◆SH3223◆ネット時代における中国の暗号法規制と企業のコンプライアンス対応策 劉 新宇(2020/07/03)

ネット時代における中国の暗号法規制と企業のコンプライアンス対応策

北京市金杜法律事務所(King & Wood Mallesons)パートナー弁護士
中国政法大学大学院 特任教授

劉   新 宇

 

Ⅰ はじめに

 近年、情報技術及びインターネットの急速な発展に伴い、ビッグデータ、ブロックチェーン等の新たな事象が現れている。一方、ネットワーク上の情報の安全に対する意識の不足や不十分な安全管理措置に起因する情報漏洩も数多く発生しており、ネットワーク上の情報の安全は、企業にとって重視すべき課題となっている。ネットワーク上の情報の安全を保護するうえでは、暗号が一つの基幹的な技術手段となり、その暗号の使用を適切に管理するためには、専門的な法的規制が必要となる。

 中国の暗号関連分野において、商用暗号については1999年10月7日に公布・施行された行政法規である商用暗号管理条例(以下、「管理条例」という)、商用暗号製品生産管理規定等があり、その他の暗号に関する規定は国家秘密保守法などの法令に散在しているが、急速に発展する暗号技術に追い付かず、商用以外の暗号による国の安全の基本的な制度への保障等に関する法規制が不十分で、新時代の暗号管理のニーズに適応できていないという問題が生じた。このような背景の下、2014年12月の起草開始後、社会に対する意見公募、全国人民代表大会常務委員会における2回の審議を経て、2019年10月26日、暗号の応用や管理の規則について定めた暗号分野初の法律として、「中華人民共和国暗号法」(以下、「本法」という)が可決され、今年1月1日に施行された。

 そこで、本稿では、本法の原則を紹介し、従来の商用暗号行政管理制度との相違、外資系企業による市場参入の平等な取扱い、サイバーセキュリティ法、中国輸出管制法及びブロックチェーン技術との関係等、外資系企業において注目すべき点について説明したうえ、本法に関わる外資系企業のコンプライアンス上の対応策を提言するものとしたい。

 

Ⅱ 本法の要点

 本法は総則、コア暗号・一般暗号、商用暗号、法律責任、附則という5つの章と44の条から構成されている。以下、その要点につき、管理条例その他関連法令も踏まえて論じていく。

 

1. 暗号の定義

 日常的に「暗号」といえば、アカウント等にログインするために用いるパスワードが想起されるが、それは1つの基本的な身分認証方法にすぎない。本法では「暗号」を、情報に対して特定の変換方法を加えることで、暗号化して保護され、安全が認証された技術、商品、サービスをいうものと定義し(2条)、従来よりも広範に、「技術、商品」から「技術、商品及びサービス」にまで拡大している。

 「管理条例」は商用暗号のみを適用対象としていたが、本法は区分管理の原則に沿って、暗号が保護する秘密のレベルに基づき、さらにコア暗号、一般暗号、商用暗号の3類型に分け、下表1のようにそれぞれ異なる規制を行っている(6条、7条、8条)。

 

表1:暗号の類型及び詳細
類型 性質 保護対象 用途及び管理使用規則
コア暗号 国家機密 国家機密に該当する極秘レベル、機密レベル、秘密レベルの情報
  1. ・ 国の機密情報の保護
  2. ・ 暗号管理機関による本法その他関連法令に基づく統一的な厳格管理
一般暗号 国家機密に該当する機密レベル、秘密レベルの情報
商用暗号 非国家機密 国家機密に該当しない情報
  1. ・ 国家機密以外の情報の保護
  2. ・ 公民、法人その他組織による法に基づく使用

 

2. 商用暗号の行政許可管理制度

 従来、「管理条例」及びその関連法令は、商用暗号製品生産審査・許可、販売単位許可、輸入許可等の一連の商用暗号行政許認可制度を定めていたが、2015年から、行政許可事項の一部廃止に関する国務院の一連の決定に基づき、商用暗号製科学研究認定機関の認可、商用暗号製品生産企業の認可、商用暗号製品販売企業の認可、外資系企業による国外暗号製品の使用の認可、外国の組織・個人による暗号製品又は暗号技術を含む設備の中国における使用の認可など、その多くが廃止された。

 下表2は、本法公布前から存在する商用暗号の許認可と本法施行後の取扱いを簡単に比較したものとなるが、一部の未変更の許認可も、今後は廃止又は変更の可能性があることから、国家暗号管理局及び他の関連機関が発する通知等に注意する必要がある。

 

表2:本法公布前から存在する商用暗号の許認可と本法施行後の取扱い
許認可の名称 本法施行後の取扱い
① 商用暗号製品型番証書の取得 商用暗号製品の検査認証制度へと変更
② 商用暗号製品品質検査・測定機構の認可 検査測定認証機能の資格を保留
③ 商用暗号製品の輸出許可証の取得 適用範囲を変更
④ 暗号製品及び暗号技術を含む設備の輸入許可証 適用範囲を変更
⑤ 情報安全等級による商用暗号の保護に関する評価機関の認可 サイバーセキュリティ法の規定と関連
⑥ 電子政務電子認証サービス機構の認定 変更なし
⑦ 電子認証サービスの暗号使用の認可 変更なし
⑧ 商用暗号科学研究成果の審査・鑑定 変更なし

 

 表2のうち、一般の外資系企業にとって最も身近な許認可事項は、商用暗号製品に関する①、③及び④である。そのうち①の商用暗号製品型番証書は、本法施行後に廃止され、商用暗号製品検査認証制度が実施されており、商用暗号製品の事業者は事業内容に応じて強制的に又は任意に商用暗号の検査認証を行うこととなる。さらに、2019年12月30日に公布された「商用暗号製品管理方法の調整に関する暗号管理局、市場監督管理総局の公告」により、商用暗号化製品の品種及び型番に関する認可は不要となり、2020年1月1日以降の受付はなされず、既に「商用暗号化製型番証書」を有する企業は2020年6月30日までに商用暗号製品検査認証証書に切り替えることができ、「商用暗号製品型番証書」は2020年6月30日をもって失効するとされた。なお、③及び④については後出Ⅱ4を参照されたい。

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(りゅう・しんう(Liu Xinyu))

北京市金杜法律事務所(King & Wood Mallesons)パートナー弁護士、中国政法大学大学院特任教授、中国人民大学税関・外為法研究所共同所長、中国社会科学院法学研究所私法研究センター研究員、中日民商法研究会副会長、早稲田大学トランスナショナルHRM研究所招聘研究員、中華全国弁護士協会渉外法律服務委員会委員、北京市弁護士協会国際投資・貿易法委員会委員長。中国国際経済貿易仲裁委員会、一般社団法人日本商事仲裁協会の仲裁人等としても活躍。得意分野は、再編を含む企業M&A、国際貿易、独占禁止法、近年では税関規制・外貨管理などの輸出入関連リーガルサービス及び紛争解決にも注力。多くの日中団体、多国籍企業の法律顧問を務める。
2016年、世界的な法曹評価機関たる英国の「チェンバース・パートナーズ」により、「中国-企業M&A-日本業務専門家」及び「日本-企業M&A-中国法専門家」(中国で唯一)に選出された。




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