◆SH3265◆企業法務フロンティア「『リツイート事件』が残したもの」 井上 拓(2020/08/11)

企業法務フロンティア
『リツイート事件』が残したもの

日比谷パーク法律事務所

弁護士 井 上   拓

 

1 はじめに

 先日、いわゆるリツイート事件(以下「本事件」)の最高裁判決が出された(最三小判令和2・7・21、平成30年(受)第1412号発信者情報開示請求事件、以下「本判決」)。本判決は、氏名表示付きの写真画像が添付されたツイートをリツイートした結果、ツイッターのシステムの仕様により氏名表示部分がトリミングされた状態で当該画像がタイムライン上に表示されたという事案において、リツイート者による氏名表示権侵害を認めたものである。ツイッター利用者を中心に動揺が広がっている。

 本事件については、原告本人が情報発信をしている。また、本稿を執筆している最中、本事件の原告代理人である齋藤理央弁護士も本事件について分かりやすく解説した記事を公開された。技術的な点を含め、本事件の詳細についてはこれらの記事を参照されたい。

 本稿では、本事件をまったく知らない読者を想定し、本事件の内容を簡単に整理した上で、本判決が社会に与える影響について考える。

 

2 本事件の概要

 以下、本判決と関連する部分のみを簡略化して記載する。

 職業写真家である原告Xは、すずらんの写真を撮影し、当該写真の隅に「©」マーク及びXの氏名を表記した文字等(以下「本件氏名表示部分」)を付加した略正方形の画像(以下「本件写真画像」)を作成し、自己のウェブサイトに掲載した。

 氏名不詳(以下「本件元ツイート者」)が、あるアカウントを用いて、Xに無断で、本件写真画像を添付したツイートをした(以下「本件元ツイート行為」)。これにより、本件写真画像のデータ(以下「本件元画像ファイル」)がツイッター社のサーバに保存された。

 さらに、氏名不詳(以下「本件リツイート者」)が、別のアカウントを用いて、上記ツイートをリツイートした(以下「本件リツイート行為」)。これにより、本件リツイート者のタイムラインに本件元画像ファイルへのインラインリンクが自動的に設定された。その結果、本件写真画像が当該タイムラインに表示されるのだが、ツイッターのシステムの仕様により本件写真画像の全体ではなく一部のみが表示された(以下「本件表示画像」)。具体的には、リツイートがなされると、ツイッター社所定の画像の表示方法を指定するHTML等のデータがリツイート者のタイムラインに係るサーバに自動的に記録され、同タイムラインの本件写真画像は当該指定に従って表示される。本事件の場合、本件写真画像が、上下の部分がトリミングされた本件氏名表示部分を含まない長方形の画像として表示された。

 Xは、氏名不詳である本件元ツイート者と本件リツイート者が同一人物であると考え、同人に対する責任追及を行うこととした。そこで、同人の身元を特定するため、ツイッター社を被告として、同人が用いた各アカウントに係る発信者情報を明らかとするよう求める訴訟を提起した(発信者情報開示請求訴訟)。

 上記発信者情報開示請求が認められるためには、Xの「権利が侵害されたことが明らか」であることが必要である(プロバイダ責任制限法4条1項1号)。この点、本件元ツイート行為がXの著作権(公衆送信権)を侵害していることについてはツイッター社も第一審の時点で認めており、当事者間に争いがない。よって、主な争点は、本件リツイート行為がXの権利を侵害するのか否かである。

 

3 本件リツイート行為に関する第一審及び原審の判断

 著作者の権利(著作権)は、財産的な利益を保護する権利(著作財産権)と人格的な利益を保護する権利(著作者人格権)との二つからなる。本事件においても、本件リツイート行為がXの著作財産権又は著作者人格権のいずれかを侵害しないかが検討されている。

(1) 本件リツイート行為によりXの著作財産権が侵害されたか否か

 本事件では、著作財産権について、主に、本件リツイート行為によりXの公衆送信権が侵害されたか否かが問題となった。第一審(東京地裁)も原審(知財高裁)も公衆送信権侵害を否定した。最高裁(本判決)はこの点について判断をしていない。

 原審の判断の概要を紹介すると、原審は、まず、まねきTV事件最高裁判決を引用し、本件リツイート者は公衆送信権侵害の物理的な意味での主体ではないと判断した。次に、ロクラクⅡ事件を引用し、同判決が示した規範的評価の考慮要素を踏まえて検討した上で、規範的な意味での公衆送信権侵害の主体性も否定した。さらに、本件リツイート行為により、公衆送信を容易にしたわけではないとして、本件リツイート行為は本件元ツイート者による公衆送信権侵害の幇助にもあたらないとした。かくして、本件リツイート行為による公衆送信権侵害は否定された。

(2) 本件リツイート行為によりXの著作人格権が侵害されたか否か

 本事件では、著作人格権について、主に、本件リツイート行為によりXの同一性保持権及び氏名表示権が侵害されたか否かが問題となった。以下のとおり、第一審(否定)と原審(肯定)で結論が分かれた。最高裁(本判決)は、氏名表示権侵害を認め、原審の判断を是認した。

 第一審は、同一性保持権侵害について、本件元画像ファイルの改変が行われていないことを理由にこれを否定した。また、氏名表示権侵害について、(理由付けにつき明示はされていないが推測するに)支分権に係る著作物の利用がない場合は著作権法19条1項の「提供若しくは提示」の要件を充足しないという解釈を前提に、これを否定した。

 一方、原審は、同一性保持権侵害について、タイムラインに表示される画像(本件表示画像)は本件リツイート者により本件写真画像から改変された著作物であり、当該改変は「やむを得ない」ものではないとして、これを認めた。また、氏名表示権侵害について、(理由付けにつき明示はされていないが推測するに)支分権に係る著作物の利用がない場合であっても著作権法19条1項の「提供若しくは提示」の要件を充足するという解釈を前提に、これを認めた。

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(いのうえ・たく)

日比谷パーク法律事務所 弁護士、弁理士、YouTuber(https://www.youtube.com/inotaku_law)。2003年:灘高卒業。2007年:東京大学工学部卒業。2009年:東京大学大学院情報学環コンテンツ創造科学産学連携教育プログラム修了。2010年:東京大学法科大学院修了、司法試験合格。2011年:弁護士登録。2018年:University of California, Berkeley, School of Law (LL.M.) 修了、University of Southern California, School of Law (LL.M.) 修了。2020年:弁理士登録。

日比谷パーク法律事務所 http://www.hibiyapark.net/
所属する弁護士がそれぞれコーポレートガバナンス等の会社法、M&A、特許法・著作権法等の知的財産権法、ファイナンス法、スポーツ法、システム開発を含むデジタル法、紛争処理などの得意分野に精通し、各分野のトップランナーとして「少数精鋭」と呼ばれるにふさわしいリーガル・サービスを提供するブティック型ファーム。

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