◆SH3437◆新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大と独禁法・競争法実務への影響(第2回) 高宮雄介/竹腰沙織(2020/12/28)

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大と
独禁法・競争法実務への影響(第2回)

森・濱田松本法律事務所

弁護士 高 宮 雄 介
弁護士 竹 腰 沙 織

 

(承前)

Ⅲ 海外の状況

1. 米国

 ⑴ これまでの当局の施策

 現在までに米国競争当局がCOVID-19拡大に関連して行ってきた主な施策としては、以下のようなものがある。

  1.  (ⅰ) 3月24日公表の共同声明
     米国の競争当局である司法省(DOJ)と連邦取引委員会(FTC)は、2020年3月24日、COVID-19に関する共同声明(Joint Antitrust Statement Regarding Covid-19)を発表した[1]
     当該共同声明には、COVID-19拡大に対処するための事業者の共同行為についての競争法の観点からのガイダンスや、当局が事業者からCOVID-19対応関連の共同行為について相談を受けた際の審査スピードを速める(特に公衆の安全と衛生に関わるものについては、必要な情報が提出されてから7日間以内に回答する迅速審査を行う)旨のアナウンス等が含まれていた。
     ただし、実際に当該迅速審査を利用している事業者は少ないようであり、これまでにDOJが当該審査を行い承認したことを公表した共同事業は数件にとどまっているようである。当該審査によってDOJに承認された共同行為の具体的な例としては、医療品販売事業者間の個人用防護具(PPE)やCOVID-19関連の医薬品の製造・調達・販売促進のための共同行為[2]や、全国豚肉生産者評議会(NPPC)が米国農務省(USDA)と共に行う養豚業者救済のための共同行為[3]等がある。
     
  2.  (ⅱ) 4月13日公表の共同声明
     2020年4月13日、DOJとFTCは再び共同声明を発表し、COVID-19拡大下の労働力市場において、労働者(特にエッセンシャルワーカー)を不当に害するような競争法違反行為(例えば、雇用者同士による、各雇用者が雇用している被雇用者の賃金を減額する合意等)が行われていないかどうか注視しており、違反があった場合には刑事上及び民事上の責任を追及していく意向であることを明らかにした[4]
     
  3.  (ⅲ) FTCによる企業結合審査基準を変更しない旨の宣言
     2020年4月6日、FTCは、ウェブサイトにおいて、COVID-19拡大下においても企業結合審査を従前と変わらない基準で厳密に行い続けることを宣言した。公表文の中で、FTCは、COVID-19拡大に対応するためにこれまで採用されてきた企業結合審査の基準をもし緩めれば、それは長期的に競争に悪影響をもたらすことになると述べ、特に問題解消措置を行う場合に分離対象となる資産の買い手には引き続き一定の条件が要求されることについて強調した[5]
     
  4.  (ⅳ) 企業結合届出の電子化
     2020年3月17日以来、競争当局への企業結合の届出(HSR Filing)は、これまでにとられてきたハードコピーやDVDを提出する形式から、まずFTCに電子メールを送信した上で、FTCからの返信で指定されるリンク先のウェブページを使用して届出書の提出を行う形式に変更されており、ハードコピーやDVDの提出による届出は認められていない[6]。現状の電子的な届出書の提出システムは、COVID-19拡大に対応するための一時的なものとされているものの、当該対応の終了タイミングについては現在のところ定められていない。
     なお、届出から30日間とされている法定の待機期間を当局が認めた場合に短縮する制度については、COVID-19拡大当初は一時的に停止されていたが、2020年3月30日から再開されている[7]。ただし、待機期間短縮が認められるケースは以前より限定される等、従前の運用と全く同一とはなっていない。
     
  5.  (ⅴ) その他の消費者保護政策
     COVID-19拡大に伴い、マスク等の需給がひっ迫するようになった商品・サービスについての価格つり上げ(Price-gouging)等を規制する法令が、連邦や各州のレベルで次々と導入された。また、DOJは、2020年3月24日、各連邦地方検事局(United States Attorneys' Office)に対して、COVID-19拡大関連の買い溜めや価格つり上げ等に対処するタスクフォースを速やかに編成することを要請した[8]
     価格つり上げ規制違反については、DOJや各州の司法長官(Attorney General)によって、4月や5月の早い段階から多数の訴追が行われてきており、各当局が引き続き厳しい目線で違反行為を監視していることが窺われる。

 ⑵ 近時の動向

 米国競争当局による主要な施策は、上記のとおり比較的COVID-19拡大初期に集中しており、直近の数か月では大きな制度変更等は行われていないようである。ただし、近時の動向として、以下のような傾向が見受けられる。

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(たかみや・ゆうすけ)

森・濱田松本法律事務所パートナー弁護士。独占禁止法/競争法分野を中心に、景表法をはじめとする消費者保護法、贈収賄規制、通商法案件を含むコンプライアンス全般について幅広く法的助言を提供する。2005年東京大学法学部卒業、2007年東京大学法科大学院修了、2016年ニューヨーク大学法科大学院修了。2016~2017年Gibson, Dunn & Crutcher法律事務所及び米国連邦取引委員会にて執務。2017~2019年公正取引委員会競争政策研究センター客員研究員、2018~2019年経済産業省経済産業研究所「グローバル化・イノベーションと競争政策プロジェクト」メンバー。

 

(たけこし・さおり)

森・濱田松本法律事務所アソシエイト。独占禁止法、景品表示法及び下請法を専門とし、国内外の案件において豊富な経験を有する。2007年一橋大学法学部卒業、2009年一橋大学法科大学院修了、2019年カリフォルニア大学バークレー校ロースクール修了(LL.M.)。2019年~2020年Arnold & Porter法律事務所(ワシントンDCオフィス)にて執務。




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