◆SH3233◆弁護士の就職と転職Q&A Q123「アソシエイトの人事評価は稼働時間の長さで測るべきか?」 西田 章(2020/07/13)

弁護士の就職と転職Q&A

Q123「アソシエイトの人事評価は稼働時間の長さで測るべきか?」

西田法律事務所・西田法務研究所代表

弁護士 西 田   章

 

 新型コロナウイルスの感染症対策として在宅勤務が広がるのに伴い、「オフィスに来て仕事をしているフリをしていただけの社員が不要になる」「日本企業でも成果主義が広まる」という主張を見かけるようになりました。法律事務所においても、在宅勤務をするアソシエイトの間で、「稼働時間の格差」が広がっています。新人弁護士には、月次で300時間を越える稼働をしている人もいれば、100時間に満たない人もいます。実際、パートナーには「優秀なアソシエイトだけを使いたい」という傾向があり、かつ、タイムチャージベースの業務では、稼働時間が直ちに売上げに結び付くため、人事評価の指標として稼働時間を参照すること自体には合理性があるように思えます。ただ、「採用市場」においては、「長時間労働を奨励するような事務所が優秀な人材を獲得できるか?」という問題も生じています。

 

1 問題の所在

 プロフェッショナル・ファームは、「多数の優秀なアソシエイトがハードワークを伴う仕事の成果を競い合って、その中でも、特に優秀と認められた者だけがパートナーに昇進して、選別に漏れた者は去っていく」という人事モデルで、質の高いサービスを維持することができる、と考えられてきました。日本においては、「弁護士」という職業が、「文系最高峰の学生」が「組織に縛られずに働きたい」と願って目指すキャリアの理想型であったおかげで、一流の企業法務系事務所に就職してパートナー競争にエントリーする人材プールが形成されていました。

 そして、一流事務所においては、アソシエイトが「1年目から稼働時間のタイムチャージ金額が1億円を突破した」などと言われることを賛辞として受け止めて、「同期最速のパートナー昇進」を目指してハードワークに取り組んできました。大量の新人を採用して、一緒には働く機会のないアソシエイトが所内に増えてくると、人事評価においては(実際に仕事をした経験に基づく定性的評価よりも)稼働時間のほうが客観的指標として利用しやすいという事情も生じていました。このような競争を勝ち残って来たパートナー層が、後輩に対しても「昔の自分のように優秀なハードワーカー」を求めて採用活動を行うことは自然なことです。

 ただ、現在の司法試験が、このようなパートナーの期待に応えられるような人材を惹き付ける魅力的な制度になっているか? と言えば、疑問の余地があります。現代の「文系最高峰の学生」がチャレンジをするとすれば、予備試験よりも、起業のほうに魅力を感じそうです。また、法科大学院進学組には、「じっくり法律を勉強しておきたい」「資格を取って下支えのある安定したキャリアを送りたい」という傾向の学生が数多く見られます。時代の変化を受け入れるならば、法律事務所のパートナー層は、事務所の次世代を担う後輩弁護士に対して「昔の自分みたいな奴が自分と同じようなキャリアを歩むこと」を期待すべきではないのかもしれません。

 

2 対応指針

 リモートワークの導入を契機として、アソシエイトは「オフィス滞在時間の長さ」を競う必要がなくなりました。今後は、これを更に一歩進めて、「ハードワーカー型」をパートナー候補者の類型の一つに過ぎないものとして、それ以外の類型も開拓していくことが望まれます。

 まず、修習期に基づいた画一的な時間軸(弁護士経験年数)でアソシエイトを評価する発想を捨てて、各アソシエイトのライフプランに応じて設定された成長スケジュールへの達成度合いに基づく評価を行うことが考えられます。

 また、チームで業務を行える体制を整備して、スタープレイヤーだけでなく、サポート/アシスト役にも長期的に働ける居場所を設けることが考えられます。

 そして、パートナー審査については、パートナー会議での各議決権者の裁量(「好き嫌い」を含む)に基づく自由投票による多数決を採用するのではなく、「候補者がパートナー昇進要件を満たしているかどうか」を、できる限り客観的に審議する場にする工夫が考えられます。

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(にしだ・あきら)

✉ akira@nishida.me

1972年東京生まれ。1991年東京都立西高等学校卒業・早稲田大学法学部入学、1994年司法試験合格、1995年東京大学大学院法学政治学研究科修士課程(研究者養成コース)入学、1997年同修士課程修了・司法研修所入所(第51期)。

1999年長島・大野法律事務所(現在の長島・大野・常松法律事務所)入所、2002年経済産業省(経済産業政策局産業組織課 課長補佐)へ出向、2004年日本銀行(金融市場局・決済機構局 法務主幹)へ出向。

2006年長島・大野・常松法律事務所を退所し、西田法律事務所を設立、2007年有料職業紹介事業の許可を受け、西田法務研究所を設立。現在西田法律事務所・西田法務研究所代表。

著書:『弁護士の就職と転職』(商事法務、2007)




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