◆SH3055◆コロナウイルスがグローバルサプライチェーンに与える影響:国際取引に関連する主張と防御 トマス・G・アレン/上西拓也(2020/03/13)
コロナウイルスがグローバルサプライチェーンに与える影響
:国際取引に関連する主張と防御
Greenberg Traurig法律事務所
弁護士 トマス・G・アレン
岩田合同法律事務所
弁護士 上 西 拓 也
各国がコロナウイルス(COVID-19)の拡大抑止を進めるにつれて、コロナウイルスはグローバルサプライチェーンにかつてない混乱をもたらしている。幅広い業界が影響を受けており、感染の流行が中国以外にも広がっている現在において、ビジネスに与える損失はいまだ十分に明らかではない。確かなことは、その損失は相当な規模であり、2020年上期、さらにはその先の経済の足かせになり得るということである。
経済的考察は人間の健康の保護に優先するものではないにせよ、無視することはできない。企業は、しばしば予期できない事業活動の停止から生じるリスクを契約および保険によって分配する。以下では、企業が損害の回収を検討する場合、あるいは相手方による契約不履行の主張に対して防御する場合のいずれにおいても重要となる法的概念を説明する。
不可抗力(Force Majeure)
不可抗力(Force Majeure)は、通常予測することのできない事象で、⑴ 不可抗力を主張する当事者の責めに帰すことができず、⑵ 契約上の義務の履行を妨げる事象が発生した場合、契約当事者が契約上の義務の全部または一部の履行を免れることができるという法的概念である。通常、契約上の義務の履行が困難であるとか費用が掛かるというだけでは不十分であり、不可抗力事由によって契約上の義務の履行が不可能であることが必要である。
不可抗力条項を含む契約においては、多くの場合、不可抗力を構成する事由が列挙されているが、この列挙はしばしば例示的であり網羅的ではない。よく列挙される自然現象としては、地震、洪水、火災、伝染病、天災その他の自然災害がある。よく列挙される人的な事象としては、テロ、暴動、戦争、通商禁止、ストライキまたは労働力の不足および法律または規則の変更がある。
不可抗力の理論は通常コモンロー体系下の契約で認められるものである。もし企業が不可抗力事由に基づく主張を検討している、あるいは、相手方が不可抗力事由に基づき契約上の義務履行を中止し、または、契約の終了を主張すると考えられるならば、以下の各点を検討すべきである。
(Thomas G. Allen)
グローバルローファームであるGreenberg Traurig法律事務所DCオフィス所属。ワシントンDC及びバージニア州弁護士。同事務所の国際仲裁・訴訟グループを代表するパートナー弁護士であり、日本企業が関与した著名な仲裁事案の代理人を務める。関与した事例には、サンオノフレ原発に関連する70億ドルの請求に対する弁護に成功した事例や、ボーイング787ドリームライナーの飛行禁止の事例等がある。近時、環太平洋法曹協会(IPBA)の紛争解決委員会の副議長に就任。以前、日本商事仲裁協会に仲裁人として招聘されている。
Greenberg Traurig法律事務所 https://www.gtlaw.com/
(うえにし・たくや)
岩田合同法律事務所パートナー弁護士。2011年弁護士登録。2019年UC Berkeley School of Law (LL.M.) 卒業後、現在はGreenberg Traurig法律事務所のワシントンDCオフィスで研修中であり、米国の大型訴訟および国際仲裁案件等に関与している。これまで訴訟案件やクロスボーダー取引案件において、各種金融機関(メガバンク、地方銀行及び信託銀行等)や電力会社等を代理した幅広い経験を有するほか、競争法分野、労働法分野等の紛争においても各種企業を代理した経験を有する。
岩田合同法律事務所 http://www.iwatagodo.com/