◆SH3269◆Withコロナ時代の労働法務 第1回 在宅勤務(1) 福谷賢典(2020/08/18)

Withコロナ時代の労働法務
 第1回 在宅勤務(1)

島田法律事務所

弁護士 福 谷 賢 典

 

 わが国における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)(以下「新型コロナ」という)の流行の状況は、本年4月7日、史上初となる新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言の発令と、これを受けてなされた各都道府県知事等による外出自粛、施設休業の要請等を経て、一時は新規感染者数の減少をみたものの、緊急事態宣言が解除された5月25日以降、東京、大阪など大都市を中心に再び感染拡大の様相を呈し、7月29日には一日当たりの新規感染者が1,000人を超えるに至った。かかる状況下、政府は、7月26日、「経済界へのお願い」として、「テレワーク70%・時差通勤」、「体調不良者は出勤させず、PCR検査を推奨」など5項目の要請を行うなど、国民一丸となった新型コロナ感染拡大防止のための取組みが引き続き求められているところである。

 各企業においても、未曽有の事態、そして日々刻刻と変わる社会情勢を前に、事業活動の継続と感染拡大防止を両立させるべく、人事部門や法務部門が中心となって試行錯誤を重ねてきており、これは今後も変わるところはないと予想されるが、本格的な流行の開始から約半年が経過し、省庁や経済団体による各種指針の公表、法律実務家による論点整理の進展等により、企業の労務管理等についての基本的な考え方はある程度まとまってきたように思われる。そこで、本稿から数回にわたる連載により、これらを改めて整理、分析するとともに、筆者の近時の法律相談業務を通じても看て取れる実務的な諸課題に対し、(多分に悩みは残るが)対処の方向性を検討、提示することとしたい。

 なお、本稿中意見にわたる部分は筆者の私見であり、筆者が現在所属し、または過去に所属していたいかなる団体の見解を示すものでもないことに注意されたい。

 

Ⅰ 在宅勤務の法的根拠等

1 業務命令としての在宅勤務の指示

 冒頭記載のとおり、テレワークの推進は社会的要請となっているところ、そもそも「テレワーク」につき、法令上の定義は存在しないが、厚生労働省の平成30年2月22日制定にかかる「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」によれば、「テレワーク」とは「労働者が情報通信技術を利用して行う事業場外勤務」であり、その形態としては、①在宅勤務(労働者が自宅で勤務するもの)、②サテライトオフィス勤務(労働者が自宅の近くや通勤途中の場所等に設けられたサテライトオフィスで勤務するもの)、および③モバイル勤務(労働者が自由に働く場所を選択できるもの)があるとされている(同ガイドライン1)。もっとも、テレワークの推進が、人の接触機会を削減して新型コロナの感染拡大を防止することを目的とすることを考えれば、主として選択されるのは在宅勤務ということになろう。

 在宅勤務を通常の勤務(労働者が使用者の事業場にて行う労務提供)と比較した場合に、その差異は就業の場所に尽きる。ここで、就業の場所は就業規則の必要的記載事項(労働基準法89条)ではないため、企業の一般的な就業規則上、就業の場所が特定されていることはないと思われる。また、就業の場所は労働契約締結時に使用者が労働者に対して書面の交付等によって明示しなければならない労働条件の一であるため(労働基準法15条1項、労働基準法施行規則5条1項1号の3、3項、4項)、労働条件通知書や雇用契約書には通常は就業の場所が記載されているが、これはあくまで「雇入れ直後の就業の場所・・・を明示すれば足りる」ものである(平成11・1・29基発45号)。そして、労働条件通知書等における就業の場所の記載にかかわらず、一般的な就業規則で規定されている使用者の配転命令権についての定めに基づき、配置転換や転勤は実務上当然に行われている。

 すなわち、一般的な労働契約においては、労働者の就業の場所が特定の事業場等に限定されていることはないといえ、したがって、就業規則の変更や労働契約にかかる変更契約の締結を行わずとも、使用者は業務命令として労働者に対して在宅勤務を命じることができる。この点、実務的には就業規則(の下位規程)としての在宅勤務規程を制定するほうが在宅勤務者の労働条件の明確化には資するが(後記参照)、新型コロナの流行のような予測不可能・突発的な事象の発生に伴い、緊急に在宅勤務体制への移行が求められる場合は、在宅勤務規程制定の時間的余裕もないことから、多数従業員の各人に対する業務命令として在宅勤務を行うよう指示することが想定される。

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(ふくたに・まさのり)

島田法律事務所パートナー弁護士。東京大学法学部卒業、2004年10月弁護士登録(57期)、2007年1月~2008年12月都市銀行法務部に出向。中心的な取扱分野は、争訟、労働法務、コーポレート、金融法務等。メーカー、金融機関等の人事部門・法務部門から、人事制度の設計・運用、個別労働紛争の処理等に係る法律相談を日常的に受けるとともに、労働審判、あっせん等の企業側代理人も務めている。

島田法律事務所http://www.shimada-law.jp

 




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