◆SH3037◆弁護士の就職と転職Q&A Q107「転職活動は『不要不急』の用件として控えるべきか?」 西田 章(2020/03/02)

弁護士の就職と転職Q&A

Q107「転職活動は『不要不急』の用件として控えるべきか?」

西田法律事務所・西田法務研究所代表

弁護士 西 田   章

 

 新型コロナウイルスの感染拡大防止の一環として、ビジネスの現場でも、在宅勤務や時差出勤と共に、「不要不急」の会議が延期・中止されています。2008年のリーマンショックや2011年の東日本大震災の時に、「一旦、すべてのディールが停まる」という経験をした世代には、この停滞ムードの長期化に対する危機感が高まっています。そして、転職活動中の弁護士の行動は、「コロナショックの影響が落ち着くまで様子見」派と、「業績悪化が確定する前に急いでオファーを獲得しておきたい」派に分かれてます。

 

1 問題の所在

 リーマンショックが起きた2008年は、60期が新人弁護士だった年ですが、転職活動への行動様式にも、世代間での違いが感じられます。つまり、61期以降の若手の間では、「まもなく市場も回復するだろう」という楽観論に基づき「業務が正常化してから、仕切り直して転職活動をしよう」というのが主流であるのに対して、60期よりも上の期には「不況が深刻化すれば、人材市場は買い手市場に転じるから、良さそうなポストがあれば、早めにオファーを獲得しておきたい」という焦りを募らせる悲観論者が多く見られます。

 昨年までを振り返ってみれば、経験弁護士の人材市場では、「売り手市場」が続いていました。企業も、法律事務所も、採用枠があるにもかかわらず、「本当に欲しいスペックの候補者からの応募を得ることが難しい」という認識が強くありました。そのため、「まぁ、この程度の弁護士でも確保しておくか」という「不要不急のオファー」が行われることもありました。そのムードは、今回のコロナショックで終わりを告げて、今後は、「買い手市場」に転換してくることが予想されます。需要面では、企業の業績の落ち込みが数字で現れてくれば、経費削減のため、管理/間接部門である法務部のヘッドカウントが縮小されるリスクも生じています(仕事量は増えるかもしれないにも関わらず)。また、供給面では、法律事務所の今年の売上げが前年度よりも減少することにより、ボーナス支給額が減り、パートナー昇進数も絞られることから、転職希望者が増えることが予想されます。

 他方、不況時は、弁護士が、企業から「後ろ向き案件」対応のアドバイザーとしての知見とノウハウが求められる場面でもあります。「不要不急」とされたイベントの中止を巡っても、関係当事者間の費用負担の交渉が行われることになりますし、貸出先や取引先に債務不履行が生じれば、債権回収業務も発生します。ただ、仕事量が増えたからといって、「稼働時間に見合ったタイムチャージをきっちり請求できる」とは限りません。クライアント企業側は、リーガルフィーの予算枠を絞らなければならないことが増えてくるので、法律事務所側では、クライアント側の懐事情に応じた柔軟な料金設定(成功報酬型や顧問料内での対応)を求められることが増えて来ます。

 

2 対応指針

 景気後退が深刻化すれば、人材市場におけるインハウスの採用枠を巡る競争倍率は、相対的に上がります。そのため、コロナショック前に、移籍を真剣に検討できる先の採用選考を進めていたならば、これを止めずに、オファー取得まで辿り着かせることをお勧めしています(仕切り直したら、チャンスが失われてしまうリスクが懸念されます)。

 法律事務所の中では、トランザクションを得意とする事務所よりも、優良なクライアントを顧問先に抱えた事務所の人気が上がります。クライアント企業としては、顧問料の範囲内で気軽に相談でき、かつ、コンフリクトも少ないことから、紛争案件やトラブル対応を含めた相談をしやすいため、アソシエイトにとって、「不況時において求められるリーガルサービスを幅広く経験しやすい先」と位置付けられています。

 昨年まで危機管理業務で繁盛していた事務所が、不況時にも業務を拡大し続けられるかどうかは定かではありません(「メディアが新型コロナウイルス関連の報道で多忙になれば、企業不祥事が取り上げられる機会が減ることで、企業における評判リスクへの感度が下がってしまう」という予測から、不祥事対応のニーズは根強くあるとしても、クライアント企業において、本業の業績が悪化すれば、不祥事対応の予算枠を絞らなければならない圧力が高まるとの懸念も強まっています)。

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(にしだ・あきら)

✉ akira@nishida.me

1972年東京生まれ。1991年東京都立西高等学校卒業・早稲田大学法学部入学、1994年司法試験合格、1995年東京大学大学院法学政治学研究科修士課程(研究者養成コース)入学、1997年同修士課程修了・司法研修所入所(第51期)。

1999年長島・大野法律事務所(現在の長島・大野・常松法律事務所)入所、2002年経済産業省(経済産業政策局産業組織課 課長補佐)へ出向、2004年日本銀行(金融市場局・決済機構局 法務主幹)へ出向。

2006年長島・大野・常松法律事務所を退所し、西田法律事務所を設立、2007年有料職業紹介事業の許可を受け、西田法務研究所を設立。現在西田法律事務所・西田法務研究所代表。

著書:『弁護士の就職と転職』(商事法務、2007)




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