携わってきた。2020年より、森・濱田松本法律事務所の国際紛争解決チームに属し、シンガポールオフィスにおいて勤務中。
2008年東京大学法学部卒業、2010年東京大学法科大学院卒業、2011年弁護士登録(第二東京弁護士会)、2017年コロンビア大学ロースクール(LL.M)卒業、2018年ニューヨーク州弁護士登録。