◆SH3000◆弁護士の就職と転職Q&A Q105「『英語を学びたければ、外資系への就職がオススメ』と言えるか?」 西田 章(2020/02/10)

弁護士の就職と転職Q&A

Q105「『英語を学びたければ、外資系への就職がオススメ』と言えるか?」

西田法律事務所・西田法務研究所代表

弁護士 西 田   章

 

 学生から「最近の就活では外資系の人気が復活している。先のことは分からなくても、英語が必要なことは確実なので、仕事をしながら英語を学べる環境は魅力的である。」という話を教えてもらいました。キャリアにおける「英語によるコミュニケーション力の重要性」がさらに高まるという見方はその通りだと思います。ただ、就職先に「職業訓練学校としての機能」を期待し過ぎてしまうと、ミスマッチが起きてしまうかもしれない、という危惧も覚えました。

 

1 問題の所在

 就職先として外資系を選んだ失敗例として、2つのミスマッチ事例が思い出されます。ひとつは、外資系証券会社に採用された新人弁護士が、「英語も分からないし、取り扱っているデリバティブ業務の中身もわからない」という二重苦を抱えて、「先輩が居ても助けてくれない」という不満を抱いて、何らスキルを習得することもなく、すぐに退職してしまった事例です。国内系が「日本でビジネスを続けること/拡大すること」自体を至上命題とできるのに対して、外資系は、本部から見た採算重視で東京オフィスの経営が行われています。そのため、「日本のマーケットで儲けられる時期ならば、人を増やして収益を最大化する」一方で、「景気が悪化すれば、人を減らして経費を削減する」というのは、合理的な経営判断です(ジョブ・セキュリティを求める就活生のほうに誤解があります)。また、各構成員のジョブ・ディスクリプションが明確に規定されている外資系では、先輩弁護士に「自分の職務範囲を超えて、他部署の後輩を指導してもらいたい」という越権行為を期待することもできません。そういう意味では、「経験不足の自分でも採用してくれるということは、当然、周りに仕事を教えてもらうことが想定されていますよね?」と楽観して就職したら、当てが外れてしまう危険があります。

 もうひとつは、外資系法律事務所の東京オフィスに「いずれ米国留学をさせてもらえるだろう」という期待を抱いて入所したものの、海外留学の機会を得られないことに気付いて転職した事例です。2005年に外国法共同事業が解禁された直後は、外資系でも「国内大手事務所に採用で競り勝つため」に、海外ロースクールへの留学制度を導入する先が増えましたが、リーマンショック以後は急速に縮小してしまいました。元来、外資系事務所は、日本法プラクティスを行うために、アソシエイトとして日本法弁護士を採用しているのですから、「NY州弁護士資格を取得させるための人材投資」は本業のニーズから導き出されるものではなかったのです。

 このようなミスマッチ事例とは異なり、帰国子女等の英語力が高い弁護士が入所したケースにおいては、「同僚である米国又は英国のトップ・ロイヤーとコミュニケーションを重ねることで、自己の英語を洗練させることができた」という、ベストマッチと呼べる事例も数多く存在します。

 

2 対応指針

 帰国子女等で、元来英語が得意な新人弁護士が、渉外をやっているとは建前だけの「なんちゃって渉外事務所」に就職してしまった場合には、「単なる翻訳ばかりを任されてしまって、弁護士として成長できない」という不満を抱いてすぐに転職を考えることになります。その点、外資系は、「英語力に秀でた弁護士が、その英語力を活かして弁護士業務に取り組める」「仕事を通じてさらに英語力を磨くことができる」という環境を提供してくれる可能性が高いと言えます。

 ただ、「英語が苦手な若手が、その苦手意識を克服するために挑戦する場」として選んだ場合には(東京オフィスには、中長期的な視点で英語力が伸びるまでの教育コストを投じる余裕がなくて)ミスマッチが生じるリスクも高いです。「教育を受けさせてもらいたい」と願う若手ならば、毎年継続的に新卒採用をしてパートナーに内部昇進するまで育成できる先か、英語が苦手なジュニア・アソシエイトでも時間をかけて育てたいという気概を持った、日本人のシニア・パートナーが存在する先を選べると望ましいです。

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(にしだ・あきら)

✉ akira@nishida.me

1972年東京生まれ。1991年東京都立西高等学校卒業・早稲田大学法学部入学、1994年司法試験合格、1995年東京大学大学院法学政治学研究科修士課程(研究者養成コース)入学、1997年同修士課程修了・司法研修所入所(第51期)。

1999年長島・大野法律事務所(現在の長島・大野・常松法律事務所)入所、2002年経済産業省(経済産業政策局産業組織課 課長補佐)へ出向、2004年日本銀行(金融市場局・決済機構局 法務主幹)へ出向。

2006年長島・大野・常松法律事務所を退所し、西田法律事務所を設立、2007年有料職業紹介事業の許可を受け、西田法務研究所を設立。現在西田法律事務所・西田法務研究所代表。

著書:『弁護士の就職と転職』(商事法務、2007)




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