◆SH2985◆令和元年改正会社法と社外取締役 岩原紳作(2020/01/28)

令和元年改正会社法と社外取締役

 

早稲田大学法学部教授

岩 原 紳 作

 

Ⅰ 社外取締役設置の経緯

 令和元年改正会社法327条の2は、公開会社であり、かつ大会社である監査役会設置会社で、金融商品取引法24条1項に従いその発行する株式について有価証券報告書の内閣総理大臣への提出義務のあるものは、社外取締役を置かなければならないと規定した。社外取締役の設置強制を求める考え方は、既に昭和50年6月12日の法務省民事局参事官室による「会社法改正に関する意見照会」第三2(3)に現れていた。平成14年商法改正においては、社外取締役の設置強制に関する規定を設けることが、法務省民事局参事官室から提案されたが、経済界の強い反対により、あくまで会社が定款による任意の選択により、社外取締役が過半数を占める指名委員会、監査委員会、報酬委員会を設置する委員会等設置会社(現在の指名委員会設置会社)制度の導入のみがなされた。

 平成26年の会社法改正においては、社外取締役の設置強制制度の導入の是非が大きな争点となったが、その際も経済界の強硬な反対により、会社法自体には社外取締役の設置強制に関する規定は設けられなかった。しかし、金融商品取引法24条1項により有価証券報告書提出義務のある公開会社で、かつ大会社である監査役設置株式会社において、社外取締役が存しない場合には、定時株主総会で社外取締役を置くことが相当でない理由を説明しなければならないことになった(平成26年改正会社法327条の2)。また、そのような株式会社は、「社外取締役を置くことが相当でない理由」を、事業報告書に記載するとともに(会社法施行規則124条2項・3項)、社外取締役候補者を含まない取締役選任議案を株主総会に提出する場合の参考書類にも記載することを、法務省令で定めることとされた(会社法施行規則74条の2第1項・3項)。

 更に平成26年会社法改正の要綱案を決定した法制審議会会社法制部会第24回会議(平成24年8月1日開催)は、「1 社外取締役に関する規律については、これまでの議論及び社外取締役の選任に係る現状等に照らし、現時点における対応として、本要綱案に定めるもののほか、金融商品取引所の規則において、上場会社は取締役である独立役員を一人以上確保するよう努める旨の規律を設ける必要がある。2 1の規律の円滑かつ迅速な制定のための金融商品取引所での手続において、関係各界の真摯な協力がされることを要望する。」という附帯決議を行った。これを受けて、各金融商品取引所は上場規則を改正した(東京証券取引所有価証券上場規程445条の4、名古屋証券取引所上場有価証券の発行者の会社情報の適時開示等に関する規則42条の4等)。その後、金融庁・東京証券取引所において取り纏められたコーポレートガバナンス・コードの改訂により、上場会社は独立社外取締役を少なくとも2名以上選任すべきであるとされた(「コーポレートガバナンス・コード~会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のために~」〔東京証券取引所、2018年6月1日〕原則4-8)。

 

Ⅱ 社外取締役設置の現状

 この結果、2019年半ばにおいては、社外取締役のいない会社は、一部上場会社2,148社中2社、二部上場会社488社中5社に過ぎない。平成31年改正会社法327条の2は、このような現実を追認するものに過ぎないと言えよう。社外取締役が2名以上いる会社は、一部上場会社では2,058社、二部上場会社では403社、社外取締役が取締役の3分の1以上を占める会社が、一部上場会社では1,098社、二部上場会社では210社になる(東京証券取引所「東証上場会社における独立社外取締役の選任状況及び指名委員会・報酬委員会の設置状況」(2019年8月1日)6頁)。

 このように社外取締役を設ける上場会社が増えたのは、上場規則やその前提になるコーポレートガバナンス・コードによる圧力が大きいが、海外機関投資家よる我が国上場会社株式の保有割合が増える中、海外における傾向を踏まえて、海外機関投資家や海外の議決権行使助言会社が、上場会社に独立取締役設置を強く求めたことも大きいと思われる。世界の主要な先進国の立法や上場規則、そして何よりも機関投資家の要求により、上場会社は社外取締役の設置や増員を要請されていることは否定できず(田中亘「社外役員の意義と職責」商事2215号(2019)4頁、7頁参照)、我が国においても同様なプレッシャーが働いているわけである。

 

Ⅲ 社外取締役設置の実際の効果

 しかし本当に社外取締役はコーポレートガバナンスの改善に役立っているのであろうか。社外取締役に会社の業績を改善させる効果があるか否かに関する実証研究においては、我が国やアメリカにおいてはそのような効果を示す実証データはないが、イギリスにおいてはそのような実証データがあるとも指摘されている(田中・前掲4頁以下)。

 従前からの社外取締役に対する批判は、社内事情をよく知らない社外取締役にどこまで有効な働きができるかとか、社外取締役といっても、実際には社長・CEOのお友達が選任されることが多く、お飾りに過ぎなくなるのではという批判もある。しかし社内取締役は、社内事情に詳しくても、そもそも立場上、社長、CEOや他の社内取締役に遠慮して発言できない可能性が大きいうえ、自分の担当領域以外のことは必ずしも詳しくはない可能性もある。社内取締役の方がよいとも言い切れないわけである。

 恐らく、社内取締役のみによる経営にも良いものと良くないものがあるように、社外取締役が参加する経営にも良いものと良くないものがあり、社外取締役の存否や数のみによって経営の良し悪しが決まるものではないのではなかろうか。問題は、社外取締役が良く機能するような条件を備えているか否かにあるように思われる。

 

Ⅳ 社外取締役に求められる役割

 前述したように、世界の主要な先進国においては、社外取締役が取締役の過半数を占めることが求められるようになっている。即ち、アメリカにおいては、監査委員全員が独立取締役であることを要求するサーベンス・オックスリー法301条を受けて、証券取引所の規則が取締役の過半数が独立取締役であることを要求している(The New York Stock Exchange Listed Company Manual §303A.01)。イギリスの上場規則であるガバナンス・コード等も原則として取締役の過半数が独立取締役であることを要求している(The UK Corporate Governance Code B.1.2)。韓国商法は、上場大会社の取締役の過半数が社外取締役であることを要求している(權鐘浩「韓国における社外取締役・監査委員会制度の問題点と最近の動向」落合誠一先生還暦記念『商事法への提言』(商事法務、2004)299頁参照)。OECDのコーポレート・ガバナンス原則(2015年9月)や(G20/OECD Principles of Corporate Governance(2015) ⅣE)、バーゼル銀行監督委員会の「銀行のためのコーポレートガバナンス諸原則」ガイドラインは(Basel Committee on Banking Supervision, Guidelines, Corporate governance principles for banks, July 2015, paras.47~56)、上場会社や銀行には十分な数の独立した取締役会メンバーがいなければならないとしている。

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(いわはら・しんさく)

東京大学法学部第一類[私法コース]卒業後、東京大学法学部助手、東京大学法学部助教授、東京大学大学院法学政治学研究科教授を経て、現在、法制審議会会長、株式会社資生堂社外取締役、森・濱田松本法律事務所顧問、早稲田大学法学部教授、東京大学名誉教授。博士(法学)。主著:『電子決済と法』(有斐閣)、『商事法論集Ⅰ 会社法論集』、『商事法論集Ⅱ 金融法論集(上)』(以上、商事法務)など。

 




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