◆SH3251◆弁護士の就職と転職Q&A Q125「退職申請は、転職先を決める前に切り出してもよいか?」 西田 章(2020/07/27)

弁護士の就職と転職Q&A

Q125「退職申請は、転職先を決める前に切り出してもよいか?」

西田法律事務所・西田法務研究所代表

弁護士 西 田   章

 

 法律事務所では、緊急事態宣言が解除されて以降、リモートワークを原則としていた先でも、オフィス勤務に回帰させる動きが進んでいました。ところが、首都圏で再び新型コロナウイルスの感染者数が大幅に増加し、これが地方へも広がりを見せ始めて、いよいよ、リモートワークを恒久的な措置として併存させる必要性を感じ始めています。そんな中、アソシエイトの側では、在宅勤務時に感じた「現事務所で働き続けることの違和感」を大事にする者からは、「転職先は決めていないが、先に現事務所を辞めたいと考えている」という相談も聞かれるようになっています。

 

1 問題の所在

 人材紹介業者が、アソシエイトの転職活動に関わる場面は、3つの立場に分かれます。1つは、転職を希望するアソシエイトからの相談に乗るキャリア・コンサルタントの立場です。ここでは、本人から現職に対して抱いている問題意識を聞き出し、その問題を解決できるような移籍先を検討することになります。2つ目は、中途採用を考えている事務所側に候補者を紹介するリクルータの立場です。ここでは、事務所の採用ニーズを聞いておいて、そのイメージに合致する候補者が見付かった時に、その候補者を推薦することになります。3つ目は、有望なアソシエイトの流出を防ごうとする現所属事務所側の慰留活動を手伝う人事コンサルタントの立場です。昨年までの平時であれば、アソシエイトは、毎日、オフィスに出勤するルーチンをこなしているため、退職希望を示すアソシエイトが現れた場合、パートナーは、そのアソシエイトに対して「まずは、一緒に飲みに行こう。ゆっくり話を聞かせてくれ」と誘うことができました。パートナーとしては、「アソシエイトが何を理由としてうちの事務所を辞めたいのか」の真意を把握しておく必要がありますし、有望なアソシエイトから具体的な問題点を指摘してもらえたら、ワークロードの調整や案件の割り振り等に関して、できる限り、運用を改善したいと考えます。逆に、一緒に飲みに行って、膝を付き合わせて話し合っても、なお、本人の退職意思が揺るがないのであれば、それ以上に慰留する必要もないと考えます。ただ、コロナ禍において、在宅勤務が続き、コミュニケーション不足の中で(中長期的なキャリアの話などできずに、目先の業務の話しかできていないため)、さらに「膝を突き合わせて話し合う」ということもできないままに、退職申請を認めてしまっていいのか、という不安もあります。そこで、外部コンサルに対して、退職を希望するアソシエイトの真意を確認してもらいたいという依頼が来ることがあります。

 外部コンサルのスタンスは、誰を依頼者とするかによって異なるところがありますが、コロナ禍で、転職活動を進めにくい中で、アソシエイトが「転職活動を始める前に、現事務所に退職意思を伝えておきたい」と希望する場合における対応には悩ましいところがあります。

 

2 対応指針

 現事務所で一緒に仕事をして来たパートナーとしては、退職申請をしてきたアソシエイトがまだ当事務所で活躍できる可能性を秘めていると期待しているほど、「一時の気の迷い」で退職するのは勿体ないと考えます。そのため、移籍先が決まっていないならば、まずは、仕事を減らしたり、担当案件を変えたりすることで、改善の余地を探ってもらいたいと期待します。それでも慰留できないならば、他のアソシエイトや次の新卒採用への悪影響を防げるような理由付けをしておきたいと考えます。

 中途採用を検討する側としては、「前職をクビになったアソシエイト」を採用したくはないので(勤勉さや辛抱強さに欠けるアソシエイトを採用したくないので)、すでに前職を辞めたアソシエイトからの応募に対して「前職を辞めた理由」についての説明を求めることになります。

 そのため、転職希望者としては、原則としては、転職希望先からのオファー取得後に退職申請をすることが無難です(現職への礼儀は「オファーを受諾する前に相談する」ことや「転職後にも定期的に近況を報告する」ことでも果たすことができます)。やむを得ず、退職した後で転職活動を行う場合には、自分の働きぶりや人柄を知ってくれている人物からの推薦を受けることで、応募先の懸念を払拭する努力を尽くす場合もあります。

続きはこちらから

バックナンバーはこちらから

 

(にしだ・あきら)

✉ akira@nishida.me

1972年東京生まれ。1991年東京都立西高等学校卒業・早稲田大学法学部入学、1994年司法試験合格、1995年東京大学大学院法学政治学研究科修士課程(研究者養成コース)入学、1997年同修士課程修了・司法研修所入所(第51期)。

1999年長島・大野法律事務所(現在の長島・大野・常松法律事務所)入所、2002年経済産業省(経済産業政策局産業組織課 課長補佐)へ出向、2004年日本銀行(金融市場局・決済機構局 法務主幹)へ出向。

2006年長島・大野・常松法律事務所を退所し、西田法律事務所を設立、2007年有料職業紹介事業の許可を受け、西田法務研究所を設立。現在西田法律事務所・西田法務研究所代表。

著書:『弁護士の就職と転職』(商事法務、2007)




メールで情報をお届けします
(毎週火曜日・金曜日)