◆SH3174◆弁護士の就職と転職Q&A Q118「業績が不振だとパートナー昇進は厳しくなるのか?」 西田 章(2020/06/01)

弁護士の就職と転職Q&A

Q118「業績が不振だとパートナー昇進は厳しくなるのか?」

西田法律事務所・西田法務研究所代表

弁護士 西 田   章

 

 日本経済新聞5月25日付け朝刊の法務面に、法律事務所を特集する記事が掲載されました。記事中に「パートナーも人数を増やせるだけの余裕がなくなり、昇進がさらに厳しくなるという見方がある」との記述に疑問を抱いた読者から、同じ欄でコメントを紹介してもらっていた筆者に対して「なぜそうなるのか?」という質問が届きました。記事の根拠とは異なっているかもしれませんが、筆者も同じ予想を立てているので、私見を解説してみたいと思います。

 

1 問題の所在

 質問者の疑問は、「売上げが減少したら、むしろ経費負担者であるパートナーを増やす方向に動機付けが働くのではないか?」という発想に基づくものでした。これは、中小規模の事務所で、「アソシエイト時代に個人事件で売上げを立ててから、個人事件の収入が給与を超える頃にパートナーになる」という昇進モデルにおいては、その通り、「個人事件の売上げを事務所に取り込む」効果をもたらすと思います。しかし、規模が大きな事務所における「シニア・アソシエイトはパートナーが受任した事件を下請けして、ジュニア・アソシエイトを束ねる番頭役を担う」という階層構造の下では、当てはまりません。これまで所内の下請け業務に専従してきたシニア・アソシエイトに対して、「来年からパートナーになって、これからはすべて自分で外から案件を引っ張ってこい」と要求するのは酷です。

 この状況は、「鶏が先か? 卵が先か?」的に、「売上げが立てられることを条件にパートナーに昇進させるのか? それとも、パートナーの肩書き(=対外的信用力)を先に与えてあげることで、受注しやすい環境を整えてあげるのか?」という問題として認識されていました。その解決策として、業績が好調である限りにおいては、「パートナーになったからといって、いきなり、先輩パートナーからの下請け業務をなくすわけではない。」「先輩パートナーからの下請け業務も継続しつつ、徐々に自分の案件を増やしていく。」という段階的な成長プロセスを設けることが機能しつつありました(人事制度的には、収益分配に預かる権利やパートナー会議での議決権を得られるのは、シニア・パートナーに昇進するまで留保する設計等が考案されてきました)。

 しかし、業績の落込みが大きく、その回復時期の見通しも立たなくなってしまうと、シニア・パートナーにとっても、自己の売上げを確保するだけでも手一杯で、新人パートナーに売上げを分割するまでの余裕がなくなってしまいます。新人パートナーに対してどのような待遇を設定すべきか。これが高過ぎれば、事務所経営を傾かせかねませんし、これが低過ぎたら、健全な野心を秘めた「将来のレインメーカー候補」が事務所を離れていくリスクも存在します。

 

2 対応指針

 今回の新型コロナウイルスの感染拡大に伴う経済の低迷は、「売上げを立てる自信がある層」にも、「売上げを立てる自信(又は意欲)がない層」にも、それぞれ別の形で「パートナーへの内部昇進をキャリア目標に据えたままでいるべきかどうか」を考え直す契機となっています。

 「ピンチをチャンスに」という発想に基づいて、これから売上を立てていきたいと考えるシニア・アソシエイト層は、「今、知名度を高める活動は、パートナーへの内部昇進手続を進めることと両立できるのか?」「現事務所の人事制度の下でも自分にアップサイドが回ってくるか? あと何回、内部審査を受ける必要があるのか?」という問題意識を抱いています。

 逆に、ステイホーム期間において、私生活の満足度を維持することに価値を見出したシニア・アソシエイト層は、「事務所の収益に貢献するためにハードワークを続けることにどれだけの意味があるのか?」という悩みを(「感染症対策」という正当化事由を得たことで)より一層に膨ませています。

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(にしだ・あきら)

✉ akira@nishida.me

1972年東京生まれ。1991年東京都立西高等学校卒業・早稲田大学法学部入学、1994年司法試験合格、1995年東京大学大学院法学政治学研究科修士課程(研究者養成コース)入学、1997年同修士課程修了・司法研修所入所(第51期)。

1999年長島・大野法律事務所(現在の長島・大野・常松法律事務所)入所、2002年経済産業省(経済産業政策局産業組織課 課長補佐)へ出向、2004年日本銀行(金融市場局・決済機構局 法務主幹)へ出向。

2006年長島・大野・常松法律事務所を退所し、西田法律事務所を設立、2007年有料職業紹介事業の許可を受け、西田法務研究所を設立。現在西田法律事務所・西田法務研究所代表。

著書:『弁護士の就職と転職』(商事法務、2007)




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