◆SH2993◆弁護士の就職と転職Q&A Q104「転職理由はどこまで重視されるのか?」 西田 章(2020/02/03)

弁護士の就職と転職Q&A

Q104「転職理由はどこまで重視されるのか?」

西田法律事務所・西田法務研究所代表

弁護士 西 田   章

 

 転職活動中の若手弁護士から「志望動機をうまく説明できずに法律事務所からは採用を見送られてしまったが、転職後のビジョンを語れた企業では最終面接に進めた。」という報告を受けました。緊張せずに短時間でコンパクトにわかりやすく自分の思いを表現するプレゼンテーションの訓練に意味はあると思いますが、「面接受け」を狙い過ぎてしまうと、「そもそも論」としての「自分はこれから先に何をしたいのか?」の軸がブレて、目的を見失ってしまうことが心配されます。

 

1 問題の所在

 採用側としては、優秀さと意欲の両方を兼ね備えた候補者に応募してもらえるのが理想です。そういう意味では、転職理由を起案して、これを上手にプレゼンできることも無駄ではありません。しかし、採用側は、どれだけ熱意をアピールされても、想定業務への能力不足が疑われる候補者にはオファーを出せません。営業職ならば熱意で穴埋めできる部分もあるかもしれませんが、企業法務の世界においては、基本スペックに劣るアソシエイトを教育していくことは「労多くして益が少ない」という見方が多数説です。そのため、応募者の側では、熱意のアピールよりも、何らかの客観的資料に基づいて、「基本スペックの高さ」を示すことが先決です(第二新卒の年次であれば、司法試験の順位を誇れたら一番わかりやすいですが、そこでは実力を発揮できなかったというのであれば、予備試験の順位でも、ロースクールの成績でも、ゼミのレポートでも、弁護士になった後の案件のエピソードでも、何か他の客観的事実に基づいて能力面のアピールをすることが求められます)。

 「なぜ、うちに応募してきたのか?」という内心に関する問いに対しては、まずは、それが「採用側にとっても理解可能なストーリー」で答えることが重要です。それが不自然であると、「口では色々と言っているが、実際には、能力不足や勤務態度が悪くて前職をクビになったのではないか?」という疑念を抱かせることになりますし、「何か不当な目的を隠しているのではないか?」という懸念を与えてしまうこともあります(中小の事務所には「経歴が一流の候補者がなぜうちのような事務所に応募してくるのか理解できなかったが、採用してみたら、事務所に黙って個人事件を受任して隠し銀行口座に弁護士報酬の振り込みを受けていたことが判明した。」という苦い経験に基づき、推薦者がいない候補者の採用を控えるようになった先もあります)。

 他方では、「会うだけ会ったら断ろうと思って面接をしたら、『ご縁』を感じさせられて採用することになった。」という事例も耳にするため、客観要件では合格点に達していなかった候補者を、志望動機が話を弾ませて補欠合格へと導いてくれたということもあるようです。

 

2 対応指針

 中途採用への応募は、「自分を採用して使ってみませんか?」という「持ち込み企画」への審査を受けるようなものです。合否は、企画の優劣によって決まるのであって、落選しても人格まで否定されたように捉えるのは行き過ぎです。

 審査の視点は、「採用後の直属の上司か? それ以外(人事担当等)か?」によって異なります。人事担当者には、予め準備した合理的な想定問答(「御社の事業の成長と共に自分も成長したい」的な将来シナリオ)が役に立ちますが、直属の上司であれば、応答の態度そのもの(頭の回転の速さや素直さ)が重視されます。

 転職理由は、大別すれば、「これまでの業務経験をさらに伸ばしたい」型と、「新しいことに挑戦してみたい」型に分かれます。後者については、「漠然とした憧れ」に留まらずに、未経験ながらも関連する経験に基づいた具体的な関心と適性を示すこと(業務分野を変えるというよりも広げていくイメージを与えられること)が企画に説得力を与えてくれます。

続きはこちらから

バックナンバーはこちらから

 

(にしだ・あきら)

✉ akira@nishida.me

1972年東京生まれ。1991年東京都立西高等学校卒業・早稲田大学法学部入学、1994年司法試験合格、1995年東京大学大学院法学政治学研究科修士課程(研究者養成コース)入学、1997年同修士課程修了・司法研修所入所(第51期)。

1999年長島・大野法律事務所(現在の長島・大野・常松法律事務所)入所、2002年経済産業省(経済産業政策局産業組織課 課長補佐)へ出向、2004年日本銀行(金融市場局・決済機構局 法務主幹)へ出向。

2006年長島・大野・常松法律事務所を退所し、西田法律事務所を設立、2007年有料職業紹介事業の許可を受け、西田法務研究所を設立。現在西田法律事務所・西田法務研究所代表。

著書:『弁護士の就職と転職』(商事法務、2007)




メールで情報をお届けします
(毎週火曜日・金曜日)